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「ワインの味はグラスで変わる」? リーデル青山本店で体験した驚愕の事実とは。

編集者が訪れたワインの試飲会、セミナー、生産者の来日イベントなどをレポート! ワインを取り巻く「いま」をお伝えします。


「グラスでワインの味が変わる」という話、聞いたことはないだろうか? 実はソムリエ/ワインエキスパートのテイスティングの試験には、ワインの色合いや香りの特徴を答える他に、「このワインはどんな温度帯、どういう大きさのグラスで提供すべきか?」という問題が設けられている。だが、実際のところワインの味わいはグラスでどれくらい変わるのだろうか? それを確かめるべく、リーデル青山本店で開催されているグラステイスティング・セミナーに参加した。

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リーデル青山本店に設けられたテイスティング用のカウンター。奥には大型スクリーンを備えたテイスティングルームもあり、生産者の来日セミナーなどで使用されることも。

今回使用するのは、ダイヤモンドシェイプが美しい「リーデル・ヴェローチェ シリーズ」。薄手のボウルと繊細なステム(持ち手)を持つグラスは、持ち上げてみると驚くほど軽い。

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2022年に発売された最新シリーズである「リーデル・ヴェローチェ」。円形でなくあえて角度をつけることによって、液体と空気の接地面積を増やしているという。左上から「ソーヴィニヨン・ブラン」、「シャルドネ」、「ピノ・ノワール/ネッビオーロ」、「カベルネ/メルロ」 ¥11,000(2脚セット)

写真の左下に写っている厚手のグラスはリーデルではなく、ごく一般的に家庭にあるようなゴブレットタイプのグラス。これらを比較することで、ワインの味わいがいかに変わるかを確かめていく。まずはスッキリ、酸味豊かで軽やかなタイプの白ワイン、ソーヴィニヨン・ブランをリーデルのグラスに注ぐ。この時、ワインはグラスがいちばん膨らでいる部分よりやや下まで注ぐのがポイントだという。

飲む前に、まずはグラスの中に完全に鼻を突っ込むようにして最初の印象を感じ取り、次にグラスの側面にワインを添わせるようなイメージでスワリング(=グラスを回転)し、グラスに張り付いた膜からもワインの特徴を感じるられるように香りを取っていく。グレープフルーツのような爽やかな柑橘類に、草原を吹く風のような草とハーブの香り......。そうしてひと口飲んでみると、爽やかな酸味が喉を潤し、余韻に心地よい苦味が漂う。

ところが、そのグラスに入ったワインをゴブレットに移して香りを嗅ぐと、柑橘感はあるものの、先ほどのような鮮明な感覚はなく、そして草のようなニュアンスもぼやけている。口に含むと、刺々しい酸味と、先ほどまではなかったえぐみのような感覚がグッと口の中を駆け巡る。これは一体、どうしたことだろう?

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ひと口飲んだソーヴィニヨン・ブランのワインをゴブレットに移した様子。

写真をご覧いただくと、ゴブレットグラスはグラスの膨らみ部分より、飲み口の部分が開いているのがわかるだろうか。これによって、ワインに溶け込んだ香りは広がり、その特徴を捉えにくくなる。

一方でリーデルを見ると、どのグラスもワインの膨らみ部分より飲み口の大きさが閉じていることがわかる。これによって、ワインの香りを一方向に集中させて逃さず、繊細な香りまで拾えるようになるというわけだ。

また、ほぼ同じ容量のワインを注いでいるはずのに、液面がグラスの半分以上まで上に来ている。このことが、味わいに決定的な影響を与えてしまうのだという。

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左はリーデルのグラスを使用した時、右はゴブレットで飲んだ時。姿勢は明らかに変わっている。

グラスのステムを握ってワインを口に運ぶ時、液面を口に入れるためにはグラスを持ち上げ、顔は上に持ち上がっている。これによって舌も持ち上がり、ワインは自然な流れで口を素早く通り抜けていく。

ところがゴブレットやコップのような形状の場合、持ち手を傾けるとこぼれてしまうため、自然と顔は下を向き、液体を口から迎えにいくような形になる。ワインを飲むためには啜らなければならず、液体は口いっぱいに広がるため、口の中の酸味や苦味、えぐみを感じやすい場所にたっぷりと広がった状態でワインが当たることに......。

また開口部が開いているため、ワインを飲むには口を開かねばならず、口に入る液量はさらに増える。これがワイングラスで飲んだ時には感じなかった違和感の正体なのだ。

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そもそもリーデルがワイングラスのトップメーカーになったのも、この違和感を覚えたある出来事があったから。

リーデルは1756年、アマデウス・モーツァルトが活躍したのと同時代にオーストリアのウィーンで誕生した、創業265年を超えて一族経営を続けている老舗企業。創業当初はガラス工房としてスタートしたが、1958年、9代目当主となるクラウス・リーデルが各地のワイン生産者に美しいシェイプのワイングラスをプレゼントしたことが、彼らの運命を決定づけることになる。

ブルゴーニュ、イタリアのワイン生産者からは美しいグラスを称賛されたが、ボルドーの生産者からは「このグラスで飲むと、あまりおいしさや香りを感じない」というクレームがあったのだ。そこでクラウスはボルドーのワインに合うグラス形状の研究を始め、翌59年、新しいワイングラスのシェイプを完成させる。これは「ブドウ品種に合わせたワイングラス」という、まったく新しい発想のスタートでもあった。

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1958年、59年に作られて以来、形状を変えずにラインナップされている「ブルゴーニュ・グラン・クリュ」グラス(左)と「ボルドー・グラン・クリュ」グラス。「ソムリエ」 ブルゴーニュ ・グラン・クリュ ¥30,250、「ソムリエ」 ボルドー ・グラン・クリュ ¥30,250

73年には、世界で初めてブドウ品種ごとにグラスのラインナップをシリーズ化して発売。以来、新しいグラスを開発する度に「ワークショップ」と呼ばれる工程を実施している。これは品種ごとに作った試作品のワイングラスをワイン生産者、ソムリエなど大人数の専門職の人々と試飲を重ね、最後まで選ばれ続けたグラスの形を採用するという、世界でもリーデルだけが実施しているという規格のこと。品種が同じでも生産地や熟成方法でまったく異なる風味を持つようになるワインに対応するため、さまざまなバリエーションが生まれているのだ。

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では、リーデルでも合わないグラスでワインを飲んでみたら......? その答えを、ぜひご自身で確かめてみてはいかがだろうか。リーデル青山本店では、開催予定日に事前に予約すれば1時間のテイスティングセミナーの受講が可能だ。ベーシックコースでは4種の「リーデル・ヴェローチェ」を使用し、ワインがどのように変化するかを確かめられる。また、コースによっては使用した4脚のグラスを持ち帰ることも可能! 22000円相当のワイングラスセットを、セミナー付きで16500円で入手できるのだから、この上ないお得感だ。ベーシックセミナー以外にもシャンパーニュグラスセミナー、日本酒グラスセミナー、クラフトビールグラスセミナーなど、心惹かれるグラス付き講習会が目白押し。ワインの香りとおいしさを何倍にも引き出してくれるグラスを、ぜひ手に入れてみて。

リーデル青山本店
東京都港区南青山1-1-1 青山ツインタワー東館1F
tel: 03-3404-4456
営)12:00〜19:00(月〜金)11:00〜18:00(土・祝)
休)日、年末年始
テイスティングセミナーの予約は
www.riedel.co.jp/shop/aoyama
編集YK フィガロジャポン編集部、WEBグルメ担当。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。好きなワインのタイプはイタリアをはじめとした日当たり良好系。

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