グルメ班のおいしいこぼれ話 Vol.2 フィガログルメ班のワイン談議、その1。

Gourmet 2023.05.01

フィガロのグルメ班が、足を使ってかき集めたおいしいネタを座談トーク! 最新ニュースから、推しグルメまで、食いしん坊なら押さえておきたい耳寄り情報をテーマ別にお届け。第2回は今シーズンに出合った注目ワインについて、本誌グルメ担当のまりモグとFIGARO.jpグルメ担当のYKが語り尽くします。

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photography: AlexPro9500_istocks

まりモグ(以下M) 今回はワイン編、ということですが、ワインと言えば、YKくんが2月からワインスクールに通い始めましたね。

YK(以下Y) そもそも"ソムリエ"に興味を持ったのが、成田忠明さんっていうカリスマに大学生の頃に出会ったのがきっかけで。その後、飲食関係の仕事に就き、「頑張ればソムリエにもなれるんだよな」と思いつつ、1年ちょっとで退職してしまったので......。「いつか資格だけでも」と思いながらずるずる過ごしていたところ、去年フランチャコルタに取材に行ったんですよ。実際にワインを造っている現場を見させてもらい、畑の中にも入って。もともとイタリアっていう国が大好きで、ワインを造っている人たちの朗らかな表情を見たら、ただ酔っぱらって楽しくなるだけじゃなくて、もっとこの人たちの思想に触れたいなと感じたのが大きかったですね。あとまりモグ先輩に「今後は試験範囲がどんどん増えるよ」って言われたのもあります。

M 私は2021年にエキスパートを取ったんですけど、その前に取った人から「どんどん教本で扱う内容の量が増えてる」って言われまして。ワインを造っている国が増えていて勢いもあるから、このまま中国とかが教本に入ってくるようになると、もう覚えきれない。受けるなら一刻も早い方が良いって。結果、私の時と比べると、YKくんの教本は30ページぐらい増えてましたね。たった2年で。

YK なので読者の皆さんも、もし興味があるなら一刻も早く受けたほうがいいですよ!......僕、まだ受かってないですけど(笑)。ただ、テイスティングの授業で思ったんですけど、これまでフィーリングでなんとなく味わっていた部分を言語化するっていうのが、ワインエキスパート/ソムリエの仕事で、それって結構、編集者の仕事と相通じるものを感じるなあって最近ちょっと思っています。

M ああ、確かに。

YK 味わいって個人によっても分かれると思うんですけど、それを言語化すること、表現することがおもしろいなあと感じました。一歩先に、もしかするとまた新しい一歩が何か見つかるのかも......なんて考えながら、超広い出題範囲と闘ってます(笑)。

M 授業、2時間半にも及びますからね......。今後随時、YK君から進捗状況の報告が入るかと思います。さて、話に入る前にふたりの好みのワインについても紹介しておきますね。私は断然フランス産、それもブルゴーニュのワインがいちばん好きです。鼻持ちならないイヤな女と思われそうですが(笑)。あと、冷涼な地域で造られたワインもすごく好き。オーストリアとかドイツとかも好きですね。とにかく「この地域は冷涼なんだろうな」って感じさせてくれるワインが好きです。

YK そう考えると、僕は逆かもしれないですね。最初に感動したの、バローロなんですよね。「こんなにおいしいワインあるんだ!」と、イタリア好きになって。お日様が当たっている土地がやっぱり好きなんですかね。普段飲みするなら、特に赤は、熟成感の強い、フランスだったら「シャトーヌフ・デュ・パプ」が好き。

M ちょっと果実の甘みもあるというか、果実を齧ってるかのような味わいの?

YK 好きですね。

M 好みがまさかの対極にあったっていうことがよくわかりました。YK君が若いからって言うのもあるかもしれない。(編集長代理の)KIMさんも本当は赤が好きらしいんですけど「歳のせいで飲めなくなった」って、聞いてないのに教えてくれました(笑)。あと、その時の体調にもよります。

YK 僕も最近、急にロワールの白とか好きになっちゃいました。

M いいですね。それはもう30代の階段を上ってます。

YM これまで買えなかったものがやっと買えるようになりまして。知らなかったものを知ったっていうのが大きいんですけど、知れば知るほど本当に奥の深い世界だなと。

M ワインについては、語りたいことがいっぱいあるので、今回を皮切りに、何かあるたびに定期的に発信していきたいと思っています。

関連記事:個性が光る! ナチュールのオレンジワイン5選。

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キンプトン新宿東京のお得なシャンパンフリーフロー。

YK 実際にワインを楽しめるアドレスとして注目しているのは、キンプトン新宿東京の2階にある「ディストリクト」。モーニングからアフタヌーンティー、ディナーまで楽しめるとっても素敵なオールデイダイニングなのですが、シャンパーニュのフリーフローが3月から始まっています。ペリエ ジュエのシャンパーニュが飲み放題っていう、なかなか魅力的な企画になっていまして。

