我想台湾

追憶の台湾小吃

過日、数億年ぶりにパリへ。
グレー色の空はなく、ライトブルーの高い空を見上げながら、あゝこの季節のパリが一番好きだ、と感嘆していたが、しばらく過ごすうちに、大切な何かをどこかにおいてきたような気がしていた。

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ある夜、予約していただいたとても美味しいフレンチレストランで、どういうわけか台湾食の話になり、ご一緒した素敵な大人女性のゆうこさんが、熱っぽくタピオカ愛の話をしてくださったものだから、翌日歩いていたマレ地区で、汗だくになった私の目に飛び込んできたタピオカ屋さんで、どれどれと一杯いただいた。

灼熱のパリの街で、ずいぶんと久しぶりに飲んだパッションフルーツのタピオカティーが最高に美味しくて、眠っていたタピオカ熱が再燃してしまった。

帰国してから程なく、貢茶(ゴンチャ)の阿里山烏龍タピオカミルクティーを飲んだ。いつ飲んでも味も食感も変わらなくて、感心する。タピオカは煮るのがとても難しく、自分で煮た時は散々であったから。

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美味しい青茶を一気に飲み干しても、何かが足りない感はまだ拭えない。

思えば、ロサンゼルスの大学に在学中、クラスが終わると、Cerritos辺りに行き、友人とタピオカミルクティーを堪能したものだった。

サイドで注文するおやつは、確か「Popcorn Chicken」という名称だった。

スパイスで漬け込まれたポップコーンのように小さくカットされたチキンは、からりと揚げた後、さらにスパイスソルトが振り掛けられている。

友人と一つの袋から竹串で小さなチキンを、えいっとつつきあって食べていた。

口を窄ませて飲むタピオカミルクティーは、実は少々薄いがまあ悪くないと思っていた。

そんなことよりカルフォルニアサンセットが美しくて全てを許せる。壮大な自然芸術に小さなわだかまりなど、いとも容易く捨ててしまえる。

「鹽酥雞(イエンスージー)!」

そうだ、Popcorn chickenの正体は、鹽酥雞だったのだ。

今までどうして結び付かなかったのか、どれだけ忘れていたのか、忙殺の毎日に記憶を置いてきすぎだろうと自分に呆れてしまう。

旧友と話した内容は思い出せなくても、彼が着ていたシャツの色と生地、楽しかった感情とその時の香りは、よくよく覚えていた。

ロサンゼルスで食べた、台湾屋台で頬張る、あの五香粉の香りが溢れた鹽酥雞を東京でも食べたい。

北沢の「猫米」の鹽酥雞はまさに私の理想である。

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屋台で使われているような紙袋でサーブされ、揚げたバジル、大好物の米血糕と炸甜不辣が入っている。これらが入っていないと物足りなくて眉毛も口角も下がってしまう。

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一口ほおばると五香粉をベースにしたパンチある香りが口腔、鼻腔を満たし、
じわりじわりと肉汁が染み出てくるので、サッと揚げバジルを口に放り込むと、これまた爽快なのである。インゲンもいい仕事している〜

台湾では「九層塔」と呼ばれる台湾バジルと一緒に揚げるが、こちらではスイートバジルだろうか?それもまた穏やかな味でいい。

猫米さんの絶妙な塩加減とスパイスの適量感。
何事も足せばいいというわけではないと教えてくれる。

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もちもちした炸甜不辣は台湾では「ティエンブーラー」と発音するのだが、
日本のさつま揚げとは違い、韓国のてんぷらに似ている。ねっとりもっちりとした食感の後に追いかけてくる穏やかな旨味が美味しい。

黒い米血糕は、日本人にはちょっと怖いと思われるかもしれないが、豚や鴨の血を餅米で固めたもの。臭みはなく、特段味もない。どちらかというと食感を楽しむものだ。血液までも無駄にせずと動物への敬愛だと思う。

鹽酥雞の刺激的で魅惑的な香りは、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」のマドレーヌなのだ。

あれ以来、無知で無謀だった、でも勇敢だった自分を少し取り戻したような気がする。

若い頃は思い出を軽んじていたのに、近頃は思い出を懐かしめるようになったらしい。

人生が終わるまでに、あと夏を何回過ごせるのかと思うと少々ゾッとするが、
驚きみ、懐かしみ、ゆとりをもちなおして、存分にこの夏も楽しみたいと思う。

高橋れいみ

群馬県で台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼少期に台湾で多くを過ごし思春期にロサンゼルスに移住。民族的な手仕事やモダニズムに強く影響を受ける。
2016年~R.ALAGAN(ララガン)を設立。亜魂洋才をコンセプトに掲げ、日本のジュエリー職人と高品質なジュエリーを制作している。

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