England's Dreaming

「アップリンク・クラウド」で、昔のロンドンを再発見。

東京に帰省した時の楽しみのひとつに映画鑑賞がある。

え?イギリスで観れば良いじゃない?と思われるかもしれないが。イギリスには外国映画を字幕で見ることをあんまり好まない人が多い(気がする)。たぶんハリウッドものなどの多くのメジャー作品は字幕なしに観られてしまうから、よほどの映画好きの人ではないと字幕に慣れていないのがその理由のひとつだと思う。

だから英語圏以外の異国の映画の公開は、アカデミー賞やカンヌ映画祭などで注目を集めた話題作ならともかく、日本に比べるととても少ないと感じている。公開されても期間が短くて気がついたら終わっていた、なんてことも多い。

だから東京に行ったら日本映画はもちろんのこと、イギリスではなかなか観ることが出来ない世界各国から集められた、小粒でもきらりと光る秀作を観るのをとても楽しみにしている。特に実家の最寄駅から4つ行ったところにある映画会社「アップリンク」の映画館には、東京にいる間に一度は足を運ぶ。

先日SNSを何気なく観ていたら懐かしい写真に目に止まった。それは1992年に深夜テレビで放映されていたロンドンが舞台のTVドラマ「90日間トテナム・パブ」だった。

放映当時はまだ東京に住んでいて、ロンドン移住を漠然と夢見る大のイギリス好きだった私は、このドラマは憧れそのものだった。いままた観直したらどう感じるだろう?

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現在も女優として活躍する坂井真紀さんのデビュー作。テレビドラマでは異例の全編ロンドンロケで臨場感たっぷり。イギリス好きにはたまらなかった。「アップリンク」設立者の浅井隆氏が脚本、製作、監督を務めている。

そのSNSの記事によると、多くの映画館が閉館を続けるこんな時期だからこその「アップリンク」のオンライン映画館「アップリンク・クラウド」で、「映画60本以上見放題」に申し込めばこの作品も鑑賞可能という。

「60本見放題」は日本国内限定。でも海外在住者向けのサービスもある。こちらは日本映画8作品限定だけれども、それでも十分!早速申し込んで「90日間・トテナム・パブ」の視聴スタート!

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パプがあるトテナムは移民が多く住むエリア。ドラマ内に登場するハイストリートのお店も国際色豊か。カズコ役のカズコ・ホーキさんが暮らす町でもあったはず。

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舞台は北ロンドン。カスバート(ジェラード・マカーサー)は貴族階級の出身ながらも家族から離れて自由に生きることを望み、その願いを叶えるためには彼の父親から出された条件「廃墟同然のパブを90日内に復活、成功させる」ことを達成しなくてはならない。イギリス人のリチャード(スティーブン・ギル)と結婚して閑静な住宅地ハムステッドに暮らすマキ(坂井真紀)はそのパブを手伝うことに。永住ビザのためにカスバートと偽装結婚をしているミュージシャンのカズコ(カズコ・ホーキ)、ジャマイカ移民の二世で無線タクシー業を営むキダス(ハキーム・ケイ・カジーム)とその妻マユミ(大林真由美)も加わり、波乱万丈の日々を乗り越えていく。

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ドレッドヘアみたいなヘアスタイルでジャマイカ好き。ちょっと気が強く、でも繊細。登場人物のひとりマユミは「こういう子いるいる」とロンドンの友達や知り合いのイメージとダブる。

テレビで毎週見ていた当時は、日本におけるロンドンの定番的なイメージ――ロマンティックでラブリーなアフタヌーンティーやガーデニング、またはエッジの効いたパンクやアングラカルチャー――とはちょっと違う、ナマのロンドンが活き活きと描かれていて刺激的で興味深く、本当におもしろかった。そしてそれはいま観ても変わらず、同時に放映の3年後に渡英した私にはちょっと懐かしくもあり。

