立田敦子のカンヌ映画祭レポート2018 #08 カンヌ不在&カンヌカムバックの監督たち。
Culture 2018.05.21
1968年のゴダールやトリュフォーによる“カンヌ映画祭粉砕事件“から、50年を迎えた今年は、政治的なテーマを含んだ作品が多いのも特徴。カンヌのコンペは、原則として監督出席が条件なのですが、今年のコンペでは3人の監督が不在となりました。体調問題によって来られなかったゴダールを除くふたりの監督の欠席は、当局との軋轢によるものでした。
ひとりは、『Leto』のロシアのキリル・セレブレンコフ。有名な演出家であるセレブレンコフは、昨年、国家資金流用疑惑などで逮捕。その後釈放されましたが、自宅軟禁状態であるとか。映画祭側は、外交ルートを通じてロシアにセレブレンコフの映画祭参加と渡航を認めるように働きかけたそうですが、叶わなかったとのこと。公式上映のレッドカーペットでは、出演俳優たちがセレブレンコフの名前を掲げたプラカードを持って登場し、世界に向けてアピールしました。記者会見では、通常は監督が座る中央の席を空けたまま行い、抗議の意を表明していました。『Leto』は、80年代のソ連のロックシーンが舞台。ロックバンド、キノーのヴィクトル・ウォイを取り巻く仲間たちの物語です。それにしても、いまでもまだロック=反体制なのでしょうか。日本でも公開される日が来ると思いますが、その時には監督に来日してほしいものです。
80年代のソ連のロックシーンを舞台にした『Leto』。
脚本賞を受賞したにもかかわらず、不在だったのは、イランの巨匠ジャファール・パナヒ。政府から映画製作を禁じられているにもかかわらず、果敢に製作を続けている気骨のある監督です。国外への渡航も禁じられているため、今回も出席できず。新作『3Faces』(原題)は、過去、現在、未来というアプローチから“女優“という存在を描いています。
女優“という存在を描いた作品『3Faces』(原題)は、脚本賞を受賞。
反対に、カンヌに返り咲いたのがデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー。『メランコリア』がコンペで上映された2011年に、記者会見での失言が原因でパレを追放されたトリアーが、カンヌにカムバック! 新作『The House That Jack Built』(原題)がスペシャルスクリーニング部門で上映されました。マット・ディロン演じるシリアルキラーの崩壊の旅を描いたもので、ユマ・サーマンやライリー・キーオなどスターも出演しています。相変わらず、彼の映画に出演したがる俳優は多いようです。
シリアルキラーの崩壊を描いた新作『The House That Jack Built』(原題)。
グランプリを受賞したスパイク・リーも、コンペで長編を上映するのは19年ぶり! 『Blackkklansman』(原題)は、白人至上主義団体KKKに侵入捜査した黒人警官と仲間たちの物語。主演は、デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デイヴィド・ワシントンとアダム・ドライバー。脚本に『ゲット・アウト』(17年)のジョーダン・ピールが参加していていることもあって、シリアスなテーマですがコメディタッチに。
グランプリを受賞したスパイク・リーの新作『Blackkklansman』(原題)。
クロージング作品『The Man Who Killed Don Quixote』(原題)でカンヌに戻ってきたのは、テリー・ギリアム。この作品は、紆余曲折あり25年の年月を経てやっと完成した渾身の一作です。けれど、カンヌ直前に、以前この作品に関わったことのあったイタリアの大物プロデューサーと権利問題で揉めたため、フランスの裁判所が上映許可の判断を下したのがすでに映画祭が始まってからでした。その後、パリにてギリアムが発作で倒れて入院するなどの騒ぎもあったのですが、なんとか無事に上映できるようです。主人公は、当初予定されていたジョニー・デップからアダム・ドライバーに変更。まあ25年も経てば、俳優も年をとるので仕方がないですね!アダム・ドライバーも素晴らしかったです。
紆余曲折ありながら25年の月日を経て公開される、『The Man Who Killed Don Quixote』(原題)。
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
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