トップシェフが集結! 「ししいわカリナリーリトリート」を目撃。
ししいわハウスといえば、2019年に誕生したリゾートホテル。軽井沢の自然と建築が見事に融合した空間は、まさに理想のリトリート。ずっと気になっていたこの場所で、世界のトップシェフたちを招いた特別なイベントが行われると聞き、紅葉が美しい10月末に行ってきました。
左:建築家・坂茂が設計したししいわハウスの第1軒目(No.01)。 ©Ittetsu Matsuoka 右:「No.01」は建物全体が曲線形状になっている。奥へ進むと、宿泊者が集えるグランドルームがある。そのほか、同じく坂が設計した「No.02」と、金沢21世紀美術館などで知られる建築家・西沢立衛による「No.03」が同じ通りに立つ。
「ししいわカリナリーリトリート」のファーストエディションに集まったシェフは計6人。アジアのベストレストラン50で受賞歴のあるシェフなど、シンガポールや香港、フィリピンなど世界で活躍する名シェフが一堂に! ししいわハウスを舞台に、建築と自然が彼らにどんなインスピレーションを与えるか、がテーマ。
左:Sower(ソワ)でシェフを務めるカルフォルニア出身のコールマン・グリフィン。ノーマの姉妹店として東京にオープンしたイヌアで活躍した後、日本食材を探究すべく滋賀県へ。 中:香港のWhey(ウェイ)のシェフ、バリー・クエク。自身の店は、21年にミシュラン1ツ星を獲得。 右:香港のMONO(モノ)で活躍する、ベネズエラ出身のリカルド・チャネトン。アジアのベストレストラン50の常連。 ©Ittetsu Matsuoka
左:今回唯一の女性シェフ、ジョアンヌ・シ。ノーマ等を経験した後、シンガポールのLOLLA(ロッラ)のシェフに。アジアのベスト50のベスト女性シェフにも選出されている。 中:マニラのToyo Eatery(トーヨー・イータリー)のシェフ、ジョーディ・ナバラ。英国や香港で、さまざまなジャンルのトップレストランを経験。 右:ししいわハウス内のレストラン、Shola(ショーラ)を牽引する岡本将士シェフ。この土地の食材に最も精通しているため、今回のプロジェクトのまとめ役に。 ©Ittetsu Matsuoka
2泊3日をここししいわハウスで過ごし、軽井沢の食材を探究しながらひとつのコースを創り出す今回のイベント。何を作るのか、0からのスタート。初日ですでにシェフ同士の交流は深まっていましたが、2日目の朝に訪れた農園が印象的でした。
訪れたのは近所の有機栽培農園Duca Farm(デュカファーム)。植物そのものを肥料にする「緑肥」を使い、土に混ぜ込んでいるとか。ふわふわとした土が特徴で、広大な土壌にはカブ、ニンジン、フェンネルなど年間通して100品目以上が育つそうです。
左:デュカファームでは、シェフたちがその場で葉をちぎって試食&食材選び。 右:農園で緊急会議(?)がスタート。 ©Ittetsu Matsuoka
とにかく好奇心旺盛なシェフたちは、案内された作物を、ひとつずつその場で試食。中でも目の前で収穫したカブのみずみずしさ、フルーツのような甘さにはみな驚いていました。ざっと30種以上を試したのち、農園でシェフたちの緊急会議がスタート。「カブがフレッシュだからこんなふうに提供したらどうか」「この葉の上にあれを載せるのはどうか」等々、あらゆるアイデアが湧いていました。彼らの食材との向き合い方を見て、食のプロフェッショナルとはこのことか、トップシェフがトップシェフである所以はこれなのか、と実感。本来、2チーム・2日に分けて2つのコースを作成予定でしたが、この時の会議で、6人で1つのフルコースを作ることに決定。6つのクリエイティビティがどのように融合するのか、期待が高まります。
その後、カーヴハタノのブドウ畑と醸造所へ。カーヴハタノがある東御市をはじめ、この一帯は「千曲川ワインバレー」といわれるワインの銘醸地。日本ワインを牽引するエリアです。このワイナリーでは、シャルドネやメルロ、ソーヴィニヨンブランなど国際品種を主にしています。今夜のスペシャルコースの相方として、カーヴハタノのワインをはじめ、千曲川ワインバレーのワインがししいわハウスに集まりました。
左:カーヴハタノの畑を見学。 ©Ittetsu Matsuoka 右:長野産メルロやシャルドネなどを使用したワインが県内から集まる。日本ワイン好きにはたまらないラインナップ。
ししいわハウスに戻り、再び会議。国籍も料理ジャンルも異なる彼らが、どのようにひとつのコースを組み立てるのかドキドキです。
左:デュカファームの新鮮野菜など、地元の食材がキッチンにずらり。 右:コースの組み立てから食器のセレクトまで、6人のシェフが都度話し合って進められた。
調理時間はおよそ4時間! キッチンからは出汁や肉、さまざまないい匂いが漂います。
完成したメニューが席に配られました。
左:ウェイのシェフ、バリーが中心になって作った「フライドチキン サンバルドレッシング」 右:ロッラのジョアンヌが指揮をとった前菜「カブとイチゴのキニラウ風」
最初に登場したのがこちらの2品。インドネシアの調味料、サンバルを活用したフレーバーがバリー流。デュカファームでみなが感激したカブは、想像を超えたアレンジで登場! ジョアンヌのルーツ、フィリピンの「キニラウ」という魚のマリネ料理を野菜やカマスで再構築。お酢の酸味が食欲をそそります。みずみずしいカブとの相性も抜群。
佐久の信州サーモンには、デュカファームのナスタチウムの(花ではなく)葉を添えたり、赤身が美しい野生のシカにはキノコたっぷりのソースを合わせたり、組み合わせが絶妙な料理が続きます。
コースのハイライトは定食! ©Ittetsu Matsuoka
メインはシェフたちの協議の結果、「定食スタイル」で供されました。短角牛を塊で焼き、目の前でソワのコールマンがゲストに取り分けます。別で盛られたソースにはなんと、ハチの子が! 長野では貴重なタンパク質として昔から食べられていたことは知っていましたが、ご飯のお供というイメージが強かったのでまさかフランス料理のベアルネーズソースになって登場するとは思いませんでした。白米にさまざまなハーブが入っているのも新鮮! サラダ感覚で食べられるので、肉料理とも合います。
食材探しから構成、調理まで、ワンチームとなってひとつのコースを完成させた6人のシェフ。 ©Ittetsu Matsuoka
コース料理という形でひとつの作品を完成させた6人のシェフたち。どれも日本は長野の食材なので知っているものばかりでしたが、供された料理は、そのどれもが想像をはるかに超えたものでした。ルーツや国籍、異なる活躍の場、それらが交じり合うと、こんなにも複雑で豊かな世界が広がるんだと実感。軽井沢という自然豊かなこの土地で、名建築家が築いたこのししいわハウスで、トップシェフのクリエイティビティが見事な化学反応を起こした一夜でした。
今回はカリナリー、食がキーワードでしたが、次回この場所でどんなクリエイティビティが生まれるのか、いまから楽しみです。
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