
サンクトペテルブルグ「ファべルジェ美術館」
昨年の今頃は、お初ロシア旅に向け、VISA取得の準備やリサーチなどしており、1年後、まさかこんな事態になるとは予想だにしていませんでした。
BSのニュース映像で、ロシアの近況に心を痛めています。
全てが期待以上だったサンクトペテルブルク、近いうちの再訪を心に誓ったものでしたが、そんな日は一体いつ来るのでしょうか。。。
終息を祈りつつ、この時、出かけたファベルジェ美術館の図録を、今、改めて見返しています。
念願だったファベルジェ美術館。
サンクトペテルブルグ観光といえば、エルミタージュ美術館など名所は数えきれないほどあり、旅のプランに悩まされましたが、
この美術館は、ジュエリー好きの琴線に、繰り返し触れるほど、感動的に美しく、忘れがたき場所となりました。
金彩で埋め尽くされた豪華絢爛のエルミタージュ美術館の後に行ったため、煌びやかさに目が慣れてしまい、というより、もはや麻痺してしまったようで、
比較すると、穏やかな印象のインテリアですが、こちらも、贅を尽くした瀟洒な元宮殿を改装しています。
その為、展示品だけでなく、上から下まで館内インテリア装飾も見ごたえ十分で、常に首が休まらないほど。
所蔵品の中心は、日本でも有名な「インペリアル・イースターエッグ」等ファベルジェ社のコレクションで、ファベルジェ社は、帝政末期の19世紀後半、宝石商、金細工師でもあったグスタフ・ファベルジェが、サンクトペテルブルグに開業した宝飾品が元となっています。
後に後継者となった息子ピーター・カール・ファベルジェがビジネスの才を発揮、ロシア王室御用達という名誉を勝ち得て、瞬く間に、王侯貴族を魅了することとなりました。
カールは、巨匠であり、且つ敏腕プロデューサー。パトロンへのプレゼンも得意で、そのクリエイティブなビジネスセンスは、現代でもお手本にしたいほど。
彼は大工房を設立し、300人近くの優秀な職人を集め、分業作業で名品を制作。現代のハイジュエラーの礎とも言え、ロシア版ルネ・ラリックや、シャルル・カルティエのような存在だったのでしょう。
実際、彼は、家業を引き継ぐ前、西欧にグランドツアーに出かけています。ラリックやカルティエなどと交流があった等の記述は見当たりませんが、フレンチジュエラーたちからも、なんらかの影響は受けているでしょうね。
彼は、1885年から1916年の32年間に60個近いイースターエッグを手掛けていますが、大半は、ロマノフ王朝のアレクサンドル三世とニコライ二世からの受注品で、彼らの皇后と母后に贈るためのものだったとのこと。
さて、待望のエッグたちとの邂逅です。
こちらは「戴冠」
最も贅沢なエッグと言われ、ロマノフ最後の皇帝ニコライニ世が、戴冠の際に皇后アレクサンドラへ贈る為にオーダーしたもの。中から、エリザベート女帝の黄金の馬車の精密なミニチュアが出てくる仕掛けになっています。
ニコライ二世一家の処刑後はボルシェビキが管理していましたが、外貨獲得手段として競売にかけられ、最終的にはアメリカの大富豪フォーブス一家が所有していたのだとか。
エピソードの贅沢なスケール感、これぞロマノフファミリーの秘宝!
ホワイトエナメル装飾が優美なこのエッグは、ニコライ二世が、母皇太后マリアに贈ったもので、彼女は、亡命先に持って行く限られた荷物に入れていたのだそう。
エッグ一つ一つの背景にあるストーリーに思いを馳せ、帝政末期ロシアの栄華と悲哀を振り返る、プレシャスな時間。
宝飾職人の技巧の素晴らしさ、緻密な仕事ぶりにも、ため息が出ます。
エッグだけではなく、ファベルジェが手掛けた数百点の宝飾品も圧巻で、
カラーグラデーションされた、エナメル装飾の展示スタイルが新鮮。
当時のエレガントな社交時間を彷彿させるような
時計や、オペラグラス、シガレットケースなど。
許されるなら、この時代に行って身に着けさせて!そんなことを思わずにはいられないほどの、洗練の極みです。
エナメルジュエラーといえば、ルネ・ラリック。
彼は、ガラス作家以前のジュエリーデザイナー時代、エナメル装飾のモダンジュエリーを多数手がけ、カルティエ社にもデザイン提供していましたが、彼の色彩とは全く異なるファベルジェの色彩感覚は独特。ダークカラーが全く見当たりません。
やはり、これは世界有数の金産出国ならではの色彩感覚?常に、ゴールドが身近にある環境故、培われた美的センスなのでしょうか。
フェミニンで艶やかな色合いに、すっかりアディクトされました。
そして、ロシア旅の目的の一つでもあった「サモワール」
以前、ブログにもお書きしましたが、
https://madamefigaro.jp/blog/yoko-tagaya/post-120.html
サモワールは、ロシアのお茶文化には欠かせない、給湯器兼サービスアイテム。保温も兼ね、上にポットを固定できる仕組みになっています。
思えば、ロマノフ王朝御用達磁器ブランド「インペリアルポーセリン」の仕事がきっかけで、ロシアが少し身近になり、旅することを思い立ちました。
やはり想像通り、正統派ロシアン・サモワールは、デコラティヴな純金製なのですね!
ロマノフの食卓を彩った調度品も多数鑑賞し、その優雅な暮らしに少しですが触れることができました。
名残惜しく、興奮冷めやらぬ状態で、館内のカフェへ。
2メートル近い王子様級のサービスマンが持ってきてくれたビルまでもが、こんなエッグの中に!
最後まで、エッグと美に溢れ、存分に楽しませてくれたファベルジェ美術館、いつか再訪できることを祈って!
ロシア他、旅の振り返りは又次回に。
それでは、皆様、どうぞお元気にお過ごしくださいませ。
☆ファベルジェ美術館(現在、閉館中です。再開を心から祈念!!)
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