猫ごころ 巴里ごころ

「カザ・ビニ」や「カフェ・シャルロ」に出入りして一寸スノッブなパリ?

フランス語のメトル・レ・ポアン・シュール・レ・イ(Mettre les points sur les i)という表現は、アルファベットのアイ「i」の上に、「・」 が付かないと、何の意味もなくなるということ。iにどうしてポアンが付くようになったかというと、次に「l」がきて紛らわしいので、ポアンをつけて後のアルファベットとは異なるということらしい。

つまりどんなにお洒落をしていても、文句のつけようのない趣味のいいアパルトマンに住んで、車はお洒落な黒のミニに乗っていても、肝心の本人のマナーや、出入りするカフェやレストランがそのスタイルに合ってなく、お洒落の最後の仕上げを忘れていたら、何もかもすっかり台無しになってしまう、という意味のようだ。
日常生活の中では、ついそうしたことが面倒になりがちなので、普段から行きつけのカフェやレストランや、馴染みの美容院を持っていると間違いはない。

このところ暫くパリに行っていないせいか、最近無性によく出入りしていた馴染みの店が懐かしくなってきた。

たとえば左岸のサンジェルマンとオデオン交差点の間の辺りにある、メトロのマビヨン駅の近くのイタリアン・レストランの「カザ・ビニ」。以前近所のサンシュルピス広場の近くに住んでいたので、行くようになったが、最近は予約をしないと席が取れずに困ることもあるほど、流行りの店になってしまったそうだ。私にとっては、どんなに星付きの豪華レストランよりも、カジュアルなのにあの妙にふわりとした繊細な雰囲気は他にはないし、どこよりも気に入っている。客層は若い人が多いけど、中には映画関係や出版界の人たちもいたりする。

そのイタリアンは、ボリス・ヴィアンも出入りしていた楽器屋のあった通りにあり、どこか少し薄暗いグレゴワール・ドゥ・トゥール通りという路地裏なので、なんだか秘密のパリの風情を漂わせている。この「カザ・ビニ」は左岸のお洒落な人たちの溜まり場なのよ、とスタイリストの友人も言っていた。(同名の店が、サンジェルマンの方にもあるので、要注意。) これまでよほど親しい友人にしか教えてなかったアドレスだけど、パリが遠くなってきた今では、知らない人でもいいから、だれか私の代わりに行ってきて、とさえ思ってしまう。それに値段も、さほど高くはないのです。

Casa Bini
36 rue Grégoire de Tours 75006

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左岸の名物「カフェ・フロール」は、今では観光客に占拠されてしまっていつもごった返しているので、地元の人や常連客たちは行かなくなった、といわれているそうだ。こちらも最近ちょっと敬遠するように。

右岸での行きつけは、ブルターニュ通りの「カフェ・シャルロ」に行くことが多い。古いパリのレトロな雰囲気がそのまま残っているし、レア・セドゥーが、モーニング・カフェをひとりでのんでいたりする。

paris-cafe-kasumiko-murakami-250227.jpg

photography: shutterstock

だれかと会う時は、「カフェ・シャルロ」のテラスで会いたい、というと、相手は即座に観光客ではない、と判断してくれるはずだ。

Cafe Charlot
36 rue de Bretagne 75003

パリの老舗カフェに出入りしているからといって、パリジャン、パリジェンヌになれるわけではないし、最新情報も知っておきたい。

インスタでロマン・メデールをフォローして、デュカスから独立して初のレストラン「プレヴェル(Prévelle)」が、サン・ドミニク通りにいつオープンするかを知っておきたい。いつ行けるかわからないけど。パリのグルメたちは、いまこの店のオープンをいまかいまかと待っている。

ちなみに私はずっと前から、大好きな果物屋やパン屋、ソーシソンのおいしいお肉屋のあるこの通りを、友人たちと勝手に「オイシイ通り」と呼んでいる。

三ツ星シェフが、あの通りを選んだのも、偶然ではないはずです。

村上香住子

フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!

Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka

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