England's Dreaming

イギリス王室ドラマ、「ザ・クラウン」に夢中!

実はこの10年くらい、テレビドラマを見るという習慣をなくしたまま過ごしていた。そんな私が久々に虜となったのが「ザ・クラウン」だ。

191204_TheCrown_S3_301_001_R.jpg

シーズン1&2ではクレア・フォイが若々しい女王を演じたが、シーズン3では熟年期に差しかかった姿をオリヴィア・コールマンが熱演している。photo:Netflix

話題作を次々と世に送り出すNetflixで最大のヒット作であり、11月には待望のシーズン3が公開になったばかりだからいまさら説明するまでもないかもしれないけれども、「ザ・クラウン」はイギリスの女王エリザベス2世を描いた物語。

エリザベスの人生は、確かにどんなドラマよりもある意味ドラマティックかもしれない。生まれた時は彼女が王冠を受け継ぐことになるなんて、たぶん誰も考えていなかったけれども、数奇な運命により女王となる。そしていまではこれまでのどの英国王・女王よりも長く在位し、さらには史上最高齢の君主にすらなってしまった。戦後間もない1952年から現在までの、まさに激動のイギリスで。

191205_IMG_5500.jpg

バッキンガム宮殿前に鎮座するヴィクトリア女王の銅像。長きにわたって統治した時代は栄華を極めて名女王とされた。そんなヴィクトリアの在位年月を、エリザベスはすでに超えている。

とはいえやっぱり、現役バリバリの女王の生涯がテレビドラマになると初めて知った時にはとても驚いた。だっていままさに王位に就いている方ですよ。 もちろんイギリス王室と日本の皇室は違うけれども、たとえば現在の天皇陛下の半生をテレビドラマ化するなんて考えられないじゃないですか。。。

これまでもエリザベスを描いた映画などはあった。でもそれらは区切られた時代やいくつかの題材に絞ったもので、彼女の歴史をまるっと描いたものではなかったと思う。まるっと描くということは、長い在位期間で次々と起こるあれやこれやの事件やスキャンダルを避けて通るわけにはいかない。

191204_TheCrown_302_Unit_00548_R4.jpg

多くのスキャンダルの元となった女王の妹、マーガレット王女(左)。シーズン3ではヘレナ・ボナム・カーターが務める。自由奔放でウィットに富み、大輪の花さながらの華やかな存在でありながら、誰にも止めることのできない激しさも併せ持つ姿を確かな演技でみせている。photo:Netflix

どうするんだろう、そのあたり。。。と、恐る恐る観始めて、その見事さに舌を巻き、気がつけばおもしろさに夢中になって、一話観終わればまた次の一話と、エンドレスに観続ける羽目になっていた。

まず最初に目を奪われたのはセットのすごさ。バッキンガム宮殿をはじめとする建物やその室内の様子、馬車や豪華な車に至るまで、日頃私たちが王室関連のニュースなどで目にしてきたものと違和感がないほどに作り込まれている。シーズン1の第1話から、このドラマに思い切り飛び込んでどっぷりと浸かることができたのも、そのおかげに間違いない。だってやっぱりセットが嘘っぽかったら気持ちの入り具合も浅くなっちゃうし。

191204_TheCrown_302_00237_R2.jpg

華やかなセットは「バッキンガム宮殿でロケしたの?」と思わせるほどの出来栄え。photo:Netflix

---fadeinpager---

そしてコスチュームもとても素敵! シーズン1は1940年代後半から始まり、最新のシーズン3では70年代半ばまでが描かれているが、色調やフォルムに特徴があってファッションがおもしろい時代というのもあるけれども、保守的なエリザベスと自分の想いに率直なマーガレットのコーディネートの対比ひとつ取ってもとても楽しめる。実際にマーガレットは当時、姉以上にトレンドセッターとしても有名だった。

191204_TheCrown_302_00054_Rv2.jpg

パステルトーンで上品な装いが多いエリザベスに対し、マーガレットは鮮やかな色使いや粋な小物が多い。そんなこだわりも見逃せない。photo:Netflix

1話ごとのテーマの選び方にも入念さが感じられる。王室のエピソードや政治的な事件を軸に国内外の情勢を絡めて、その時々のイギリスと女王、王族たち、政治家たちの立ち位置や内面を綿密に描いている。

