Editor's Blog

冷戦後の時代を切り拓いた『007 / ゴールデンアイ』とMI6。

『007』を観たおかげで酒、時計、ファッションアイテムに携わる編集者になったと言っても過言ではない編集YKが、今回再上映が決定した10作品を徹底レビュー! 今回は映画第17作となった『007 / ゴールデンアイ』と、ジェームズ・ボンドが所属するMI6について語ります。

『007 / ゴールデンアイ』(イギリス公開1995年11月24日/日本公開12月16日)

ソビエト連邦の崩壊前――。ソ連の化学兵器工場に潜入、爆破する任務に赴いた006=アレック・トレヴェルヤンと007=ジェームズ・ボンド。爆弾を設置することには成功したがアレックは敵のウルモフ大佐に捕まり、ボンドの目の前で頭を拳銃で撃たれてしまう。ボンドはやむなく彼を見捨て、爆弾のタイマーを6分から3分に縮めて工場を爆破、基地内にあった飛行機を奪取して脱出を果たす。

9年後、ソ連は崩壊し、世界は冷戦後の混乱に直面していた。ボンドはモナコで、元ソ連空軍パイロットで現在はロシアの犯罪組織「ヤヌス」のメンバーであるゼニア・オナトップをマークしていたが、彼女はロシア軍将軍となったウルモフとともにNATOの最新戦闘ヘリを奪取し逃走、そのヘリコプターでロシアの秘密宇宙基地を訪れる。

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ゼニアとウルモフは査察を装い、「ゴールデンアイ」の起動キーを入手する。それは旧ソ連時代に開発された、小型核爆弾を用いた電磁パルスを宇宙上から照射して地上を攻撃する、人工衛星を利用した秘密兵器だった。基地の職員と兵士を抹殺すると、ウルモフは証拠隠滅のためにゴールデンアイの目標を基地に設定。結果、宇宙基地は消滅するが、女性コンピュータ技師のナターリアだけは奇跡的に生還し、脱出に成功する。

この様子をロンドンから衛星中継で確認していたボンドは、ゴールデンアイとヤヌスの手がかりを求めてロシアのサンクトペテルブルクへ飛ぶ。ボンドはCIA、元KGBのマフィアの仲介を経てゼニアと接触、彼女を捕らえてヤヌスの幹部に接触するチャンスを手に入れる。しかし、そこに待っていたヤヌスの首領は、9年前に死んだはずの006=アレックだった……。

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冷戦後の新時代を切り拓いた、シリーズの転換点

『007/ゴールデンアイ』はソビエト連邦の崩壊、初代プロデューサーであるアルバート・R・ブロッコリの逝去、1990年代に入ったことなどを受け、これまでのシリーズから大幅な刷新を行った、シリーズの大転換点ともいうべき作品である。ボンドが所属するMI6の本部も近代化され、シリーズ冒頭の象徴とも言えた上司Mの伝統的な執務室は、大きな画面やコンピュータ機器が並ぶ近代化されたミーティングルームに変わり、Mも男性から女性に変更された(後述)。

90年代に入り、これまでのシリーズで見られた女性蔑視的な描写にも内省的な視点が加わる。Mによる「あなたは女性蔑視の太古の恐竜で冷戦の遺物」、ドレスをからかわれたミス・マネーペニーの「それってセクシャルハラスメントよ」というセリフにも顕著だ。また、本作のヒロインであるナターリアはプログラマーとして物語終盤までボンドとともに活躍。前作『消されたライセンス』のヒロインだった麻薬取締局のパメラ・ブービエとともに、従来の“お姫様的ボンドガール“像を脱却、ショートカットの行動的なヒロイン像は、その後のシリーズでも踏襲されていくことになる。

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5代目ボンドとして抜擢されたピアース・ブロスナンは1953年、アイルランド生まれ。82年にアメリカで放映されたドラマ『探偵レミントンスティール』で世界的に人気を博す。

ロジャー・ムーアが3代目ボンドを引退した86年、製作陣は知名度が高く007の容姿にピタリとハマった33歳のブロスナンにオファーを投げかけた。『探偵レミントン・スティール』は低視聴率を理由に打ち切りとなっていたが、ドラマスタッフはこの事態を受け、ブロスナンとの契約がまだ残っているのを理由にドラマシリーズの再開を決定。結果、ブロスナンの起用は見送られ、4代目ボンドにはダルトンが起用されることとなった。ダルトン主演の2作品放映後、007シリーズの著作権をめぐる裁判が長期化し製作が一時中断、ダルトンは降板を決意しついに94年、ピアース・ブロスナンが5代目ボンドとして登場した。

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007とMI6

007=ジェームズ・ボンドが所属しているのが英国秘密情報部(Secret Intelligence Service/SIS)であり、第一次世界大戦中に戦争情報部(Directorate of Military Intelligence/DMI)の6号室として編成されたことからMI6と呼ばれるようになる。ナチスのエニグマ暗号機による暗号通信を解読する数学者たちを描いた映画『イミテーションゲーム』(2014年)では、秘密情報部に招聘された学者たちは「情報部はMI5までしか存在しないはずだ」と語っている。暗号解読や地図作成、国内の治安維持を担当するMI1〜MI5とは異なり、国外でのスパイ活動をメインに行動するためその存在は1994年まで公式には発表されていなかった。(ちなみに戦争情報部自体は対戦中、MI19まで部門を増やしている)

原作者イアン・フレミングは第二次世界大戦中、海軍秘密情報部に所属しており、スペインの枢軸国側参戦を監視する「ゴールデンアイ作戦」を立案、指揮するなど実際に多くの諜報活動に携わっていた。戦後、フレミングは自身の経験を基に大胆なアレンジを加え、007が所属する架空の秘密情報部を創り出していく。

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原作小説やそれを基にした映画内の設定では、壮年の男性指揮官「M」のもと、幕僚総長でボンドの親友のビル・タナー、Mの秘書マネーペニー、装備開発主任の「Q」が007の活動をバックアップする。 MI6の本部は「ユニバーサル貿易」の建物内に設置され、ボンドをはじめとする諜報員たちはその社員を装って世界中へ派遣されている。映画『007は二度死ぬ』では潜水艦内に移動式の司令室を備え、『私を愛したスパイ』ではエジプトのアブシンベル神殿内に秘密基地があったりと、その機動力も抜群だ。

1994年に情報開示が行われ、MI6本部ビルや歴代長官の名前、歴代長官がコードネーム「C」と呼ばれていること、イギリス保安局(MI5)の長官が1992年に女性であったことなどが公表された。そのため本作『ゴールデンアイ』から設定が一新され、MI6の外観は実際の本部外観を使用、Mの役には冷戦後の新しいリーダー像を体現すべく、女優のジュディ・デンチが登用された。

ちなみにMI6の第15代長官を務めたジョン・サワーズは公式見解として「任務は指導者に情報を提供することで、軍事工作はしない」「(007のような)殺しのライセンスは無いし、欲しくもない」と発表している。

『BOND60 007 4Kレストア』
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www.tc-ent.co.jp/sp/BOND60_007_4k_jp
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