我想台湾

湯気の誘惑

生まれてからこのかた、どうにもこうにも寒いのがめっぽう苦手で、冬は心も身体も冬眠状態に入る。

布団に潜りこんで、あゝ目が覚めたら夏だったらいいのにと毎年思う。

ようやく春めいてきたかと、重くて厚いウールのコートを薄手のホスピタルコートに変えるが、今年は花粉にやられっぱなしだ。

ストールを適当に身体に巻きつけながら、友人が営むyayaproductsで買わせてもらった美味しい鉄観音を熱々のまま飲み干し、ウズウズのカユカユを洗い落とす毎朝。

yayaの鉄観音は、昔ながらの伝統的な烏龍茶の製法を守り、通常よりも焙煎をかなり強めに仕上げて香りと味をしっかりと出したそうで、ぐんと強さがある。

阿里山金萱茶も鼻から抜ける艶めかしい香りと、ナッツのようなまろやかでコクのある味が堪らない美味しさだ。
金のプールで泳いでいるような恍惚感。
これを飲んでいる間は花粉症のことをしばし忘れられる。

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重い身体を引きずって、踵を上げながら、上の棚からよいしょっと台北の油化街で買った蒸籠を取り出し、鍋に水を張り、コンロに火をつける。

蒸篭の裾が少し焦げているのは、ご愛嬌で。

買い込んでいた世田谷区の名店「鹿港(ルーガン)」の饅頭を冷凍庫から取り出して、湯気がもくもくとしてきた蒸篭にそっと置く。

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鹿港は台北の振味珍で修行したオーナーが始めたお店だ。休日には多くの人が並び、午後には完売してしまうそう。

さてさて、いい香りが立ち込めてくるといい頃合いだ。

パカっと蒸篭の蓋をあげると、湯気の合間から愛おしい姿が見える。

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元々丸々として愛らしい姿が、湯気を纏ってさらに可愛くなっている。

鹿港の饅頭は、肉まんよりも生地がきめ細やかで繊細な口当たりだ。水分を程よく含んでいてふっくらとしている。

空気と水分と生地のレイヤードが完璧。

ほんのりと甘くふっくらしつつも、よく練り込まれたであろうコシがあり、程よい弾力があり、口の中で舌と生地が押し合っている感じが、妙に心地いい。

蒸し器で蒸すと木の香りが、ふわりまとわりついてさらに美味しく感じる。

鹿港では黒糖饅頭も一緒に買うが、これもまた美味しい。

その名の通り黒糖が練り込まれコクのある甘さが際立っていて、娘のお気に入りのおやつだ。爪で饅頭に跡をつけて顔を作ったりして遊んでいるのが、なんだか微笑ましい。

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白い饅頭は、もちろんそのまま食べても美味しいが、真ん中に切れ込みを包丁で入れて、高菜と焼豚を入れて食べるのもおすすめだ。

特に好きな食べ方は、湖南料理の蒸しパンに蜂蜜で漬け込んだ金華ハムを挟む食べ方を真似て、焼き豚を蜂蜜で漬け込んだものを挟んで食べる。

甘い塩っぱい甘い塩っぱいが永遠に続く”あまじょっぱいエンドレスワールド”

時には油で揚げて、こんがりと美しいブラウンになった揚饅頭の味は……とても罪深い。

サクッとした外側ともっちりの内側、香ばしさの後にほのかな甘さが追いかけてくる。

その揚饅頭にきなこをつけると……もう心の中で誰かに懺悔している。(何故)

それにも飽き足らず、揚饅頭の端に、練乳を少しつけた日には……健やかに天に召される。

ご存知の通り、血糖値の急上昇により、食べ終えた後は急激に眠くなるのだが……。

この罪深い美味しさを知ってしまった私は永遠にグルテンをフリーにできないだろう。

柔らかく優しく全てを包み込む湯気は、私にとってはライナスの毛布のようだ。

安心毛布ならぬ、安心湯気。

街角や夜市など、ところどころで湯気が立ち上る台北を思い出し、なんだか不思議と心が落ち着くからだ。

合理的なんて言葉は忘れて、時には誘惑に溺れ、存分に自分を甘やかし、甘やかし尽くしてしまおうと思う。

春の優しい優しい湯気の誘惑。

今回紹介したお店

・阿振肉包 振味珍
www.a-zen.com.tw

・yayaproducts
https://yayaproducts.stores.jp

・鹿港
www.lu-gang.net

台湾のお店の写真は台湾在住の姉が撮影しています。
Instagramや、ブログ「台湾で食べまくり」を書いているのでお暇な時に覗いてみてください。

高橋れいみ

群馬県で台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼少期に台湾で多くを過ごし思春期にロサンゼルスに移住。民族的な手仕事やモダニズムに強く影響を受ける。
2016年~R.ALAGAN(ララガン)を設立。亜魂洋才をコンセプトに掲げ、日本のジュエリー職人と高品質なジュエリーを制作している。

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