England's Dreaming

尊敬するあの人の、エキシビションがロンドンで開催に。

彼女ほど、長年に渡って誤解され続けていた人っていないんじゃないだろうか。 

オノ・ヨーコさん。

2月18日に、91回目のお誕生日を迎えられたばかりだ。

ジョン・レノンと結婚するずっと前からアーティストだったのにもかかわらず、多くのシーンで「ジョン・レノンの妻」という代名詞のみで語られて、さらには本当ではないのに「ビートルズを解散させた女性」とまで呼ばれることもあって。 

いまロンドンのテート・モダンで彼女の70年近くに渡る作品を集めた大回顧展「ヨーコ・オノ:ミュージック・オブ・ザ・マインド」が開催されている。

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「Yoko Ono Music Of The Mind」の会場エントランス。このエキシビションの会期は9月1日まで。

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ヨーコさんは50年代初頭に家族と共にニューヨークに渡り、大学で音楽と詩を学んだのち50年代の終わりから前衛芸術集団フルクサスのメンバーの一人としてアーティスト活動をスタートした。その頃から一貫して、彼女の作品の重要な要素の一つに「想像する」というものがある。

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展示作品より。50年代のニューヨーク時代のヨーコさん

例えば1964年に出版した、アート作品へのアイデアやコンセプトを一ページに一つづつ記した『グレープフルーツ』という一冊の本。そこには「空に金魚を泳がせていると想像して。西へ東へと泳がせて。1リットルの水を飲んで、空に金魚を泳がせていると想像して。西へ東へと泳がせて」という一節がある。

人々はそれを読み、想像する。その想像によって作品は完成されるとヨーコさんは考えていた。巨大な彫刻や大きなキャンバスに描かれた絵とはちょっと違う、観念などのコンセプトによるアートだ。

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展示作品より。『グレープフルーツ』の1ページ

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ジョン・レノンとともに発した「ウォー・イズ・オーバー」というメッセージを、どこかで見たことがある人も少なくないだろう。「戦争は終わった」というシンプルながらも強い希望を込めたこの言葉を受け取って、賛同した人達とともに平和に向けてムーブメントを起こそうとした。

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展示作品より。街のビルボードに掲げられた「ウォー・イズ・オーバー」。ちなみにこの展覧会内でジョン・レノンが登場するのはほんの一部のコーナーのみ。ヨーコ&ジョンのではなく、あくまでも「オノ・ヨーコのエキシビション」として美術館は注意深くキュレートしたのが伝わってくる。

このキャンペーンが最初に世に出たのは1969年だという。半世紀以上の時間が流れても、いまだに世界ではあちこちで戦争が起きているって、なんて悲しいことだろう。

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人々を巻き込み、大きなムーブメントを生んで世の中を変えていく力がアートにはあると彼女は信じている。とても素敵だ。近年は特にそのような作品を数多く世に送り出している。

「アド・カラー(難民の船)」は、難民たちが祖国を捨てて海を渡る時に使うような小さく粗末なボートを白く塗り、真っ白な空間に置いたものだ。人々はここに海の色の青いインクのペンで希望を込めた言葉や絵を書き込む。自主的に動いて力の集結することで、いま世の中で起きている不条理が少しでも減って良い方向へと向かっていくことを願った作品だ。

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展示作品より。「アド・カラー(難民の船)」。私が観に行ったのは開催直後だったので、今はもっとたくさんの言葉や絵が書かれているはず。

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「マイ・マミー・イズ・ビューティフル」はシンプルに美しい。「あなたのおかあさんへの想いを書くか、彼女の写真をこのキャンバスの上に貼って」とのメッセージとだけがあり、人々はそこに想いを綴った紙片を貼っていく。誰かに語りたくなるような母親との素敵な思い出がある人ばかりではないだろうけれども、それでもこれはヨーコさんからの私たちの命への祝福だと思っている。

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展示作品より。「マイ・マミー・イズ・ビューティフル」。さまざまな言葉で、それぞれの想いが綴られている。

女性であること、さらには東洋人であることで必要以上に批判される時代があったヨーコさん。それでも自分を貫き、常に肯定的で、想像することを大切にして、人々とともにパワーを生み出していくことを続けている。

彼女への敬意の念が止まらない。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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