濃密な時間が流れる、野村佐紀子写真集『愛について』。

野村佐紀子写真集 『愛について』　ASAMI OKADA PUBLISHING刊　￥4,000（予価）

まるで映画を見ているような体験。ページをめくると、一瞬でほの暗く、生温かい、濃密な時間の流れに引き込まれます。モノクロームの情感ある男性ヌードを撮り続けてきた写真家・野村佐紀子。彼女のライフワークとなる、20年に及ぶ写真を収めた作品集『愛について』が出版されます。

驚くのは、約100人もの男性が登場し、シチュエーションも違うにも関わらず、そこには写真家の一貫した世界観が色濃く現れていること。それが、一編の映画のような味わいを写真集に残します。裸の男性たちは、孤独で、傷つきやすく、強く、しなやか。それは野村さんが捉えた、“いきもの”としての魅力なのだと思います。

出版したのは、一編集者として野村さんに出合い、これまで撮りためた何千枚ものプリントを見た岡田麻美さん。「20年前に撮ったものもいまと変わらない。最近の作品も昔と同じ新鮮な気持ちを保っている。そのことに驚き、野村さんの“愛”をまとめたいと思いました」と、出版の理由を語ってくれました。この写真集を出すために、出版社を立ち上げたというひたむきな思いも、しっとりとした手触りの本には宿っているようです。

ヌードだけでなく、雪や桜、花火の風景写真、室内写真もあり、それがまた余韻を感じさせます。野村さんが撮るのは、感情や気配といった目に見えないもの。そのまなざしの温かさと深さに包み込まれます。

12月26日までは写真集の発売に合わせ、B Gallery（ビームス ジャパン）にて個展も開催されます。ぜひ立ち寄って、ほの暗い部屋で本を手に取って見てください。