England's Dreaming

ロンドンと何故か重なる高円寺&究極モンブラン。

訳あって1月はそのほぼ半分を東京の実家で過ごした。私の育った家はJR中央線の高円寺にある。

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北口を阿佐ヶ谷方向に少し歩いた先にある「ゆすらや」。店頭の手書きメニューが可愛い。金柑をまるごと包んだ「きんかん大福」など、老舗和菓子店から取り寄せた選りすぐりの和菓子が楽しめる。

通っていた中学と高校は東急線沿線にあったので、同窓生たちは自由が丘や二子玉川を放課後に立ち寄った懐かしい場所として挙げるのだが、中央線の住民で東急線的要素(?)皆無の私にはその記憶がほとんどない。それよりも帰宅途中に経由する新宿で途中下車して向かった洋書店やレコード店で、イギリスの音楽雑誌やラジオで聞いた全英トップ20の音源を探していたことのほうが色濃い思い出だ。その頃の友人たちに住んでいる場所を聞かれて高円寺と答えても、地名も場所も知らないと言われることがほとんどだった。

地元のマイナーさを深く自覚する一方で、20代初めの頃に目抜き通りからちょっと外れたあたりにヨーロッパのインディー系映画を豊富に取り揃えた貸しビデオ屋がオープンしたり(当時はハリウッド大作を中心に並べる店がほとんどで、これはとても稀なことだった)、のちに忌野清志郎が「日本一ロックな書店」と形容した本屋ができたりして(現在はどちらも閉店)、高円寺もそう悪くないと思えるようになった。自転車に乗って商店街を走り抜けるロックミュージシャンとすれ違ったり、渋い演技派俳優とその貸しビデオ屋さんで遭遇するなど、サブカル系の人々をよく見かけるようになったのもこの頃だ。みうらじゅんが高円寺を「日本のインド」と称して少しづつ住民以外にも認識されるようになり、そんなディープな時代(笑)を経て、現在は古着屋やアンティーク雑貨屋が集まるエリアとして記憶している人も少なくないかもしれない。

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左:今も変わらぬ雑然とした街並み(笑)。。。右:一方で最近はこんな小粋なコーヒーのお店も増えてきた。

今回、実家の用事をこなす合間に、息抜きと称して駅を境に南北に伸びる商店街周辺をよく散歩した。行き先は決めず、気の向くままに。その間に何度か、あれ?いま東京だっけ?それともイギリス?そんな錯覚に陥っていた。

駅の南口に出てアーケードがある商店街の坂を下りきったあたりで右折した先は、イギリスをはじめヨーロッパブランドを多く取り扱う古着屋や雑貨の店がぽつりぽつりとある。これらの店内は、気がつかないうちに「どこでもドア」を開けてしまってイギリスから瞬間移動しちゃったようだ。さらにはロンドンやブライトンで何シーズンも探しているのに見つからないユーズドのフィッシャーマンズニットのカーディガンにそのうちの一軒で遭遇して思わず買いそうになったりもした(残念ながらサイズが微妙に大きくて断念したのだれども)。バブアーのコートやバランタインのニットが豊富に並んだお店では思わず「イギリスから仕入れているんですか?」と店員さんに声をかけた。意外にも買い付けはほぼアメリカという答えだったけれども。

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左:60sのモッズバンド、The Small Facesのメンバーの写真が使われていた美容院の看板。イギリスのサブカル好きなら立ち止まらずにはいられない。右:気になる古着屋の店先。

店構えや品揃え以外にも、町の醸し出す雰囲気もどこかロンドンに似ている。厳密に言えば、今の、というよりも、80、90年代のケンジントンハイストリートやカムデンタウンといった感じかもしれない。道幅は狭く雑然としていて、お世辞にもおしゃれとは言えなくて。あちこちにあるグラフィティもそんな気分を盛り上げてくれる。大きいとは決していえない店舗に挟まれたさらに小さなスペースや、ビルの細い階段を上がった先に店主の嗜好を色濃く反映した個人商店があったりする。それらはファッションの店だったり、カフェだったり、バーだったり、古本屋だったりと多様なのだけれども、共通しているのは人がどう思うかとかトレンドとかは超越していて、場合によっては第三者の印象なんて問答無用とばかりに個性を炸裂させていることだ。かといって排他的ではなく、良い距離感で接してくれる心地よさがある。それがたまらなく素敵で愛おしい。これでいいのだ、と私も元気を授かる。

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グラフィティも個性豊か。この奥にはどんな店があるのだろう。

中古レコード屋も多く、それを目当てにロンドンのミュージシャンたちが来日するとこの界隈にやってくると耳にしたこともある。大好きなバンドのメンバーが、この商店街で私の家族とすれ違っていたかもしれないと想像するだけで笑いがこみ上げてくる。

そしてもうひとつ、これはロンドンとはちょっと関係ないのだけれども私にとってこの時期の高円寺でとてつもなく重要なものがある。それは「パティスリー ラブリコチエ」のモンブラン。秋と冬だけの限定ケーキで店頭のショーケースに並ぶことはなく、注文を受けてから厨房で泡だてる生クリームとマロンクリームをメレンゲの上に絞って作ってくれる。その究極のフレッシュさを楽しむために、賞味期限は60分との噂まである。この店から歩いて数分のところに実家があるので、私はいつもテイクアウトしているのだがイートインも可能。他のケーキも焼き菓子もどれも抜群に美味しいのだけれども、これだけは寒い季節に帰省した時にしか味わえない、とっておき。世界中のモンブランと食べ比べてもたぶん、私はここのが一番好きだと思う。今年は2月中旬まで販売予定とのことだった。

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最愛の「パティスリーラブリコチエ」のモンブラン。こっくりとしたマロンクリーム、ふわふわの生クリーム、さくさくメレンゲの組み合わせで、この上ない幸せ気分に。

坂本みゆき

イギリス在住ライター。
イギリスのインディーロックとサブカルチャーに魅了され何度もイギリスへの旅を繰り返したのち20世紀が終わる頃にロンドンに移り住む。8年前よりロンドンの南にあるウェストサセックス州在住。

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