珠玉の歌も心に残る、映画『僕と世界の方程式』♫
1月28日(土)から公開になった映画『僕と世界の方程式』。この作品を制作したイギリスでの原題は『X+Y』、アメリカでは『A Brilliant Young Mind』というタイトルで紹介されている。主人公は数学と図形に関して飛び抜けた才能を持った少年ネイサン。これまでも数学に天才的才能を発揮する人物の小説や映画は少なくなく、彼らの多くが社会に適応しにくい性格の持ち主であったり、共感覚の持ち主であったりするケースが多い。
このネイサン(エイサ・バターフィールド)も、そう。幼い時から他人とのコミュニケーション能力に欠け、医師からは自閉症スペクトラムと診断されていたものの、数学やパズルに強い関心を持っていた。しかし、唯一の彼の理解者である父親がネイサンと同乗していた車で交通事故に遭い、そこからネイサンはさらに自分の世界に閉じこもってしまうようになる。
キートンは元々イラストレーターとして、友人のバンドなどのアルバムジャケットのアートワークを描いていたが、ある日、曲を書き、そのうちの1曲を大切な友人にプレゼントしたことがきっかけとなって、2010年に自主制作ながらアルバム『Dear…』を完成させている。とても親密な音楽に感じるのは、彼がパニック障害であることと関係しているのかもしれないし、父が俳優のニック・ヘンソン、母がバレエダンサーで現在は振付師として活躍するマルグリット・ポーターという、芸術家の家系で育ったこともあるかもしれない。
現在は、シンガー・ソングライターとしてアルバム3枚など発表している他に、ヴィジュアル・アーティストや詩人としても活躍している彼。犬のようにどこか寂しげな大きな瞳が印象的で、面長の顔や伸びた口髭からもハウンド系の大型犬を想起してしまうが、でも歌う表情はとても繊細そうだ。この映画をきっかけに、日本でもファンが増えるのでは、と思う。
アミーナはアイスランドの音楽が好きな人にとってはお馴染みのグループ。シガーロスと親しいことでも知られ、2006年4月のシガーロスの来日公演に同行し、アットホームな雰囲気のライヴ・パフォーマンスを披露していた。
この他にフレド・ヴィオラや、サム・フーパー、ダンシング・イヤーズの楽曲も登場。スコアを担当しているのはマーティン・フィップス(『説きふせられて』、『黄金のアデーレ 名画の帰還』ほか)で、彼の楽曲もキートン・ヘンソンとアミーナの中間に佇むような音も旋律も美しい音楽で、こちらも秀逸だ。
音楽一つをとっても丁寧に練られているのは、このストーリーが実話をきっかけに生まれていることもあるだろう。しかも監督のモーガン・マシューズは、この映画の原案となる長編ドキュメンタリー『Beautiful Young Minds』(2007年放映)をBBCで撮影している(この時の音楽はサム・フーパーが担当)。
その監督の熱意に応えるように、主役のネイサン・エリスを演じるエイサ・バターフィールドも、とても好演している。私はマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)での彼をとてもよく覚えているが、その後の活躍も目覚ましく、最新作はティム・バートン監督の『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(来月2月に日本公開)に出演。これからの活躍がとても楽しみな19歳だ。
もちろんこの映画は若者向けと限られているわけではなく、ネイサンを取り巻く大人たちの生き方に心動かされる人も多いと思う。監督からの信頼の厚い、母親役のサリー・ホーキンスの演技も光る。
『僕と世界の方程式』http://bokutosekai.com/
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