M 犬同伴もOKだから、私もたまに行きます。犬飼ってないけど、友人の犬を連れて。

YK テラス席もあって、そこで1日中フリーフローをやっています。野菜と魚介類のバーベキューのプラッターが付いて1時間半で8,500円、2時間だと11,000円と、お酒好きにはたまらない構成でして。プレイベントの際にお邪魔しましたが、もう本当に夢のような時間でした。ちなみにペリエ ジュエのブリュットのほかには、フランス産ワインの赤・白・ロゼ、カクテル、モクテル、ソフトドリンクも用意。僕は他のメニューに目もくれず、ずっとシャンパーニュを飲んでしまいましたが......。

また昨年末には、最上階に「86(エイティシックス)」っていうバーができたのですが、禁酒法時代のニューヨークの"スピークイージー(もぐり酒場)"をイメージしたバーで、新宿の景色を眺めながらカクテルやワインを楽しむことができます。コンパクトなつくりであるものの、小さめのテラスが付いていて、こちらも知っておくと自慢できそうなアドレスです。

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イタリアワインの""を集めた、ビービー・グラーツが日本に参入。

M 銘柄としてのワインの話をしますと、ちょっと前にビービー・グラーツっていうイタリアワインの発表会に行って来たんです。イタリアのトスカーナにあるワイナリーですが、エントリーラインからちょっと高級ラインまで、ひと通りが日本で3月からリリースされたのに際し、そのお披露目だったのですが、それがまさにテロワールとかそういう域の話でしたね。

それこそスクールで学ぶ内容ですけど、トスカーナってイタリアワインを代表する二大産地のひとつで、"スーパータスカン"と言われるワインもあるんですが、それはイタリアの規制を無視して「とにかくいいものをつくろう」っていう姿勢から生まれるものなんですね。D.O.C.G.やD.O.C.の格付けを取るなら、本来この地域では「この品種のブドウで造らなきゃいけない」とか規制があるのですが、そういったのを全部無視した"スーパータスカン"って呼ばれるボルドー的な超高級ワインを造る一方で、ちゃんとテロワールに敬意を払って造った土着品種のワインもあるっていう、柔軟で自由な発想をするビービー・グラーツはすごいなと。

もともとアーティストが立ち上げたブランドっていうこともあって、ボトルもアーティスティックで可愛い。エントリーラインの「カザマッタ」は、赤白ともに4,620円で買えますが、酸味もほどよく、ディナーの相棒としてすごくいい。4万円程するものもあるんですけど、そうなってくると、今度は樽で寝かせたことによる、まろやかさも出てきて、テクスチャーも滑らかになってくる印象です。さすがに普段はそういうのは手が出せないにしても、エントリーラインでも大満足。やっぱりイタリア料理、白ワインは特にレモンの利いたパスタとかにすごく合うかなと思ったので、ぜひお試しいただければ!

YK イタリアワイン、やっぱりいいですよね。フランスほど法制度が厳しくないおかげで使える品種が多過ぎるから「イタリアワイン好き」って一概に言えませんが......。

M イタリアワインが好きな人は、いい人が多いような気がします。なんていうか素直で。自然に対する敬意が感じられるし、あんまり難しいこと考えずに飲めるっていう。もちろんスーパータスカンとかになると、ちょっと頭を使う感じにはなるんですけど。

YK 「陽気な酒」っていうイメージがあるというか。フランスよりも暖かいところで育っているものが多いので、全体的に熟して華やかな感じっていうのはありますね。それにしても、ビービー・グラーツのラベルデザインはめちゃくちゃいいですね。

M 可愛いですよね。自宅用としてはもちろん、お持たせとして持って行っても喜ばれそうです。

関連記事:ワインラバーの憧れ! スーパータスカン、オルネッライアに出合う。

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見つけたら即買い決定! 日常飲みしたいルーマニアワイン。

 お次はルーマニアのワインについて。イタリアと比べるとマイナーなルーマニアワインですが、先日試飲会に行って来ました。

YK ルーマニアっていうのが唯一、東欧の中でもラテン系の民族が住むところだそうで、ワイン造りにおいて思想的にはイタリアやスペインといったラテン系にちょっと似たところがあるそうで。

 元々ワイン造りの歴史は古いそうですが、戦後にソ連の傘下に入って。ソ連に供給するためのワインしか造れなくなったそうです。「安く、とにかく数を出せ」っていう状況下で凌ぎ、そこから80年代後半になって独立した時に、改めておいしいワインを......と復興を遂げた産地。発表会では、ワインと歴史が紐づいているのがおもしろいなあと思って聞いていました。

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試飲会での産地の紹介。畑がどこにあるかを確認すると、ワインはもっと楽しくなります!

