立田敦子のカンヌ映画祭レポート2016 #12 新人監督の登竜門「監督週間」と「批評家週間」。
Culture 2016.05.23
カンヌ映画祭のオフィシャル部門には、コンペティション部門、「ある視点」部門、アウト・オブ・コンペティション(招待作)部門、カンヌクラシック(過去の名作を修復して上映する部門)、シネフォンダシオン(学生部門)、短編部門があります。が、この映画祭時期に合わせて、同時開催しているのが「監督週間」と「批評家週間」です。それぞれ運営はまったく別ですが、一般的には、これらも含めてカンヌ映画祭と呼んでいます。プレスやバイヤーなどのパスがないと観られない正式上映とは違って、一般にもチケットが売り出されているので、映画科の学生や映画ファンなども多く訪れ、本体とは違う熱気が感じられる、なかなか楽しいセクションです。
フランスの監督協会が運営する「監督週間」は、まさに作家性のある監督が世界に出て行く登竜門的存在。カンヌ映画祭自体が、スターよりも映画の作り手、つまり監督を重要視する映画祭ですが、「監督週間」は、さらに作家性のある監督に光を当てることにフォーカスしていると言えます。
ジム・ジャームッシュ、ソフィア・コッポラ、そして日本の北野武、大島渚、河瀬直美などもこのセクションを通過して、「ある視点」やコンペ部門で上映されるようになりました。とはいっても、最近はちょっと傾向も変わってきて、今年も若手監督というより、マルコ・ベロッキオやアレハンドロ・ポドロフスキーなどの伝説的な大御所の監督の新作を上映したりしています。また、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『シチズンフォー スノーデンの暴露』のローラ・ボイトラスが、ウィキリークスの創始者、ジュリアン・アサンジをテーマしたドキュメンタリーも上映されました。
今年は、「アート・シネマ・アワード」に、アフガニスタンの辺境に暮らす人々を描いたShahrbanoo Sadat監督のデンマーク、アフガニスタン合作映画『Wolf And Sheep』。
(c)Capital Pictures/amanaimages
また、フランス語映画に与えられる賞「SACD AWARD」には、『陽のあたる場所から』(2003年)などの女性監督ソルヴェイグ・アンスバックによるフランス・アイスランド合作映画『The Aquatic Effect』。ちなみに、アイスランド出身でフランスで映画製作を学んだアイスバック監督ですが、少し前に54歳で癌で亡くなっているそう。
(c)Capital Pictures/amanaimages
「批評家週間」は、国際批評家連盟によって運営されている独自のセクション。こちらもほとんどが監督デビュー作など若手の監督が中心だが、近年では2014年に『ザ・トライブ』がグランプリを始め3冠を達成し、その後、日本でも公開され話題になりました。また、今年はクロージング作品として、サンドリーヌ・キベルラン、レティシア・カスタ、クロエ・セヴィニーがそれぞれ監督する短編が上映され、話題になりました。
(c)Sipa USA/amanaimages
グランプリに選ばれたのは、ドイツ、フランス、モロッコ、カタール合作の『Mimosas』。監督のオリヴィエ・ラックスは、これが長編第2作目ですが、デビュー作が2010年の「監督週間」で上映され、国際批評家連盟賞を受賞している実力派。これからも成長が楽しみです。
映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。