トレンチコート、着こなしに差がつくポイントは?
ある日電車に揺られていてふと顔を上げると、前の席に横並びで座っている女子が4人ともベージュのトレンチを着ていた。そんな季節になりました。
アウターを着た方がいい気候だけれど、厚手というわけにはいかない。
カジュアルなアウターを着るには忍びない。
そんな時に便利なのが、適度にフォーマル感もあってちょうどいい厚みの生地で作られているトレンチ。
それは重々承知しているのだが、皆と同じ感じはいやだ!埋もれたくない!と、自分は消費社会にどっぷり浸かりながらあがくタイプ。
トレンチの魅力に惹かれつつも、ほかと一線を画したい。
というわけで私が持っているのはこちら。
2006年春夏のジュンヤ ワタナベのもので、前のボタンは飾りでフック開閉式なうえ、襟が何重にもなっていたり、ベルトが何本も付いていたりする。重量感があり、周囲に金属のバックルを振りかざしたり、ガチャガチャ音を立てたりと大騒ぎなのだが、パンク風味があってそんじょそこらの代物とは違うはず、と思い込んでいる。
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こうしたひと味違うトレンチ、新作にもないかと探してみた。
ルイ・ヴィトンのものはノースリーブで、サイドにスリットが入っている様子。ルックブックのようにスポーティなフーディをレイヤードしても良さそう。袖がないのでアウター機能は低めかもしれないが……
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先日発表されたグッチで「ハッキング」された2016-17年秋冬バレンシアガ。グッチでは取り上げられなかったが両肩を落としたトレンチも象徴的だった。FALL 21 コレクションでは、その進化形が発表されている。
右肩だけ落としたデザインで、袖口は機能せず、袖のサイドから手を出す仕組み。一見ベーシックだけど、あれ?何か違いますよね、と着方で差を付けているようなことになる。
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いやしかし、どれだけデザインが凝っていても、トレンチだと認識できるのがベーシックアイテムゆえの強さ。やはり結局は皆と同じようにトレンチを着ている、とみなされるのではないか……
そう考えあぐねていた時、以前観たフランソワ・オゾン監督の映画『17歳』(2013)を思い出した。
「若くて美しい」という原題のとおり、若いって無条件にいいよね、という事実を突きつけられる作品なのだが、最後に当時60代後半のシャーロット・ランプリングが主役の17歳の美少女と対峙する場面がある。それまでマリーヌ・ヴァクト演じる少女のまぶしさに打ちのめされて自分が若さを失ってしまった事実に哀しくなっていたところに、シャーロット・ランプリングのかっこよさが年を重ねた方がいいじゃん!と勇気づけてくれるのだ。彼女の品格、仕草、その佇まいが若さへの執着を一気に取っ払ってくれるのである。
そんな彼女が濃紺のドレスに羽織っていたのが、くったりしたベージュのトレンチだった。
何でもないトレンチを着ていても、魅力的な人物が着ていれば際立つのである。シャーロット・ランプリングなら、トレンチがあふれるいまの東京の街を歩いていても、はっと目を引くに違いない。
ということで、トレンチを着るには、デザインを吟味するとともに、自分磨きもせねばなりませんね……と思った次第です。
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