栗山愛以の勝手にファッション談義。

ドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』で見たファッション

話題の"クワイエット ラグジュアリー"を考えた。

昨年から今年にかけて、“ドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』(原題『Succession』U-NEXTで独占配信中)がシーズン4でいよいよ終わる”という話題が海外メディアを中心に盛り上がっているのが気になっていた。そんなに面白いのかしらと遅ればせながら試しに観てみたところ、あれよあれよという間に追いつき、今ではすっかり毎週月曜の新エピソード配信を楽しみにしている(日本時間5月29日、最終話配信予定)。

ストーリーは、スコットランド出身のローガン・ロイがアメリカに渡って築いた巨大メディア帝国の経営者継承をめぐって子供たちがバトルを繰り広げるというもの。

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ローガンはFOXニュースを率いるルパート・マードックがモデルだと言われていたりして、現代アメリカの情勢をリアルに反映しているような展開に思わずはまってしまうのだが、シーズン4配信開始あたりからローガンの子供たちの装いを取り上げる記事をよく見かけるようになった。それらには、もれなく「クワイエット ラグジュアリー(Quiet Luxury)」という言葉が添えられている。

私としたことが登場人物たちのファッションはノーマーク! あわてて記事を読みあさると、「クワイエット ラグジュアリー」には以下のような条件があるらしい。

・クラフツマンシップが駆使されていて上質
・エレガントで洗練されていて、タイムレスでミニマムなデザイン
・ロゴがない
・ニュートラルなカラーパレット

よく「ステルス ウェルス(stealth=内密 wealth=富)」も同様の意として並列され、最近では「スキー中の当て逃げ」で訴えられたグウィネス・パルトロウのハイブランドづくしなのにニュートラルな印象の法廷ファッションもその例とされている。

では、ドラマでは具体的にどんな感じなのか。
衣装デザイナーのミシェル・マットランドのインタビューや、ドラマの衣装ブランドを独自リサーチして(?)紹介するインスタグラムのアカウントを参照すると、中でも、次男ケンダルのファッションが一番わかりやすい気がする。たとえば、Tシャツにスエードのトラックジャケット、スリムジーンズといったカジュアルな感じなのだが、実は全てトム フォード。そしてキャップはカシミア混のロロ・ピアーナとか。

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いずれも落ち着いた色合いの無地で、これ見よがしなロゴは見当たらない。

経営者継承権争奪に参戦しているロイ家の長女シヴも、いつもシックなパンツスーツだったりで、たとえばザ・ロウとかを着ていてもおかしくない趣味趣向を持っている。最新コレクションのスーツも似合いそう。

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不覚にもこうした装いをスルーしてしまっていたのは「クワイエット」だからなのかもしれないが、だんだんキャラ設定も関係している気がしてきた。登場人物たちの中に善人はおらず、皆口が悪くシニカルな姿勢。個性豊かでよくしゃべる彼らの掛け合いを見る分にはとっても楽しいのだが、決して憧れの対象にはならない。それで「すてき、参考にしたい」という心境になかなか行き着かなかったような。

さらに、「クワイエット ラグジュアリー」的なテイストは別に目新しくはない。ザ・ロウを筆頭に毎季そうしたスタイルを提案しているブランドはいくつか存在するし、ロイ家はプライベートジェットも所有するくらいの超富裕層だが、そのクラスの人々はたとえばこれまで取り上げてきたカーダシアン家Netflix「きらめく帝国~超リッチなアジア系セレブたち~」シリーズの出演者たちのようにきらびやかに着飾るタイプばかりではないだろう。お金持ちというわけではなくても、これまで「エフォートレス」とか「ノームコア」とか言われてきたような方向性が好きな人はつねに一定数いると思う。今改めて脚光を浴びているのは、コロナ禍のステイホーム中にそれまでの衣食住を反省し、「わざわざトレンディなアイテムを取っ替え引っ替えしなくてもいいよね」「質の良いものを厳選したいよね」と思い直す人々が増えたから、とかなのか。

長持ちするのでサステイナブルだし、身につけていると気分も上がるし、少しでも自分を良く見せてくれるような気もするので、「ラグジュアリー」には大賛成だ。しかし、「クワイエット」だと、ドラマで私が服装を見逃してしまったように、かなりの人間力がないと活きない気もする。それにやっぱり私はパンチのあるデザインが好きだし、着ていて楽しい。

そんなこんなで、世の中がどんな流れになっても私は当分「ラウド」でいってしまうような気がするのでした。

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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