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いいワインは「土の唄」を歌う?「フリーマンヴィンヤード」のロゼを飲んで思い出したこと。
ワインエキスパートの試験が目の前に迫り、試験勉強をしている夢まで見てしまう今日この頃な編集YKです。複雑な世界の法律、慣れないフランス語やドイツ語の産地、品種名、覚える端から忘れてしまう年号や生産量......と、泣きそうになる毎日。そんなにキツいのにワインが嫌いになるかといえばそんなことはなく、むしろが愛が深まっていくのは、やはりブドウに悪魔と天使が宿っているとしか思えません。
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編集部グルメ班によるワイン談義、夏に向けての特別編も企画進行中ですので乞うご期待!
さて、ブログタイトル冒頭から大きな書き出しです、「いいワインとは何か」。人によって千差万別な答えがありそうですし、時間とともに私の意見も変わりそう(というかこの何週間かでも、本を読んだりYouTubeを見てるうちに主義主張が変わっていたり......)。
しかし、絶対普遍の「いいワイン」の条件を、とあるスパークリングを飲んだことで再認識しました。
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それは、アメリカはカリフォルニアにある「フリーマンヴィンヤード&ワイナリー」のロゼのスパークリングをワイナリーのオーナー、アキコ・フリーマンさんと同座して味わった時。
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「2020 フリーマン ユーキ・エステート ヴィンヤード ロゼ・ブリュット ウエスト・ソノマ・コースト」¥13,750(数量限定) 購入はこちら
今回味わったロゼのスパークリングは、フリーマンヴィンヤードとしては異例のこと。普段はピノ・ノワールの赤ワイン、シャルドネの白ワインをリリースし、スパークリングワインはワイナリー設立20周年の時に出された、シャルドネを使ったブラン・ド・ブランのみ。今回は逆にピノ・ノワールのみを使ったロゼですが、元々はロゼワインを作る予定のブドウではなかったそう。
「2020年は8月に畑の近隣で山火事が発生し、ブドウに煙の香りがつかないうちに例年より早めに収穫を行いました。その結果、通常よりも糖度が低く赤ワインには難しかったため、苦肉の策でスパークリングに仕立てることにしたのです」
苦肉の策、とはいえその作り方は超本格です。ホワイトハウスの晩餐会に何度も供されているスパークリングワインの元醸造責任者クレイグ・ローマーの協力も得て、果実味は豊かに、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵を行うことで酵母も香るゴージャスな雰囲気を纏いました。泡はきめ細やかで、アペリティフから食後まで、じっくりと楽しめる万能性と、酸が口の中を爽やかに駆け抜け、ドライでありながらも香りが確かに余韻をひくという変化を愉しめるのです。
「どういうワインが作りたいか、という質問をよくいただきますが、答えはひとつ。畑とブドウのポテンシャルを最大限に引き出せるワインを作ること、ただそれだけです」
アキコさんはそう言って、静かに笑いました。
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日本人女性として唯一、カリフォルニアでワイナリーのオーナーを務めているアキコ・フリーマンさん。同ワイナリーの「涼風シャルドネ」、「アキコズ・キュべ・ピノ・ノワール」も最高の一本なので、ぜひ味わってみて!
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その言葉を聞いて思い出したのは、開高健の短編小説『ロマネ・コンティ・一九三五』。とある小説家と会社の重役がヴィンテージのロマネ・コンティを飲んで繰り広げる会話劇と回想が、開高健の豪奢な筆致で書き上げられた、読んでいるだけで酔いそうな逸品です。
その中に「ぶどう酒は土の唄なんだ」という一説があります。若き時分に読んだ時、頭の隅に引っかかりながらもなんだか流し読みしてしまったその言葉が、10年以上の時を超えて急に思い出されたのです。そうか、この言葉は土や風土、その時代の環境、つまりテロワールのことを言っていたのか......。
そしてそのすぐ後、敬愛するソムリエの成田忠明さんがこのことを素敵な表現で解釈している動画を見つけて、驚愕しました。
「テロワールが素晴らしい、土が素晴らしいってことはある。でも、土舐めて美味しいってことはない。『これがモンラッシェの石灰か!素晴らしい!」とは言わないですよ。やはり代弁者がいる。この代弁者がシャルドネなんですよ。石灰の養分を吸い上げた雨水の液体がシャルドネの搾り汁。(中略)かつてアンリ・ジャイエが『ブルゴーニュのある種のテロワールというのは、ピノ・ノワール以外は植えてはいけない。ピノ・ノワールはヴォーヌ・ロマネの特定のテロワールの代弁者なのであるから』と言った。つまり、土は神の声であり、それを話すのが葡萄である。これはどう切っても切り離すことができない」
栽培には人の手がかけられ、時間を経過させることでしか得られない味わいがあり、またそこにいたるまでのさまざまな現象と思いが確かにあり......。そんな畑=土の歌を、優れた生産者が作り出すワインは言葉少なに、しかし雄弁に語っていると気付かされたのです。
そうした「土の唄」を聴くために、今夜もワインの栓を抜くのでした。
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