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ギリシャ悲劇かシェークスピアか? アラン・ドロンの生前遺産相続のドラマ。

日本の出版社の特派員として、パリで仕事を始めた頃、作家の友人にゴシップ誌を読まないとフランスの社会は見えてこないよ、といわれたけど、たしかにそうだ。

もっかフランス中が注目しているのは国際的大スターのアラン・ドロンの生前遺産相続贈与に関しての家族間の激しい争いに、みんな唖然としている。88歳で、まだ本人は生きているのに、父親にスイスで死んでもらいたい娘のアヌーシュカ・ドロンに対して、今のままフランスにいて、本人の望み通りに父親の愛した愛犬の墓の隣に埋葬してあげたいふたりの息子たち、アントニー・ドロンと異母弟のアラン=ファビアン・ドロンが争いを始め、まるで遺体の奪い合いみたいになっていて、栄光の王座にいたスターが、と世間を驚嘆させている。

財産は数千万ユーロ、ともいわれていて、その行方に関心が集まっているが、フランスだと相続税で45%も持っていかれるのに、スイスだととても低額なので、スイスで亡くなって欲しい娘のアヌーシュカ、そういう彼女の魂胆があまりにもみえみえなのだという。

フレンチ・ポップス界のスーパースターだった歌手ジョニー・アリディ亡き後、遺された遺族が相続問題で大変なバトルを繰り広げたのを知ったドロンは、自分だけは絶対にそうした醜悪な遺産相続争いにならないように、エレガントにこの世を去りたいと考えたようだ。そこで遺書を認めて、死後にトラブルが起きないように、遺産の配分を娘アヌーシュカに50%、ふたりの息子たちにはそれぞれ25%と決めたのだが、それが却って裏目に出てしまった。

その途端にアヌーシュカは、父親はスイスの医者に診せた方がいい、といい出したし、ふたりの息子たちは、自分たちの取り分が25%というのが、どう考えても不公平に思えて面白くない。フランスで亡くなれば、相続税を相当払わなければいけないが、アヌーシュカの思いのままにさせたくないので、なんとかスイスに行かせるのを阻止したいのだ。フランスの医学の方が技術は優れているという。

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そもそもその遺書を書かせたのは、アヌーシュカではないか、という疑いも残る。
そこでまず長男アントニーが、国民的写真雑誌の「パリマッチ」誌のインタビューを受けて、アヌーシュカの魂胆について暴露した。それをみたアヌーシュカは、早速父親の元へ酷い目にあったことをいいつけにいったようだ。

ところがその後思いがけない展開になっていく。その時までマスコミにもほとんど登場しなかった末っ子のアラン=ファビアンは、アヌーシュカが父親に言いつけている会話の肉声を、秘密裏に録音していて、それをインスタで流してしまったのだ。そこでこのゴシップにそろそろ飽きてきた世間も、再び再燃して騒々しくなってきている。

雑誌でも取り上げられるようになったアラン・ファビアンは、TVや雑誌のインタビューを受けるようになり、子どもの頃から父親はアヌーシュカだけを溺愛して、自分には辛くあたっていたと告白した。

すでにアントニーも、「アントル・シアン・エ・ルー」という自叙伝で、父親は自分には厳しく、革の鞭で打たれていたと書いている。

父親の健康状態はというと、今は話をすることも困難で、聞き取れない程弱々しい声で衰弱しているというし、赤裸々な家族間の争いの状況をマスコミに取り上げられたと知り、すっかり落胆してしまっているという。

興味深いのは、2019年に脳卒中で倒れ、その後ドロンの側で親身になって看病していたのは、日本人女性ヒロミ・ロランという人だったという。ところが彼女はドロンのファミリーから嫌われて、警察の手で追い出されてしまった。

今回アラン・ファビアンが、「ヒロミはとても優しい女性で、一生懸命看病をしていた。ヒロミがいなかったら、父は立ち直っていなかった。彼女には感謝しかない」と語ったので、遺産目当てで家に入り込んだというイメージも変わってきている。

ヒロミ・ロランは、自分が家を追い出されてから、家族はアランに薬の投与をしていない。それが心配でならない、とラジオで語っているそうだ。

家族から告訴されていたヒロミ・ロランの裁判は、結局アラン・ドロンには正常な判断ができなかったから、という理由で、ヒロミ・ロランが勝訴している。

だったらそんな老人が書いた遺書は、どうなのだろう? というのが、今の関心事だそうだ。まだまだ新たな展開がありそうだ。

これではまるでギリシャ悲劇かシェークスピアかの様相を呈してきている。

村上香住子

フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!

Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka

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