35歳、シングルマザーのエディターが、パリに移住してみたら

パリで消えた物欲魔神と、住宅詐欺の話。

こんにちは、鈴木桃子です。パリ暮らしも数カ月が経ち、ようやく慣れてきたこの頃。いちばん変わったなと思うのは、物欲が減ったことでしょうか。

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冬の寒さが和らいできたここ最近です。

でも、これ、なんとなく移住前から予想していたことでした。中高時代にお弁当を共にしていた旧友がパリで長くフォトグラファーとして活躍していて、いつも彼女のミニマリストぶりに感銘を受けていたのです。フィガロジャポンの撮影で、一緒に素敵なアトリエやショップを訪れることも多かったのですが、あれもこれもと猛烈な物欲に駆られる私の横で、彼女はいつも涼しい顔。でも時に、本当に必要なものを見極めて、ひょいっと買っていくのです。なんて、かっこいいんだ!と、自分の物欲魔神ぶりに冷や汗が出ることもありました。

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旧友の家にて、友人の守屋百合香さんのお花。ミモザの季節は幸せな気分になります。

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「フランス人は10着しか服を持たない」なんて言葉も流行りましたが、フランスの暮らしぶりは、本当にあまりお金を使わないなと感じます。10着しか持たないは、あくまでも比喩ではあるけれど、みんな財布の紐は硬く、欲しいものを見極めて長く大事に使い続けている。

東京の暮らしの中では、自分が本当に欲しいものが見えにくくなっていました。仕事に必要と言い訳しながら、ストレス解消のために買い物をすることもしばしば。執着や愛着度の低い買い物をしては、後悔に駆られることもありました。シングルマザーの私は、しっかり働いてきたといえど、共働きの家庭に比べると、圧倒的に可処分所得が低いです。そんな限りのある中で、自分の物欲につきあい続けるよりも、人生の大きなことに投資する方を選びたいと、いつからか思うようになりました。フランスの、ある意味お金を使わない暮らしは、
そんな私の人生観にも合うのかもしれないと思ったのも、移住理由のひとつです。そして、いまパリでフランス人の暮らしぶりに感化され、地に足のついた、丁寧な買い物ができるようになってきた感覚があります。

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とはいえ、パリ到着後は物欲マックスでいろいろ揃えました。絨毯はCallaの一点もの。

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さて、前回お伝えしていた住宅詐欺のお話。あまりお金を使わないパリ暮らしといえども、円安の影響もあり、家賃はやはり高め。そして、日本人はパリで保証人を立てることもできないため、希望物件にすんなりと入ることは非常に難しいそうです。ビザの申請時に、パリでの滞在先を数ヵ月先まで確保しておかないといけないため、私は日本から物件を探したのですが、かなり難航しました。

日系不動産会社や日本人向け掲示板など、いろいろ探し回り、ビザの面接が迫り来る中、焦って飛びついたのはある物件情報。大家はイギリス人の医者で、不在の間パリの部屋を貸す、というもの。何度かメールを交わした後、「とても綺麗好きな家族なので、ルールを厳守できるなら貸す」という、特別条項が書かれた契約書類が送られてきました。こんなに綺麗に使ってくれと伝えてくるなんて、よっぽど愛着がある家なのね!と思ってしまった私。念の為、身分証を送ってくれないかと伝えると、すぐに顔写真の入ったパスポートも送ってくれ、安心していたのです。

契約書類を交わした後、先に保証金(大体目安、家賃の1ヵ月分)を入金してほしいとのこと。どんな大家との契約でも、部屋をキープするためには事前振り込みは致し方ないため、
特に怪しいと思うこともありませんでした。でも、メールに書かれている振込先を見てびっくり。振込先の名前、どう見ても中国人なんだけど……!

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パリの街角にて。木の上で途方に暮れるクマ。

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「あなたの名前の口座ではないよね?」と突っ込むと、「会社を運営しているから、会社の口座名だよ〜」という回答。薄々おかしいと感じてはいるけれど、私は必死でパリの物件を探している身。詐欺だという確証を得るまでは簡単には諦めきれません。
私「銀行の振込時間に間に合わなかったから、海外送金サービスを使ってもいい?」
詐欺師「それは、どれくらいの期間で入金されるの?」
私「すぐだよ!そのサービスなら、直接あなたに振り込むことができて安心です」
詐欺師「わかった、でもいまから急患だから少し待って」
そう言って、ぱったり連絡が来なくなりました。

その間に、この詐欺師の名前やメールアドレスをインターネットでひたすら検索。すると、イギリスやカナダ、アメリカの日本人向け掲示板にも、全く同じ部屋の写真で物件情報が掲載されているのを発見!
私「あなたはイギリスやカナダにも物件を持っているの?」
詐欺師「うん、でもこの部屋はもう借りられたよ〜」
私「パリの部屋と同じ写真なんだけど。詐欺ですよね?」
詐欺師、既読スルー。

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1月のガレット・デ・ロワ。フェーブが当たったので、今年は詐欺にはあわないはず。

よく考えると、最初からいろいろ怪しかったのですが、限られた時間の中で追い込まれていると、良いように脳内変換されてしまうものなのですね。住宅詐欺に遭いかけた私は、遠隔での契約が怖くなっていたのですが、最終的に、前述の旧友のツテを頼って物件を借りることができました。どんなに長くパリで暮らしている日本人でも、賃貸はやはり難しく、みんな何かしら苦労したり、トラブルにあったりしてきた様子。パリの物件はコネの世界なのだと身に染みました。

そうして、必要なものを揃えて無事にビザ申請したものの、発給通知はなかなか届くことがなかったのでした。次回、バタバタの渡航準備へ!

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鈴木桃子

パリ在住エディター、ライター。1987年生まれ。早稲田大学在学時、20歳で結婚&出産。出版社勤務を経て、離婚後に渡米。帰国後、2016年よりフィガロジャポン編集部のエディターとして勤務。2022年10月より、高校生の息子とともにパリへ移住し、フリーランスで活動中。
Instagram:@momoko____szk

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