そこで生まれる人間関係、さらにはそれゆえに見えてくる人間臭さもまた興味深い。たとえば女王として冷静に、ときには冷酷にさえ振る舞うエリザベス。たとえば彼女の陰で自分の存在意義で苦悩する夫のエジンバラ公やマーガレット、そして息子のチャールズ皇太子。たとえば王室の古い価値観をいまでも通そうとする王太后。そして冷静に見える女王もまた、変わりゆく時代のなかで君主としてのあり方を模索して悩み続けている。

191204_TheCrown_301_Unit_00766_RC.jpg

前王の妃である王太后(左)とマーガレット(中央)、そしてマーガレットの夫のスノードン卿(右)。王太后とマーガレットは親子でありながらも、まったく異なる性格の持ち主だ。photo:Netflix

物語をより印象的にするために差し込まれているフィクションのさじ加減もとても上手い。これはドキュメンタリーではなく、あくまでもテレビドラマ。だから話をおもしろくするために作り話もあちこちに散りばめてあるのはデフォルトでもある。

気になるエピソードを見た後に、その時代や出来事についてもう少しよく知りたくて調べてみたら「ああ、あの部分は脚色だったのね」とわかることが実はしばしばある。でも不思議とがっかりすることがない。

それらの「作られた部分」は全体を回す潤滑油として、いやひょっとするとそれ以上で、厳しい時代の話であればそこに一筋の光を当てるがごとく、心温まるものであれば登場する人々をより魅力的に見せるよう、うまく組み込まれているからかもしれない。小さくもきらりと輝くアクセントとなって、ストーリー全体を照らしてくれているとすら感じられる。

191204_TheCrown_309_Unit_00328_RC.jpg

錚々たる名優がずらりとキャストを占める。そのなかでチャールズを演じるジョシュ・オコーナーと、チャールズの妹アン王女のエリン・ドハティ(右から2番目)のふたりの若手も個人的にお気に入り。photo:Netflix

---fadeinpager---

ほかにもいろいろと気になる要素はあるけれども、非常に巧妙に作られたドラマであり、一方で王室を美化することなく、あくまでも彼らを「人」として描いて紡ぐ物語は、ロイヤルファミリーの熱心なファンではなくても(実は私もそう)楽しめるドラマに仕上がっている。

シーズン3の最後に特に私の心に残るシーンがあった。

重要な公務を与えられることもなく自分の存在価値に悩み、生活も破綻して自殺未遂を起こした妹マーガレットを見舞うエリザベス。それまでの自信に満ちた女王然とした立ち振る舞いとは裏腹に、少し心配そうな面持ちで「ジュビリー(在位25周年のお祝い)についてどう思う?」とベッドに横たわるマーガレットに意見を求める。「やるべきよ」と、問うまでもないといった面持ちでマーガレットが答えると「私ひとりで?」とさらに不安げに聞くエリザベス。それにマーガレットは静かにこう応じるのだ。「女王はたったひとりしか存在しないわ」と。

そして半世紀近く前が舞台の物語にもかかわらず、現代に通じることがあまりにも多いことにも私はとても驚かされる。地位にしがみつく政治家、国と国の対立、なくならない差別、「我が国を再び最強に」とかどこかで聞いたことのあるフレーズを唱えてチャンスを探る愛国主義者、労働者の苦しさを吐露するためのデモ。。。時代を超えて螺旋を描くように繰り返し起こる出来事の数々から、私は決してこれらを単なる「昔の物語」として見ることができないでもいる。

191205_IMG_5483.jpg

バッキンガム宮殿の前に行ってみたら、ちょうど衛兵の交代が終わるところだった。先月末に起きたロンドンブリッジでのテロ直後のとても寒い朝だったが、相変わらず観光客でいっぱい。この世界的なイギリス王室人気を作り上げたのもエリザベスだと言っても過言ではないだろう。

191205_IMG_5480.jpg

宮殿の重厚な門。この日は宮殿上にユニオンジャックがはためき、女王が宮殿内に居ることを示していた。

最初このドラマが公開された時、王室はどう反応するんだろうとちょっとした話題になった。実はエリザベス女王自身も「ザ・クラウン」のファンという噂もある。

191205_IMG_5506.jpg

宮殿に隣接するグリーンパーク。クリスマスを前にすっかり冬の風景となっていた。

「ザ・クラウン」

原題/The Crown
クリエイター/ピーター・モーガン
出演/オリヴィア・コールマン、ヘレナ・ボナム=カーター、トビアス・メンジーズ、ジョシュ・オコナーほか
Netflixオリジナルシリーズ
Netflixにてシーズン1~3独占配信中

坂本みゆき

在英ライター
憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

ARCHIVE

MONTHLY

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。