YK ヨーロッパでも、ビール圏とワイン圏ってあるじゃないですか。小麦が穫れるのか、ブドウが穫れるのかってことだと思うんですけど、この辺や北欧ではビール圏が多い。そんな中、ルーマニアワインはある程度冷涼な土地で造られているので、酸がキリっとしてるというか。

 そうですね。もったりしてないっていうか、綺麗な味だなと思いましたね。赤はフランスみたいにちょっと繊細な感じのものもあったり。あと、土着のブドウが野性味のあるものもあったりしておもしろいなと思いました。

YK その土地でとれるブドウの品種で、世界を旅する気分になりますよね。

M うんうん、思いを馳せるみたいな。

YK ルーマニアのブドウで代表的なのが「フェテアスカ・ネアグラ」、そして「バベアスカ・ネアグラ」。「フェテアスカ」というのは、"乙女"といった意味なんですよね? 個人的に気に入ったのは、「カステル・ボロヴァヌ ノヴァック2020」。ノヴァックっていうのが、カベルネ・ソーヴィニヨンの味わいを目指して交配された地元産品種だそうで。生肉というか、鉄分を感じさせる野性味あふれる香りがするんだけど、めちゃくちゃ果実味がすごくて。綺麗な淡いルビー色で、ポテンシャルが高いなあって思いました。でも価格帯が税込で2,800円っていう。これは見つけたら絶対買いですよね。

 なかなか市場で売られてないっていうのが、これからの課題ですかね。特に指名買いになってくると。私はロゼの「ネデーア ロゼ 2019」がすごく気に入りました。ボトルもスタイリッシュだったし。食べ物を邪魔しないほど良いドライ感とロゼの華やかさもあって。

YK 全般的にフレッシュな印象が、ロゼと白にありました。

M ちょっと個性的な魅力がありましたね。試飲の前に、まずルーマニアの歴史と地理を勉強して、どこに何の畑があるといった地図を見せてくれたのが有難かったです。いきなり飲むより、その土地のことを知ってから口にすると一層おいしく感じるというか、だからこういう味なんだ......と理解が深まるので。

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オーストラリアの大自然の恵みを、ワインを通じて享受する。

YK もうひとつ行ってきたのが、南オーストラリア州ワインの試飲会です。いわゆる"ニューワールド"って言われる地域のワインなんですけど。南オーストラリアって、実は優秀なワインの産地と言われておりまして。「ペンフォールズ」なんかが代表的で、すごくいいシラーズが採れる。

M オーストラリアではなぜか"シラーズ"って言いますね。他の地域だとシラーだけど、なぜかシラーズ。

YK 今回試飲したのは、「ヒザー&ヨン」というワイナリー。サステイナビリティだったり、自然感っていうのを強く打ち出したワイナリーでした。新世界系のワインの中でも、さらに新世代の生産者がどんどん出てきている中で、ものすごく個性的な味わいを作る人たちが増えているなと思わされたのがこのメーカーで。シラーとロゼが印象的でしたね。特に「シラー2021」の方は、香り嗅ぐと一瞬「コーヒーかな?」っていうぐらい、ちょっと独特のローストした感じがあったりして。でも、そんな香りの強さから想像するよりもずっと柔らかいタンニンだったり、ミネラル感みたいなのがあって。本当にびっくりする味でした。

M 先日、笹塚にできたシドニースタイルの「ビストロ イズミー」に行って来たんですけど。現地で修業されていた泉シェフ曰く、オーストラリアって結局郷土料理がないと。でも、いろんな人がいて、それをミックスさせるのが上手らしく。シェフも何料理とくくられるのは嫌だからと自由に料理しているのですが、店でオーストラリアワインを選ぶ理由も、規制に囚われずに自由な発想でつくっているワインが多いからだとか。その点にすごく惹かれたそうで、自分の料理にはオーストラリアワインを"合わせる"とか"マリアージュ"とかじゃなく、"寄り添わせている"と表現されていました。好き嫌いはあると思うけれど、オーストラリアワインを気に入る人は少なからずいると思います。

そしてオーストラリアのワイナリーって、さっきYKくんが言った通り、環境にすごく配慮している点が、素晴らしいなあと思うんです。作り手の自然を崇拝している感じがひしひしと伝わってきて。自然とともにある国ならでは、といった魅力があります。たしかオーストラリアって、食べ物とかも自給率が200%とかだそうで。外来生物が入って来ないように、フォアグラも生では仕入れられないと聞きました。これまでオーストラリアにあまり興味がなかったけれど、食べ物とかワインをきっかけに興味を持ちましたね。入り口がそこっていうのが、食いしん坊の運命なんですけど(笑)。

まりモグ/幼少期から北京を拠点にアジア、欧米、太平洋の島々などを旅し、モンゴルの羊鍋からフランスのエスカルゴまで、さまざまな現地の料理を食べ歩く。特に香港は、多い時で年4回のペースで通うほどの"香港迷"。食べ過ぎ飲みすぎがたたり、28歳で逆流性胃腸炎を発症。ワイン好きが高じて、2021年にJ.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

YK/大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。好きなものはバーとトラットリア。ただいまワインエキスパートを目指して修行中。

 

text: Eri Arimoto

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