栗山愛以の勝手にファッション談義。

ダニエル・クレイグ主演、ジョナサン・アンダーソンの意匠......、映画『クィア/QUEER』を観てほしい。

公開中の映画『クィア/QUEER』を観た。

昨年取り上げた『チャレンジャーズ』に続き、ルカ・グァダニーノ監督と衣装:ジョナサン・アンダーソンの組み合わせ、第二弾。ジョナサンがクリエイティブディレクターを務めていたロエベの2024-25年秋冬のキャンペーンには映画のムードに合わせたらしい、いつもとは違ったイメージの主演、ダニエル・クレイグが登場していたし、共演のドリュー・スターキーも次シーズンのキャンペーンに姿を見せていた。ジョナサンが手がけるブランド、JWアンダーソンでは映画にちなんだカプセルコレクションも展開されている。ファッション好きなら観て当然!と意気揚々と映画館に向かったのだが、原作がビートニク文学であることをあまりよく考えていなかったのだった。

250512_itoikuriyama_01_new.jpg

1950年代のメキシコシティを舞台にした原作は、ビート・ジェネレーションを代表する作家、ウィリアム・S・バロウズによる自伝的小説。存在はうっすら知っていて、何ならかっこよさそうな人々、くらいにふんわりカテゴライズしていたのだが、恥ずかしながら実際に読んだことはなく、本作でこんな感じなのか!と衝撃を受けてしまった。ダニエル・クレイグとドリュー・スターキー演じる2人のラブストーリーと想像していたら、冒頭から時折何だか不思議な空気が流れ始め、後半になるにつれ、言ってしまえばトンデモ展開が繰り広げられていく。わざとらしいほどわかりやすかった『チャレンジャーズ』とは正反対、「きっとこういう表現が生まれる時代だったんでしょうね...」と片付けたくなるくらいのシュールさにまず面食らってしまう。取材記事によれば本作はいろいろと脚色したり付け加えたりしたようなので、本当はどんなものなのか、小説を読むのはハードルが高そうだしU-NEXTで配信されている同じくバロウズ原作の映画『裸のランチ』(1991)でも観てみるかと思い立ったものの、監督のデヴィッド・クローネンバーグのグロテスクな作風があまり得意ではないのと、あらすじと場面写真を見ただけでげんなりしてしまったので、自分の中でのビート・ジェネレーションのイメージは映画『クィア/QUEER』になってしまいそうだ。もし初心者により良き接触方法があればどなたか教えてください......。

250512_itoikuriyama_02_new.jpg

このようにまずは内容に目を白黒させてしまう作品なのだが、本ブログの主題であるファッションにも充分存在感はあったのだった。今年の3月にジョナサンがロエベを離れるという悲しいニュースが控えていたからかもしれないが、どうやらこの作品のために制作した衣装は数点しかなく、ほぼ映画の舞台となった時代の古着やデッドストックを集めたらしい。今回ジョナサンはデザイナーというよりはスタイリストに徹したようだ。40代後半という設定のウィリアム・リー(ダニエル・クレイグ)はくったりとしたスーツを着て、彼を魅了する若きユージーン・アラートン(ドリュー・スターキー)はタイトなシルエットの清潔感のある服装がメイン。それぞれのキャラに合った違和感のない衣装で、『チャレンジャーズ』で感じたジョナサンの「私利私欲は極力捨てて映画をより良くしようという姿勢」は健在だった。衣装が悪目立ちしてしまう、たとえばもうすぐ新シーズンが配信されるドラマ「AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」や、「エミリー、パリへ行く」とは大違いである(?!)。そして、当時の服を集めたというのに、今見ても魅力的に仕上げていたのは、さすがのセンスとしか言いようがない。タバコや拳銃など、いろんな小道具にもこだわり抜いたはず。ちなみに、個人的にはリーのユーモラスな友人、ジョー・ギドリー(いつもとは全然違う風貌のウェス・アンダーソン作品の常連、ジェイソン・シュワルツマン)の派手なシャツ姿が好きだった。

250512_itoikuriyama_03_new.jpg

そんなこんなでファッション的には大満足。他にも、ビートニク文学マニアの視点ではもちろん、JWアンダーソンのフーディにもプリントされている「I want to talk to you... without speaking(言葉を使わずに、あなたに話しかけたい)」というリーのセリフにはあんまり共感できなかったもののラブストーリーとしても、そして「映画の世界に入り込めなくなる音楽」という評も見かけたが、ニルヴァーナやプリンスなど、映画のムードとはあえて合わせていない音楽(グァダニーノ監督はビート・ジェネレーションとニルヴァーナの姿勢に共通点を見出したとか。ニルヴァーナ世代の私には、全然ニルヴァーナの方がわかりやすいと思うが......)など、いろんなポイントで興味深いのではないだろうか。思わぬストーリー展開となかなか赤裸々なセックスシーンに心構えをしていただいたうえで、ぜひ映画館でご覧ください!

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

ARCHIVE

MONTHLY

Business with Attitude
コスチュームジュエリー
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.