England's Dreaming

英国の歴史とファッションが交差する展覧会を訪ねて。

ブルームズベリー・グループは20世紀初頭に小説家のヴァージニア・ウルフらイギリスの文化人たちによるカルチャー集団だ。そのメンバーだった画家でヴァージニア・ウルフの姉のヴァネッサ・ベルと、やはり画家でヴァネッサの夫ダンカン・グラントが暮らした家チャールストン・ハウスは現在もイースト・サセックスに残されていて、当時の様子を伝える内外部を公開しながらイベントやエキシビションも行う文化施設となっている。

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チャールストン・ハウス。今回は立ち寄れなかったけれども、現在はデヴィッド・ホックニー のドローイングの展覧会が開かれている。

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そのチャールストン・ハウスが新しくギャラリースペース、チャールストン・イン・ルイスをオープンした。現在はこけら落としとしてブルームズベリー・グループとファッションの関係を探るエキシビション「Bring No Clothes: Bloomsbury and Fashion」が来年1月7日まで行われている。

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チャールストン・イン・ルイス。ルイスの駅から歩いて数分。鮮やかなブルーのサインが目印だ。

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多くの人々は厳格なルールに則って暮らしていた1900年代前半のロンドンで、ブルームズベリー・グループのメンバーは自由を探求して性にもオープンだった。その思想は今でも多くのデザイナーたちのインスピレーション源となっている。

例えばキム・ジョーンズが手がけたディオールの2023年春夏メンズコレクション。ブランドの創立者クリスチャン・ディオール、そして彼の生誕地であるフランスのノルマンディーと愛した庭園があるグランヴィルとともに、ダンカン・グラントとチャールストン・ハウスをテーマに据えている。グラントのアートが効果的に使われているのが印象的だ。

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キム・ジョーンズのディオール2023年春夏メンズコレクションとダンカン・グラントのアートを並べて。

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『眺めのいい部屋』の著者、E.M.フォースターのテイラードへのこだわりと、ヒューマニストとして性別や階級を超えて相入れる信条は、S.S.デイリーのジェンダフリーな服につながるともしている。

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注目の若手デザイナー、S.S.デイリーのコレクションより。右のワイドパンツはデイリーが美大の卒業制作のために作ったもので、ハリー・スタイルズがMVで着用したことでも知られている。

ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』をオペラ化した舞台のためにコム・デ・ギャルソンの川久保玲が制作した衣装も展示している。

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男性として産まれながらも、昏睡状態から目が醒めると女性に生まれ変わっていたオーランドー。そんな複雑な性を、衣装を通して見事に表現している。

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エキシビションのクライマックスは、カール・ラガーフェルドの後を継いでキム・ジョーンズが初めて手がけたフェンディ2021年春夏オートクチュールコレクションのドレスとショー映像だ。

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『オーランドー』の持つ複雑なジェンダーをデザインしたドレスにも注目。

幼い頃の一時期をサセックスで過ごしたジョーンズにとって、チャールストン・ハウスは繰り返し訪れた場所だったとか。そんな彼がコレクションのテーマの一つに選んだのはヴァージニア・ウルフ。ヴァネッサ・ベルがチャールストン・ハウスに残した絵画もヒントになっているという。

ショーのオープニングには唯一残されているヴァージニア・ウルフの音声が流れ、最初のルックを披露したデミ・ムーアが『オーランドー』の初版本を手に取るシーンも。

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ブルームズベリー・グループのメンバーが所有していた衣服はほとんど残っていないそうだけれども、彼らが描いた絵からその様子が垣間みられる。いま着ていてもまったく違和感がないくらいモダン。ヴァネッサ・ベルは自分で服作りも手がけたそうだけれども、完成させずに安全ピンで留めて着用していたとか。パンクか!?

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ブルームズベリー・グループのアーティストたちが描いた油絵。右端の現代的な聖母像はとてもシンプルな装い。中央の絵に描かれている男性は編み上げのサンダルを履いていて、こだわりが感じられる。

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ヴァージニア・ウルフ、ヴァネッサ・ベルら姉妹が愛用していた貝殻のネックレスは、彼女たちが所有していた現存する数少ないファッションアイテムという。

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かつてサザビーズのオークションに出されたヴァージニア・ウルフの眼鏡。これだけ競り落とされることがなく、左の封筒に入れて返却のため郵送されてきたそう。

彼らのリベラルで自由に基づいた信念は当時は非難を集めることも多かったと聞いている。でも現在のイギリスでは広く受け入れられているうえに、伝統と革新を織りなすことが得意なイギリスのデザイナーたちに多大な影響と刺激を与えていることがよく分かった。またブルームズベリー・グループのゆかりの地でこの展覧会を見られたことも感慨深い。

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チャールストン・イン・ルイスのギャラリーショップには、ヴァネッサ・ベルがデザインしたテキスタイルの復刻版や、ブルームズベリー・グループにインスパイアされたインテリア小物や文具も並んでいた。どれもとても可愛い。

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テキスタイルはメートル単位で販売。マネキンが着たドレスも素敵。

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ブルームズベリー・グループの手がけたデザインにインスパイヤされたプリントを使った文具。

ルイスはロンドンから列車で1時間ほどの距離にある美しく、アンティークショップが軒を連ねる魅力あふれる街。秋から冬のアート鑑賞と散策を合わせて訪れるのにはもってこいのお勧めの場所だ。

坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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