栗山愛以の勝手にファッション談義。

Apple TV+で話題騒然の『ニュールック』で学んだこと。

4月3日、Apple TV+で『ニュールック』の最終話が配信された。クリスチャン・ディオールを中心としたファッションデザイナーたちが第二次世界大戦をどう生き抜き、ものづくりをしていったのかを描くドラマである。

物語が進むペースが遅すぎるとか、肝心の服がちゃんと描かれていないとか、豪華キャストがいまいち活かされていないとか、あんまり芳しくない批評をよく見かけるが、ファッション好きには避けては通れない内容。パリ・ファッション・ウィーク取材を挟んで遅れをとってしまいつつ、先日ようやく完走した。個人的には皆フランス語訛り(?!)の英語を話すのに一番違和感があったが、ネイティブの方はどう感じるものなのか。どうやら「そのおかげで過剰な演技になっている」という意見はある様子......。

ともあれ、史実をベースにしているとはいえ架空のキャラも出てきていたようなので鵜呑みにはできないが、改めて映像で見るとそうだったんだ、という気づきがいくつかあった。そこで今回は『ニュールック』で学んだことを3つ取り上げてみたい。

まずはクリスチャン・ディオールの妹、カトリーヌの人となりについて。

よくディオールの現クリエイティブ ディレクター、マリア・グラツィア・キウリが手がけるコレクションでも着想源として名前があがるため、もちろん存在は知っていた。「ミス ディオール」とは彼女のことで、1947年発売の初の香水にその名が付けられ、49年に制作された同名のドレスは2022〜23年に東京都現代美術館で開催された「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展で実物も鑑賞している。家族で幼少期を過ごしたフランス・グランヴィルの別荘の庭の手入れをし、花を売っていた彼女については、ムッシュ同様花を愛した強い女性、くらいのイメージだったが、彼女の「レジスタンスのメンバーだった」というプロフィールをよく理解できていなかった。ドラマによれば、戦時中、ナチスに対抗する運動家として告発され、収容所で拷問を受けていたのだ。そんな壮絶な人生だったとは。『ゲーム・オブ・スローンズ』で名を馳せたメイジー・ウィリアムズが好演していたのだが、これからカトリーヌを見る目が変わりそうだ。

240416_itoikuriyama_2.jpg

---fadeinpager---

2つ目は、同時代にスターデザイナーたちが切磋琢磨していたこと。

ドラマに登場するのは、クリスチャン・ディオール(1905〜57)をはじめ、ガブリエル シャネル(1883〜1971)、ルシアン・ルロンの元でクリスチャンと共に働いていたピエール・バルマン(1914〜82)、1937年にパリで初コレクションを発表したスペイン出身のクリストバル・バレンシアガ(1895〜1972)、1946年からクリスチャンのアトリエで働くピエール・カルダン(1922〜2020)など。とくにクリスチャン・ディオール、ピエール・バルマン、クリストバル・バレンシアガの3人は劇中よくワインを酌み交わしていた。こんなビッグネームたちが一堂に会していたなんて。シャネルについては1939年にクチュール メゾンを閉店し、54年に71歳でカムバックするまでの空白の時期の話。この間、いろんな説が飛び交っているようだが果たして真相はどうなのか。ともかく、戦争を生き抜くのは誰にとってもシビアだったことは間違いない。

240416_itoikuriyama_1.jpg

---fadeinpager---

そして最後は、ドラマの題名にもなっている「ニュールック」という言葉の生みの親について。1933〜57年に『ハーパーズ バザー』の編集長を務めていたカーメル・スノーがクリスチャン・ディオールのファーストコレクション(1947)を見て、「親愛なるクリスチャン、これは素晴らしい革命よ!まさにニュールック!(My dear Christian, your dresses have such a New Look!)」と言ったとされている。ドラマではスノーにどう評価されるのかデザイナーたちがやきもきする様子が描かれており、今でいうアナ・ウィンターとか、少し前のスージー・メンケスとかそんな存在だったのか。スノーのように時代を象徴するようなキャッチーなキーワードを生み出したり、錚々たるデザイナーたちがその言動を気にするようなジャーナリストを目指したいものですねえ、と改めて思ったのでした。

240416_itoikuriyama_3.jpg

他にも、クチュール組合の会長を務め、クリエイティブ ディレクター的な役割で才能あるデザイナーたちをまとめたルシアン・ルロンの功績や、彼が先導して開催した「テアトル・ドゥ・ラ・モード」(1945)の経緯、クリスチャン・ディオールのクチュールメゾン創設で手を組んだ実業家マルセル・ブサックという人物(競馬事業でも成功を収めていて、検索すると競馬関係の記事がいっぱい出てくる)など、新たに知る事柄がたくさんあった。映像化されることで歴史がすんなり入ってきて、真偽のほどをリサーチしてみたくなること間違いなし。ぜひチェックしてみてください!

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

ARCHIVE

MONTHLY

Business with Attitude
Figaromarche
あの人のウォッチ&ジュエリーの物語
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories