忘れ去られた「鷲の巣村」から絶景を望む。
やっぱり、なーんにもなさそうで、人の姿もまばらな村が好きです。
先日、アプトを訪れたついでに、隣の村、サン・サトゥルマン・レ・アプト(Saint-Saturnin-lès-Apt)に寄りました。Google mapであちこち眺めていたとき、なにやら不思議な光景が目に入ったからです。
その光景の話はしばし置いておいて、まずはこの村について、私の得た情報をお伝えしましょう。
サン・サトゥルマン・レ・アプトは、ゴルドやルシヨンからも近い、人口2,700人ほどのリュベロン地方の村。村のおじいさんの自慢は、村に残る古い風車と、クリスマスシーズンになると教会に設置される、クレッシュ・ド・ノエル(Crèche de Noël)です。
クレッシュ・ド・ノエルは、キリストの生誕の場面を人形で表したもので、プロヴァンス地方の多くの教会では、名産の土人形「サントン人形」が使われます。
いろんな教会で目にすることができて、規模もセンスもまちまちですが、ここ、サン・サトゥルマン・レ・アプトの教会のものは、すごく凝っているし、大きい。それに歴史も長くて、一番古い人形は、200年以上前に作られたものを受け継いでいるというから、こりゃ誇りに思うのも納得です。
キリストが生まれたベツレヘムの馬小屋(の代わりに洞窟?)の周りには、プロヴァンス風の石造りの家や、プロヴァンスの人たちの昔の暮らしがわかる人形が飾られ、よく考えると不思議な組み合わせですが、なんとなく馴染んでいます。
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教会の真ん前には、猫の姿も。
「あなた、どこの人です?初めて見る顔ですね。ここいらの人たちより、頭が重たそうですね、あれ、まつげ、生えてます?なんか足も短いし、手は乾燥気味ですけど、大丈夫ですか?」と言ってはいないと思いますが、興味津々の顔してニャーニャーと近づいて来てくれました。
お天気も良いし、気持ちいいねえ。
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好奇心溢れて転がるキジトラとはお別れし、目指すはネットで見つけたこの景色。一体この建物は?!
教会の脇の小道にあった、シャトーを指す矢印。うむ、この建物はそのシャトーとやらに違いない。と、そこから山登りの始まりです。階段なのかそうじゃないのかよくわからないごつごつした道を進むと、昔、門があったのでしょうか、石造りのアーチが。
他民族の侵略に対する防御のため、この岩山の上に最初の家が建てられたのは、11世紀のこと。その後、13世紀から16世紀の始めにかけて、周囲を囲う要塞が建てられたそうです。しかし、村の人口が増えるにしたがい、岩の上は手狭になり、人々は麓に新たな村を築き、岩の上はやがて無人に。そうしてそのまま忘れられ、かつての村は廃墟と化し……
私がたどり着いた場所に残っていたのは、崩れかけた壁と、小さな教会だけでした。
夏場は日曜になると、教会の中にも入ることができるようです。(7月〜8月の毎週日曜10時〜18時)
なるほどここは、南仏にいくつもある、鷲の巣のように高いところに建てられた「鷲の巣村」の一つだったのか。それにしても、同じ頃にできたであろう、近所の「鷲の巣村」代表格のゴルドが、世界大戦も数々の地震も乗り越え、今や「一生に一度は見たい絶景」なんて言われて派手に生き残っている一方、やっぱり不便さゆえ、見捨てられた村もあるのだなあと、いたたまれない気持ちになります。
ご参考までに、ゴルド。
そんな感傷に耽りつつ、振り返ればそこにはリュベロンを望む絶景。感傷フィルターでますます景色が美しく感じます。廃墟に興味はなくとも、この光景のためにここまで登って来る価値はあるかもしれません。
平たい石を積み上げて作る南仏特有の建築様式、ボリー(Borie)がここにも。
南仏も、花が咲き乱れる季節がやって来ました。またリュベロンに行かなくちゃ。
http://www.saintsaturninlesapt.fr
Chapelle du Château
84490 Saint-Saturnin-lès-Apt
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