台湾の初雪
「どんなものを食べているかを言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう」
サヴァランにそう言われたら、
「最近、初雪を食べました」と答えるだろう
"台菜"のメニューはおおよそ知りつくしていると自負していたが、このビーフンを口に入れた直後、知ったかぶりだった自分をひどく恥じることになる
ビーフンに歯を入れた瞬間、体験したことのない食感に目を見開いた
ふわふわとした...
程よく水分を含んだ...
まるでこれは...
「初雪だ」
私は今、空気をたっぷり含んだ初雪を食べている
うーん...
と、目を閉じて没入している私に、台菜のオーナーであるみどりさんが微笑みながら、「この糸のように細いビーフンは台南から輸入していて、台北の台菜でしか食べられないんですよ」と教えてくれた
台湾らしい食材を生かした優しい味付けも相まって、ピュアな魅力で溢れている
真っ白に染まった自庭で、身を乗り出して積もった雪を食べようと口を大きく開けた子供の頃のわたし
感動冷めやらぬまま、青マンゴーに変わる黒糖パイナップルかき氷がサーブされる
みどりさんがささっとライムを絞って取り分けてくれ、口に入れた瞬間、ビリビリバリッ!と落雷を浴びたような衝撃が起こった
ライムの酸味が鼻を抜けて、パイナップルと黒糖が混ざりあって作り出された豊かな甘味の横を、ふうわっと微かに走り抜ける金木犀
人生があるうちに食べられてよかったと思う味...
もうすでに知っているはずの味が、組み合わせとバランスでこうも変わるものか
さて、サヴァランはどう答えるだろう
どう答えたとて、食したときに私が感じた高揚感や切なさに近い、震えるような感情を彼は知らない
新しい味を知ってしまった今日の私は、もはや昨日とは少し違う人なのだし、食したときに脳裏に浮かぶ景色は私だけのものなのだから
今回紹介した台北本店のビーフンは、日本橋店の台湾ビーフンとは種類が異なります。
パイナップルと金木犀の黒糖かき氷は日本橋店でも食べられます。
紹介したお店
富錦樹台菜香梹 敦北店
https://fujintree.jp/location/cn/
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