MUSIC DIARY 24/7

レディー・ガガがハーフタイム・ショーに込めた思いとは?

 

2月5日の夜(日本時間6日朝)、アメリカのテキサス州ヒューストンで開催された第51回スーパーボウルのハーフタイム・ショーに、レディー・ガガが出演した。今やエンタメ業界でも注目度の高いハーフタイム・ショー、元々は開催地にある大学のマーチングバンドが演奏することが主だったけれど、転換期は1991年にニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックが登場したことから。それからはマイケル・ジャクソンやジャネット・ジャクソン、ザ・ローリング・ストーンズ、マドンナやビヨンセなど大物が毎年出演している。この13分間ほどのショーに出演料は出ないが、今や全米で1億人以上が視聴するとあって(視聴率40%強)、アーティストたちにはそれが何よりの魅力となっているのだ。

 

ここ最近では2015年はケイティ・ペリー、レニー・クラヴィッツ、ミッシー・エリオット、16年はコールドプレイ、ブルーノ・マーズ、ビヨンセ……と複数で会場を賑わせてきたが、今回はレディー・ガガのみ。彼女自身、早くからこの舞台に立ちたがっていたし、ドナルド・トランプ政権で揺れるこのタイミングでの出演は願ってもないことだったと思う。大統領選挙ではヒラリー・クリントンを支持し、トランプ批判を繰り返してきたガガ。イタリア系アメリカ人ゆえ、元を辿れば彼女も移民の家系である。ただし、ハーフタイム・ショーには政治を持ち込んではいけないと言われているため、どのような内容になるのか、いつも以上に関心を集めた。

 

image001.jpg 衣装はカスタムメイドされたAtelier Versaceのジャンプスーツを着用。フューチャリスティックなデザインが特徴。ブーツにもビーズとスワロフスキーのクリスタルが。

 

スーパーボウルの熱戦の興奮を一瞬にしてクールダウンさせ、観客の視線はスタジアムの屋上に立ったガガに向けられた。周囲には300機ものドローンを飛ばして、星空を想起させるかのように赤や白、青のライトが煌めく(星条旗の色合いっぽい)。

 

ピアノの演奏をバックに高らかに歌い上げられた1曲目の「ゴッド・ブレス・アメリカ」(1918年)は、アメリカの愛国歌として歌い継がれてきたナンバーだ。“愛国心を呼び起こす曲”として知られ、1938年11月の第一次世界大戦が集結した記念日や、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件から復旧したニューヨーク証券取引所でも流れるなど、“アメリカ合衆国の第二の国歌”と言われている。作詞作曲は帝政ロシア(現ベラルーシ)からアメリカへ移民してきたアーヴィング・バーリンで、正式な音楽教育を受けていないものの「ホワイト・クリスマス」など多数の優れたポピュラー・ソングを生み出した作曲家だ。

 

その歌の冒頭のフレーズに続けて、ボブ・ディランが多大な影響を受けたことでも知られ、プロテストソングの歌い手でもあるウッディ・ガスリーの名曲「我が祖国(This Land Is Your Land)」(1940 年)を熱唱。こちらは1番のAメロの最初 “This land is your land,  This land is my land” と、Aメロ最後のフレーズ“This land was made for you and me”をセレクトしていた。ガスリーは、大恐慌の時代に貧困ゆえ放浪生活を送っていたこともあるフォーク歌手で、「ゴッド・ブレス・ユー」を非現実的だと嫌い、国家への賛歌ではなく、不況下で厳しい生活を送る人たちへの応援歌や自由への賛歌として「我が祖国」を書いた。

 

ガガは、その相反するナンバーを一緒にして歌った後、アメリカ人なら誰でも知っている「忠誠の誓い(Pledge of Allegiance)」の後半部分を引用し、“One Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all(私たちは神の下にいる一つの国家。自由と正義と共に全ての人を分裂させることはできない)”と、最後の"for allを強調。語り終えると、ワイヤーアクションをしながら地上へ飛び降りた。さすがのオープニングだ。

 

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「ジャスト・ダンス」はショルダー・キーボード(キーター)を弾きながら。衣装はAtelier Versaceのゴールドのクロップトジャケット。

 

その後は壮大なセットとお得意の群舞で、ヒット曲の「ポーカー・フェイス」、「ボーン・ディス・ウェイ」、「テレフォン」、「ジャスト・ダンス」をメドレーで展開。なかでも、“人種や宗教、性別など気にせず、意味を持って生まれてきたのだから、自分のあるがままに胸を張って生きていこう”という、最もメッセージ色の強い「ボーン・ディス・ウェイ」がステージ前に集まった観衆を中心に会場を沸かせた。この曲はアメリカでは、配信後3時間でiTunesチャート第1位を記録したほどの人気曲だ。日本でもガガの曲で一番知られていると思う。

 

一息ついてからピアノを弾きながら歌った「ミリオン・リーズンズ」は最新アルバム『ジョアン』からのナンバー。昨年11月2日に行われた来日記者会見で、「日本のファンにこのアルバムから捧げるとしたら、どの曲?」訊かれ、選んでいた曲でもある。その時は、しばらく悩んで次のように答えていた。

 

「今だったら『ミリオン・リーズンズ』。サビで歌っているように“100万個の理由からここを諦めようという気持ちはあるけれど、今の私に必要なのは、ここを頑張り抜くための理由が1つ、それだけを私は求めている”というメッセージの曲ね。これは信じることの素晴らしさ、信じることでどれだけ人が力を持てるかということであり、まさに私の叔母ジョアンがそういう人間だったの。どんな人でも、それが神なのか、もしくは宗教でなくても、自分が信じる人、すがるものを持っていると思う。なので、この曲は日本のファンの人たちが辛い時に“絶対、大丈夫”だよって言ってあげる、信じることの素晴らしさや、みんなにも1人じゃないということを知ってもらいたい、そういう歌です」

 

ハーフタイム・ショーでも、ガガらしい信念の強い思いをこの歌に込めて歌っていたに違いない。

 

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「バッド・ロマンス」での衣装は、同じくAtelier Versaceの刺繍付きのホットパンツで。スワロフスキーのクリスタルもたっぷり。

 

ショーの最後の曲に「バッド・ロマンス」を持ってきたのは、シニカルな意味も含めてガガらしいと思った。これまで多くの社会貢献活動やいじめ撲滅運動、また米軍の同性愛者への規制撤廃など、アメリカと真摯に向かい合ってきた、アメリカに対するガガの思いそのものなのだと思う。

 

 Lady Gaga's Pepsi Zero Sugar Super Bowl LI Halftime Show

ショーアップされた中に、深い意味を持たせガガ。試合は史上初の延長戦となり、ニューイングランド・ペイトリオッツが大逆転でアトランタ・ファルコンズに勝利。アメリカの政治も、このあと何か大逆転が起こるのだろうか。

 

 

 

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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