
台湾の駅弁を東京の鶯谷で! 郷愁の台北台鉄弁当。
五香粉の香りを嗅ぐと、パブロフの犬のようにじわりと涎が溢れてくる
八角、丁香、肉桂、花椒、小茴香がおりなす魅力的な香り
小茴香と丁香が甘い香りを、八角と花椒はスパイシーな香りを漂わせ、肉桂とはいわゆるシナモンで、甘味とスパイシー味の両方を兼ねそろえ、皆を優しく調和させている
この複雑な香りに最適な料理といえば、肉料理ではないだろうか
いまや原宿でも売られている大鶏排が有名だが、私は超絶に拝骨を推したい
適度に叩いて薄くした骨付きの豚肉を、五香粉、ニンニク、生姜などで味付けし、素揚げする
衣付きのものもあるが、私は断じて素揚げ派だ
日本のあらゆる場所で拝骨を食べてきたが、鶯谷の「龍一吟」の台鉄弁当の拝骨はまさに理想だった
素揚げされた豚肉の程よい火入れ加減、高菜の塩加減、味付けたまごの固さ加減、青菜の炒め加減、そして忘れてはならない黄色い沢庵の添え加減、と、全てが絶妙加減
黄金色の拝骨
目を瞑って食せば、私は台中へ向かう蒸気機関車の中に座っている
ぐらぐらと揺られながら、父と母が隣合って温かい台鉄弁当を食べている
父がステンレス容器の蓋を開けると湯気が立ち登り、五香粉の香りが鼻腔をくすぐる
素揚げ拝骨を噛み締め、ご飯を頬張り、沢庵を齧りながら、笑顔でお互いを見つめている
黒々とした父の髪の向こうには蒸気が揺らぎ、母の赤毛を湯気が包み込む
父の話が終わると同時にゆらゆらと立ち上っていた湯気も、もくもくとした蒸気も消えていき、目の前にいる父の髪は白く、皺が刻み込まれている
何十年と経ったいまでも、父はあの郷愁の美味を幾度も反芻している
私はきっといつまでも父ほど美味しく食べられないのだと思う
小さい頃から繰り返し聞かされてきたその美味しいラブストーリーの刷り込みにより、五香粉の香りを嗅ぐと私は犬化してしまう
鼻をくんくんと利かせ、ようやく辿り着いた「龍一吟」の台鉄弁当
帯同した夫は邪道にも台湾ラーメンを食べていた
一口もらったが、悔しくも過去一美味しかった
ではきっと肉圓も美味しいはずと注文するも、その日は売り切れだった......無念
涎を垂らした犬は、今日も台湾の味を求めて東京を右往左往と彷徨っている
東京都台東区根岸3丁目6−5 根岸ビル 1F
営)17:00~22:00(火~金)、11:30~14:00、17:00~22:00(土、日)
休)月
@longyiyinrongin
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