栗山愛以の勝手にファッション談義。

ネットフリックスの「ホルストン」を振り返る。

ネットフリックスで「HALSTON/ホルストン」を観た。
ユアン・マクレガー主演で、「ドラマ界の帝王」(と、以前専門家が評していた)ライアン・マーフィーが手がけるファッションデザイナーの伝記もの、という待ちに待った作品。5月の配信直後、あっという間に完走した。すぐにでも感想を述べたかったところなのだが、これは本当に史実に沿った話なんだろうか、と気になり、アマゾン プライム ビデオで見られる2019年のドキュメンタリー映画『ホルストン』も視聴(ちなみに懐かしの元ブロガー、タヴィ・ゲヴィンソンちゃんが出ている)。各国ファッション誌の関連記事などにも目を通しているうちにすっかり時間が経ってしまった。

ということで、このたびは満を持して(?!)「HALSTON/ホルストン」、というか、デザイナーのロイ・ホルストンについて、個人的に気になったことを発表したい。
これから取り上げることはドラマのネタバレ的な面もあるが、史実なのでファッション好きなら知っておくべきことなのかもしれない。恥ずかしながら私はドラマを見るまでホルストンって誰でしたっけ……という感じだったのだが……

まずは、1960年代末、バーグドルフ・グッドマンから独立して、自身のサロンを構えた頃の話。ある日ホルストンは鏡の前で何度もポーズをとり、髪をなでつけ、黒いタートルネックを着る。そのスタイルが以降彼のトレードマークとなるのだ。

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ちなみに、実際のホルストンは面長ですらっとした体型だったようなので、ぶっちゃけユアン・マクレガーは似ていない。が、ドキュメンタリーの映像と見比べるとねっとりした話し方や仕草はそっくりだった。研究したんだろうなあ。

で、何が気になったかというと、デザイナーも自身の見せ方を研究するんだな、ということである。人前には極力出ず、作ったモノで判断してください、という職人タイプもたくさんいるが、ホルストンの場合はデザイナーがカリスマ性を持ち、あの人が作ったモノなら、いいと言うモノなら、と思わせるやり方だ。そういやカリスマデザイナーと言われる人たちはあんまりころころ髪型や服装を変えず、スタイルを確立している人が多いような。皆人知れず試行錯誤して見つけ出したのだろうか。

そのカリスマ性に関係しそうな要素がもうひとつあった。華やかな交友関係だ。ライザ・ミネリやアンディ・ウォーホルといったスターたちと親しくし、スタッフには個性豊かな人材を揃えていた。その中でとくに目を引いたのがエルサ・ペレッティである。

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エルサは当初モデルとして関わっていたが、次第にジュエリーデザイナーとして頭角を現し、ホルストンの紹介でティファニーに入社。以降の活躍は言うまでもない。エルサ役のレベッカ・デイアンが好演していたこともあり、かなり魅力的な人物のように思われた。ドキュメンタリーで取材を受ける晩年のエルサには貫禄が出ていてちょっと驚いてしまったが。

ともあれ、ホルストンの周りには他にもプラスサイズの迫力のある体型でウォーホルにも気に入られていたパット・アストなど、パンチのあるかっこいい人々が集っていた。いけている人たちと交友がある、というのも、カリスマ性につながる重要なポイントになったに違いない。

次はファッションビジネスについて。

まとめると、ホルストンのビジネスは次のような感じだったようだ。

1973年 複合企業のノートン・サイモン社に事業を売却、ライセンス経営開始
78年 オリンピックタワーにオフィスを移転
82年 J.C.ペニーと提携 服と家具をデザイン
83年 ノートン・サイモンがエスマーク社に、翌年エスマーク社がベアトリス・フーズに買収される。ベアトリスと折が合わず、ブランドから去る

ノートン・サイモン社の要望もあって75年に初の香水を発表。香水はボトルをエルサがデザインしたすてきな仕上がりではあるのだが、市場の盛り上がりを見てはジーンズを作れ、あれやれ、これやれ、と言われ続けることになる。

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企業の買収劇に巻き込まれ、ホルストンはブランドから離れざるを得なくなり、デザインチームがホルストンの名前でコレクションを発表する、という哀しい結末を見ていると、服を作るために資金は必要だが、豪遊するほどリッチにならなくてもよかったんじゃないか、と思ってしまう。「ビジネスもデザインのうち」と言って自社で経営を行うコム デ ギャルソンはやはり正しく、ブランドの精神を反映させたビジネスでないとものづくりに妥協を強いられ、破綻に向かっていくことが多いのかもしれない。

さて、最後はドラマを見終わったあとに記事を読んでいて気になったことである。
某海外誌サイトで、トム・フォードが「18歳の時ホルストンに会ったことがあり、家にも行った」「ホルストンの服はシンプルだが肌触りがよく、センシュアルだ」と語っていて、ホルストンがトム・フォードへとつながることを知ったのだ。

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ホルストン自身もシンプルで、洗練されていて、着心地のよい服を目指していたよう。さらに、鏡張りの壁で赤い絨毯や家具を備え付けたオリンピックタワーのオフィスや、建築家ポール・ルドルフがデザインしたスタイリッシュな自宅のインテリアはトム・フォードの世界観にぴったり。トム・フォードは2019年このホルストンの自宅を購入したらしく、それほど影響を受けているのだった。70年代にトム・フォード的美意識を持った人がいたとは。本当に勉強不足であった。

というわけで、私としては以上のことが主に心に残ったのだが、他にもジャクリーン・ケネディ着用の帽子を手がけたとか、1973年にアメリカとフランスのデザイナーたちが集う「ベルサイユの戦い」というチャリティーショーが行われてそれに参加したとか、人種体型問わず多様なモデルを起用したとか、ゲイカルチャー、ディスコカルチャー、エイズの問題など掘るべきポイントはたくさんある。ドラマとしてのストーリー展開もおもしろいので、ぜひともチェックしてみてください!

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栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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