England's Dreaming

イギリスの歌姫、リナ・サワヤマに夢中な理由。

リナ・サワヤマを知ったのは実は結構最近で、昨年イギリス国籍を持っていないことを理由に彼女がイギリスの音楽賞ブリットアワードにノミネートされなかった悲しみをツイッターで表明した時だった。音楽というオープンなイメージのある業界でも、いまだにそんなことがあるんだと悲しかったし、そもそもこれだけ多様なバックグラウンドの人が暮らすイギリスの産業界でそんな決まりがあること自体がショックだった。

それをきっかけに彼女のファーストアルバム『SAWAYAMA』を聴いたのだけれども、イギリスで言うところの「blown away」されちゃった、というか、その格好良さに私はまさにぶっ飛ばされた。

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リナのファーストアルバム『SAWAYAMA』。現在はセカンドアルバムを製作中とのことで、そちらも非常に楽しみ。

その後、ブリットアワードの一件は、「ピクセルズ」と呼ばれる彼女のファンたちが#SAWAYAMAISBRITISH(サワヤマは英国人)というハッシュタグで支援。多くのマスコミも取り上げた。これをきっかけに賞を主催する英国レコード産業協会はノミネートの基準を変更することに。今年からイギリスをベースに5年以上活動するすべてのアーティストが対象となった。

>>イギリス音楽協会を動かした、リナ・サワヤマの功績。

だから5月20日発売のフィガロジャポン「美しい人、その理由。」という特集には、ロンドンから提案するなら絶対にリナ!と思っていた。幸い取材が叶い、時節柄ZOOMでのインタビューだったけれども、PCに突っ込んだイヤフォンからリナの声が聞こえた時は本気で震えた。

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リナの曲の魅力は、その歌詞が「ああ、これって私のことだ」と思わせてくれるところ。勇気がなくて言えなかったことを、堂々と言葉にして代弁してくれる。そして聞き手に温かな手を差し伸べてくれる。

たとえばアルバム一曲目の「Dynasty」。教会音楽を思わせるイントロで始まり、家族との軋轢と、その血を受け継ぐことに苦しみながらも「この連鎖を一緒に断ち切ってしまわない?」と問いかけてくる。リナは自分の家族との関係を歌ったと言っていたのだけれども、古い世代や考え方の呪縛からの解放の歌と捉えたら、多くの人を励ましているのは容易に想像がつく。

NPR MUSICの「Tiny Desk Concert」では1曲目に「Dynasty」を演奏。

「Bad Friend」も心に響く。楽しい時間をたくさんシェアした親友と疎遠になってしまい、「そんな私は悪い友達よね」と歌う。「人との関係をうまく維持するが苦手な人は手をあげて」という箇所では、私は迷わず挙手してしまう。そしてMV が秀逸!メランコリックな曲に、コミカルながらもシュールなビジュアルを合わせるセンスが最高。ホントどこまでも格好良いんだな、彼女は。

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リナが友人の結婚式に出席した時に出会った人々との会話がきっかけに生まれた曲が「STFU!」。それはMVの冒頭の寸劇にもアレンジされているのだけれども、私を含めてたぶん海外で暮らしていると一度は経験があることだと思う。時々現れる、アジアに関する知識や理解があるそぶりを見せながらも、言っていることははちゃめちゃでマナーも最悪な人たち。めったに怒らないアジアの女性たちをいいことに無礼を連発する相手に「私へのリスペクトはどこ?」と問い詰める。

「Chosen Family」は先月エルトン・ジョンとのコラボバージョンも出たばかり。実の家族との関係が難しくなってしまったクイア(性的マイノリティ)同士の、血の繋がりを超えた関係を祝福した歌。「遺伝子や名字をシェアしていなくてもいい。私があなたを家族として選んだのだから」という歌詞が胸を打つ。個人的には私のニューヨークに住む友人の「友達は家族だから」という名言を思い出したりした。そう友人同士にだって当てはまるのだ。

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もうひとつ最高に好きな曲は「Paradisin’」だ。10代のリナと彼女の母親のことを題材にしている。歌詞によるとファーストキスは2003年、つまりはリナが13歳の時。そんな早熟な彼女を心配した母は、リナのMSNメッセンジャーをハックしたり、ボーイフレンドの番号を秘密裏にゲットして電話してきたり、友人にメールを出したりして、あの手この手でリナを出先まで追いかけてくる。いっぽうリナは「人生で忘れられない時間を私に持たせて」と訴える。リナよりもかなり遅かったけれども、自由奔放だった自分の若い頃を思い出しつつも現在は母となった私は、両サイドからの気持ちが痛いほど分かる。

そして異国で子育てという難しい暮らしのなかでもパワーあふれるリナのお母さん(どうやってお嬢さんのメッセンジャーをハックする方法を見つけたのですか?)。先輩として尊敬して止まない。

母の日にアップされた、お母さんとのツーショット。懸命に働きながら日本の文化への接点を絶やさずに育ててくれたことへの感謝が綴られている。

リナをライブで観たいなあと思いつつ、パンデミックでコンサート行きを悩んでいたら、11月のロンドンはもちろんUKツアーのチケットはすでにすべてソールドアウトに。現在は追加公演を心から望んでいる私なのでした。全曲を一緒に大声で歌いたい!

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坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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