女性建築家リナ・ボ・バルディの美しい写真集。
Culture 2017.12.29
観客と舞台が一体となる劇場「テアトロ・オフィシナ」。工事中のような足場から観客は舞台を見ます。
リナ・ボ・バルディという建築家を知っていますか?
1914年イタリアに生まれ、“イタリアモダンデザインの父”ジオ・ポンティの元で、インテリアデザイナー、編集者として知性とセンスを発揮し、第二次世界大戦後、夫とともにブラジルに渡り、「サンパウロ美術館」、「SESCポンペイア文化スポーツセンター」、「サンタ・マリア・ドス・アンジョス教会」などの代表作をつくりました。自身の手でパワフルに道を切り開いた女性建築家のパイオニアです。彼女の初となる作品集『リナ・ボ・バルディ――ブラジルに最も愛された建築家』がTOTO出版より刊行されました。
作風はモダニズムとフォークロアの融合。普通は相反する概念が見事に同居しています。植物や民芸品、風土に根ざしたレンガや石の素材といったブラジルの土着のものをモダニズムの幾何学的な建築に取り入れました。
自邸「ガラスの家」は鬱蒼とした樹木に覆われ、まるで森のなかで暮らしているような感覚になるガラスの箱。ところが、実際は新興住宅地ではげ山だった敷地に自分で植栽をデザインし、ブラジルの植物を植えたというのです。パティオの樹木は中庭を通り、建物を貫くよう。自然と建築の一体化が実現しています。
ガラスの立方体が宙に浮いたような「サンパウロ美術館」で驚くのは、作品が壁ではなく、ガラスのイーゼルに架けられ林立していること。鑑賞者は絵画の間を歩くように自由に見ることができます。作品名や作者名も裏に記載され、先入観なく作品に向き合う体験が重視されています。
ほかにも、工場をリノベーションし、職人や利用者と一緒につくった公共施設、舞台と客席の境界のない劇場、壁面緑化や屋上庭園など、リナのアイデアはまったく古びず、新鮮で、いまこそ必要とされている現代的な要素にあふれています。
それは、ブラジルの風土に魅了され、人々のために、開かれた建築を目指したリナの姿勢が、ヒューマンな建築に普遍的に求められているものだからでしょう。
本書には、リナに注目してきた建築家・妹島和世と塚本由晴の対談も収録。差し込まれたスケッチや手記からはセンスよくチャーミングな人柄が感じられます。本から滲み出す、生き生きとして楽しい建築の魅力にぜひ触れてみてください。
ブックデザインはgroovisions。リナのエネルギーとパッションがページから感じられるポップなデザインにも着目。
サンパウロ美術館の1階は市民のためのオープンスペース。まさに街に開かれた美術館となっています。
『リナ・ボ・バルディ ――ブラジルにもっとも愛された建築家』和多利恵津子(ワタリウム美術館)監修 ¥4,644(税込) TOTO出版
texte : CHISA SATO