England's Dreaming

「Manga」展@大英博物館、そして「ロンドン一」のカレー。

大英博物館が漫画のエキシビションをやる――そのニュースを知った時、正直ちょっと驚いた。

博物館や美術館がこれまでの概念に囚われずに、幅広いジャンルからテーマを選んで展覧会を企画するのは世界的な傾向ではあるけれども、「ザ・保守」なイメージの大英博物館と漫画というのは、あまりにも意外な組み合わせだったから。

近頃のロンドンでは、規模の大きなエキシビションのチケットは前売りされ、人気あるものは数カ月先まで余裕でソールドアウトだったりする。今回も行く前に買っておいたほうがいいのかなと大英博物館のサイトをのぞくも、週末を含めてどの日もチケット数にはまだ余裕がある模様。ならば当日会場を買おうとスマホで開いたページを閉じる。

ともあれ、いざ会場へ。

190625-IMG_3500.jpg大英博物館の正面には、こんな看板が。

まず目に飛び込んできたのは「思いつくままに描く Pictures run riot」という言葉。どうもこれは「漫画」という言葉の意訳でもあり、漫画の表現は無限で時にはタブーだって飛び越えてしまう、ということのようなのだが。

190625-IMG_3512.jpg漫画の漫は「深いわけもなく」という意味だとか。「深いわけのない絵」、つまりは思いつくままに描かれた絵ということのよう。

ちなみにエキシビション開催とともに各新聞や雑誌に掲載されたレビューの賛否は分かれていた。好意的な記事もあったけれども、なかには「なぜあの大英博物館で漫画なのか」というストレートな問いかけを満たす内容とはなっていない、という手厳しいものも。

まあわからなくもない。「無限な」漫画の世界をさらにひろげてしまって、展示内容はコミケやアニメまでに及んでいて、本来の意味するところが薄まってしまったという印象は私にもあったから。

190625-IMG_3531.jpg日本の書店の漫画コーナーを大判パネルで見せた展示も。

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でも。半世紀近く読み続け親しんで来た私は、やっぱり漫画の肩を持ちたい。

そもそも漫画のジャンルってとても広い。すぐに思いつくだけでも幼児向けから、少女漫画、少年漫画、青年漫画、成人漫画、新聞に載っているような4コマ漫画まで多種多様。たとえ大英博物館でも、そのすべてをカバーしながら漫画をまったく知らない人たちからコアなファンまでを納得させるのは至難の技だろう。批判のレビューを書いた記者は、たぶんそんな漫画を取り巻く世界をあまり知らない人。そういう層も含めて楽しめるものに仕上がっていなかったのは確かに残念ではあるけれども。

とはいえ、ここで目の前に並べられた、漫画を通して日本の近代文化を作り上げてきたと言っても過言ではない描き手たちによる、美しさ極まりない原画の数々に私はただただ息を飲んだ。

これらがロゼッタストーンやラムゼイ王の巨像と同じ場所にあっても、私には500%異論はない。

190625-IMG_352050.jpgすべて額装されて展示されていた、漫画の神様、手塚治虫作品の原画。まさに神々しい。。。

子どもの頃、胸躍らせて読んだ作品の生原稿の数々。そこからは作家の息遣い、ペンを走らす音が聞こえてくるよう。そして日本ではなくここロンドンで出会えたという不思議さ。

特に萩尾望都の『ポーの一族』からの4ページは感無量だった。イギリスを舞台にした、時代を超えて生きるバンバネラ(吸血鬼)の物語。初めて読んだ10代最初の時から、何百回読み返したことだろう。私の本棚にはいまも単行本が並び、折に触れてはページをめくる。この作品は私がイギリスに興味を持ち、ついには移住してしまうまでとなった原因のひとつだったと言っても決して過言ではない。

