ジョージアの少女たちの青春を瑞々しく描いた話題作。

Culture 2018.03.14

古都に暮らし迷いながら成長する、少女たちのしなやかな姿態。

『花咲くころ』

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エカとナティアの親友同士ら、少女た ちの青春期の芳しさと反抗心が、家族 や学校、紛争の気配を残すジョージア(グルジア)の街と鋭敏に交差する。

 昨夏のジョージアへの旅では、ピロスマニの絵画を見て、丘上の大聖堂で男声ポリフォニーに耳を澄まし、世界最古の土器ワインに酔いしれた。それとは対照的に、本作で描かれるのは紛争やクーデターで疲弊した1992年の首都トビリシだ。食料不足で市民は配給のパンを入手すべく列をなし、停電のせいでロウソクを買いに走るような状況。
 家庭に問題を抱えるエカとナティアという14歳の少女たちが歩く石畳の舗道や、丘陵に密集するレンガ造りの古い家々は、今も変わらないトビリシの姿である。起用されたふたりの俳優は素人だったという。そのオリエンタルな美しさを賞賛したら、ジョージア人の女性が「ここは400万人足らずの小国で、いつもよそ者に支配されてきたからいろいろと混じってる。だから血統じゃなくて、独自の言葉や文字、古くからの信仰や慣習を大切にするのよ」と教えてくれた。とはいえ、古い慣習にも善し悪しはある。楽天的なジョージア人は宴が大好きで、主人は食べきれないほどの料理やワインで客人をもてなす。日本人からすると「こんなに食べ残してもったいない」と思うが、それがあちらの歓待精神だ。本作でも、苦しい生活の中で盛大な結婚の宴が開かれる。慣例で男たちは女性に乾杯するが、この場面は14歳のナティアが誘拐婚された祝宴なので皮肉になっている。そこで親友のエカは男たちへの抗議の意をこめ、普通は男性がお祝いにやるシャラホというダンスを踊る。保守的な慣習も残っていた26年前、トビリシの風景の中で少女たちが迷いながらも成長していく姿がみずみずしく、ジョージア好きの私にはたまらない作品だ。

文/金子 遊 映像作家、批評家

映像、文学、民族学を横断的に論じる執筆活動を展開。著書に『辺境のフォークロア』(河出書房新社刊)など。『映像の境域』(森話社刊)でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞。
『花咲くころ』
監督/ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス
出演/リカ・バブルアニ、マリアム・ボケリア
2013年、ジョージア・ドイツ・フランス映画 102分
配給/パンドラ
岩波ホールほか全国にて公開中
www.hanasakukoro.com

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*「フィガロジャポン」2018年3月号より抜粋

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