空き家に勝手に住み込むスクォッティング、レイブパーティ、日本人の滞在ビザ問題、移民の悩み、いつも壊れているエレベーターや公衆電話、盗品も売られているちょっと怪しいマーケット。あの頃の「あるある」があちこちに散りばめられている。いまと比べると鮮明度に欠ける画像は、むしろ記憶のなかにある当時のロンドンの煤けた感じにとても近くてぐっとくる。

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マキ、カズコ、マユミの3人の日本女性のファッションはそれぞれ個性的で楽しいが、コケティッシュなマキのキュートさを引き立てる、ロンドンテイストのスタイリングは特に可愛いい。

カズコ役のホーキ・カズコさんは役柄同様、実生活でも在ロンドンのアーティスト。90年代にはイギリスのテレビでカラオケ番組の司会もしていたが、ドラマ内ではパブのカラオケナイトの司会を頼まれるものの「私はミュージシャンよ」と断るシーンがあって可笑しい。またゲイのカスバートのベッドサイドにデレク・ジャーマンの映画『カラヴァッジオ』のポスターが貼ってあるのもロンドンカルチャー好きにはたまらない演出だ。

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後半ではカズコさんが自身のバンド「フランク・チキンズ」とパフォーマンスを披露するシーンもちらりと登場。

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男性たちはそれぞれが違ったバックグラウンドの持ち主だ。カスバートは貴族の上流階級、リチャードはホーニマン博物館(誰でも知っている大英博物館じゃなくて、知る人ぞ知るホー二マン博物館勤務というのも渋い)でキュレーターをしていて、見るからに中流階級出身(読んでいた新聞もインテリ層が好むガーディアンの日曜版オブザーバーだったし)。そしてキダスは労働者階級。まったく異なる環境で育ち、普通だったら出会っても仲良くなることはまずないであろう彼らを結びつけていくのは、階級社会や古い習慣とは無縁の3人の日本の女性たちだ。

また、こんなシーンもある。日本語が堪能な夫を持つマキはカズコやマユミに比べて英語が拙い。カスバートはそんな彼女を「英語を上達させてイギリスの暮らしにもっと慣れるべきだ」と非難する。ところがいざマキが姿をくらますと、パブのイベントが立ちいかなくなってしまってカスバートは当惑してしまう。

流暢に話せてこそイギリスでの暮らしが成り立つという英語を最重要視する考えは、字幕の外国映画の人気が低いことにも繋がる気もする。そして本当のロンドンの日常は、当然ながら英語を話す人たちだけで成り立っているのではない。多種多様なルーツを持ち、いろいろな言葉を話す人々やそこから生まれる要素が縦横無尽に絡み合って形成されている。

そのなかで自由を満喫しながらも、体当たりで異国での生活を切り拓き、ときには現地の人々さえ目を丸くするような大胆さで常識を打ち破りながら、強くしなやかに生きていくマキ、カズコ、マユミ。彼女たちを見ていると、こちらまで心底元気になれる。

放映から20年以上の月日が流れてロンドンの情景はずいぶんと変化している。それでもこの街の魅力とそこに暮らす人々の素敵さはいまも変わっていないと思いたい。

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トテナムを自転車で走り抜けるラストシーン。ロンドンの冬の極寒の日を思わせながらも爽快感にあふれていて、こちらまで笑顔になってしまう。

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同じく「アップリンク・クラウド」で観た日本映画『ストロベリーショートケイクス』は、それぞれの暮らしのなかで悩みながらも新たな道を切り拓いていく女性たち4人の物語。こちらもとても良かった。まっすぐ前を見て進んでいく女たちが私はとても好きだ。

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ラストを飾るセリフが特に印象に残った。原作の魚喃キリコの漫画とは違うそうだけれども。いつかそちらも読んでみたい。

映画館に行けない日々は辛い。でもいまは家でできるだけたくさんの映像作品を観て、感性が錆びつかないように鍛えていたい。そして再び映画館がその扉を開く日を、私は本当に本当に心待ちにしている。

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現実の鏡でもある映画からの学び、そしてコロナ後の映画。

坂本みゆき

在英ライター
憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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