190625-IMG_355658.jpg萩尾望都作品『ポーの一族シリーズ「小鳥の巣」より。実は会場に入って真っ先に探したのはこの原画だった。

そういえば先日、数十年ぶりにSNSで再会した友人に私の近況を話したら、「好きな事もやっていることも全然変わっていないよね」と笑われたことがあった。その時はつられて笑うしかなかったけれども、でもよく考えたら私はきっとこの先もずっと変わることなんかできない。好きなものは永遠に好きなままで、懐かしく感じる過去にはならない。

190625-IMG_3546.jpg天井からはコミック誌の表紙を印刷したバナーが飾られていた。

原画を食い入るように見ている、多分自分でも漫画を描いている10代、見るからに「あなた漫画好きでしょ?」って感じの20代〜30代、さらには親に連れてこられた小学校低学年生など、さまざまな客層が会場内を行き交う。日本人をはじめ、アジア人も多かった。

そのなかで特に目を引いたのは、漫画好きの娘や息子に同行し、彼らの説明に熱心に耳を傾けている中年世代の親たちや、ふらりとやってきたという感じの初老の人々だった。彼らがひときわ熱心に作品に見入る姿は印象的だった。どんなふうな感想を持ったか聞いてみればよかったと、後で気がついて反省。。。

190625-IMG_3533.jpg展示を熱心に見つめる女の子。その奥の初老の女性も興味津々。

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展示鑑賞後は博物館の裏口から外へ。

目の前にはロンドン大学の校舎がそびえ立つ。そこからさらに10分ほど歩いた先にあるインディアンYMCAが、大英博物館後の私の定番ランチスポット。

190625-IMG_3476.jpg大通りから少し入った静かな道に面している。

その名前からもわかる通り、もともとはロンドン大学に通うインドからの留学生のための宿泊施設だった。かつてここであのガンジーも講演をし、インド独立運動の担い手となった人々のゆかりの場所でもあったという。

190625-IMG_3469.jpgミッドセンチュリーモダンな館内。ガンジーさんの名を冠したホールや、彼の肖像画もある。

そんな施設のなかにある食堂は、インド出身の友人が「手軽にインド料理が食べられる場所としてはロンドンでいちばん」として教えてくれたスポットだ。宿泊者以外でも利用できるのがうれしい。

190625-IMG_3481.jpg「写真撮ってもいいですか?」と聞くと手を止めてカメラに目線をくれたシェフたち。カレーの種類と一つ一つ丁寧に説明してくれたりと、いつもとてもやさしい。

学食みたいにトレーを持って、カウンターから好きなカレーやサイドデッシュを選ぶ。ピーク時にはインドの人々はもちろん、ヨーロッパ人、私みたいなアジア人と、さまざまな人種で賑わって、座る場所をみつけるのも困難なくらいになる。カトラリーを使わずに右手で直に食べるインドの人々の仕草の美しさに、初めて気がついたのもここでだった。

190625-IMG_3485.jpg「本日のカレー」だったチキンカレーと、ホウレンソウ入りのダールカレー。たくさん取りすぎて、全部で10ポンド超過! 残さずに食べたら夜までまったくお腹が減らなかった。

大好きな漫画を満喫し、シェフ直々に大盛りにしてくれたピラウライスを食べて、胸もお腹いっぱいになって帰路に着いたのでした。

190625-IMG_3540.jpg「あの日からのマンガ」と題された、3.11が題材の、しりあがり寿作品。セリフはなく絵だけだが、その清らかさと力強さが心に残った。

「Manga」
期間:〜8月26日
会場:大英博物館
www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/manga.aspx
Indian Student Hostel, London
平日のランチは12時から14時まで。土、日は12時から13時30分まで。
朝食や夕食も、宿泊者以外も利用できる。
www.indianymca.org

坂本みゆき

イギリス在住ライター。
イギリスのインディーロックとサブカルチャーに魅了され何度もイギリスへの旅を繰り返したのち20世紀が終わる頃にロンドンに移り住む。8年前よりロンドンの南にあるウェストサセックス州在住。

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