
読む旅の中で日本を見つめ直す、『星野リゾート10の物語』。
「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」という、松尾芭蕉最後の句がありますが、東京はまたもや緊急事態宣言、「病まずとも見果てぬ旅の夢枕」といった自宅時間を過ごしている編集YKです。
4月は取材で京都や谷中へのプチ旅が続いていた私。「旅づいてきたし、GWは長旅に出かけたい! 連泊でキャンプもいいかも」と完全なる“お外モード”の気分だったので、はしごを外されたショックは大きいのです。。。
そんな中、フィガロで「ホテルへBon Voyage」の連載を持つホテルジャーナリストのせきねきょうこさんから最新のご著書を送っていただきました。その名も『麗し日本旅、再発見! 星野リゾート10の物語』(講談社刊 ¥1,980)。世界中のホテルを旅してきたせきねさんが、日本各地にある星野リゾートのホテルや旅館に出かけ、その魅力をひも解く一冊です。
「せめて読書で旅気分を追体験しよう」と思い読み始めると、ぐいぐい引き込まれて、一気に読破してしまいました。与謝野鉄幹、晶子夫妻が愛した星野温泉旅館という、星野リゾートのスタート地点。軽井沢の自然の中で、ホテルのサステイナビリティの哲学はどのように育まれてきたのか。「ラグジュアリー」の定義を一新するような、ゲスト主体の自由な滞在時間を作った革新性。その場所に根差した文化を深掘りし、ゲストとともにスタッフもまたそれを発見していく様子……。せきねさんがホテルに泊まり、見たもの、味わったもの、感じたものが、鮮やかに目の前に広がります。
なかでも、星野リゾート代表の星野佳路さんとせきねさんの対談ページは、なるほどと膝を打つものでした。1986年からアメリカの日系ホテル企業で働いていたという星野さんは、現地で「何で日本企業のホテルがアメリカで西洋型ホテルを運営しているんだ」と聞かれた際、スタッフが誰も理由を答えられなかったことで、日本独自の価値を伝えることの意義を痛感。それがいまの星野リゾートの開発に活かされているのが、リゾートやこの本からひしひしと伝わってきます。これはホテルに限ったことではなく、高度経済成長、バブル後の停滞、あるいは下落の最中にいる日本人にとって、改めて考えるべき問題なのではないでしょうか? グローバル化がますます拡大する中、「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を思う時、ルーツを探り、文化を学ぶのはとても重要なことに思います。
コロナ禍でビュッフェスタイルを再開した理由や、ふたりが気に入っているホテルも紹介。ページをめくり、美しい料理や景色の写真を観ながら、また見果てぬ夢の旅について思いを馳せるのでした。
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