女性アーティストたちの、美しき挑戦。 #02 AKI INOMATAが、生き物たちと取り組むアートとは。

Culture 2018.09.28

いま、女性アーティストたちの活躍がめざましい。その美しさに魅了されたり、ユニークな発想にはっとさせられたり……彼女たちの作品と対峙することで、観る者も豊かな世界を体感できるはずだ。しなやかな感性と鋭い視点で作品をクリエイトする、気鋭の5人のアーティストにインタビュー。第2回は、ヤドカリやインコなど、生き物との協働作業によって作品を制作するAKI INOMATA。

生き物たちが、現代社会のありようを照らし出す。

精巧に作られた美しい人工の巻貝を背負ってヤドカリが歩く映像作品『やどかりに「やど」をわたしてみる』。Facebookで2,400万回以上再生されたこの動画を記憶している人も多いだろう。これをきっかけに世界中から展覧会や取材のオファーが舞い込み、アーティストAKI INOMATAは一躍注目を集める。

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AKI INOMATA
1983年、東京都生まれ。2008年、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻を修了。近年の展覧会は『Coming of Age』(Sector 2337、シカゴ、アメリカ/17年)、『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』(16年)、『ECO EXPANDED CITY』(WRO Art Center、ヴロツワフ、ポーランド/16年)など。 17年、ACCの招聘でニューヨークに滞在。現在、多摩美術大学 非常勤講師、早稲田大学嘱託研究員を務める。http://www.aki-inomata.com

ヤドカリのほかにも、『インコを連れてフランス語を習いに行く』、『犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう』といった、生き物たちのふるまいを人間の行為に見立てることによって現代社会のありようを照らし出す、鋭い示唆と軽やかなウィットに富んだ作品を制作してきた。

「生まれ育ったのは東京の神楽坂ですが、通っていた小学校が塀で囲まれた校内に外部から守られた自然が広がっているところで、毎日下校の時間までそこで遊んでいました。とはいえ、ヤドカリはネットで購入しています。おかずを入れるような小さなタッパーに入って届くんです。飼い方もネットで調べて、お椀のお風呂に温めた海水を入れてあげたり」と、東京っ子らしい歯切れのよい口調で語る。

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唐十郎の演劇に参加することで得た、強烈な体験。

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『Asian Art Award 2018 supported by Warehouse TERRADA展示風景(寺田倉庫、東京/2018年)手前の水槽の中のヤドカリは、さまざまな「やど」に住み替えながら成長している。photo : KEN KATO

幼い頃、このように都会と自然との境界を行き来していたことは彼女の創作に大きく影響している。一方でそれとは対照的に、大学時代に劇作家・演出家の唐十郎が率いる劇団・紅テントに参加したという、いわゆるアングラ演劇の濃厚体験もまたINOMATAの創作姿勢に深く関わっているといえるだろう。

「唐さんというすごい影響力を持つ方と関わったことは強烈な体験です。台風が来ると劇団員みんなでテントを守ったり、ラストシーンで舞台の書き割りが崩れて新宿の都市があらわになるシーンを目の当たりにしたり、すべてが刺激的でした」

大学卒業後、東京藝術大学大学院に進み、演劇のエッセンスを取り入れたパフォーマティブな作品として、役者に見立てた装置がシャボン玉を吹いて対話するインスタレーションを制作。しかし、プログラミングする作品では自分の予測以上の結果が出ないことに、どこか予定調和的な物足りなさを感じていたという。

本格的に生き物を使ったクリエイションに取り組み始めたのは大学院を修了した後だ。といっても、INOMATAは生き物を作品の素材やモチーフとは捉えていない。「あくまでコラボレーション、生き物と私との協働作業によるプロジェクトと考えています。生き物の生態や習性、たとえばヤドカリなら“引っ越しをする”という行為そのものを作品にしています。いわゆるオブジェではなく、体験やコミュニケーションを共有する作品であることを伝えるのが難しいですね」と言う。

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生き物の視点から、地球環境に対する可能性を見いだせたら。

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『インコを連れてフランス語を習いに行く2010年。日本語を少し話せる、わさびっちょという名前のインコがフランス語を習いに行って習得した言葉は?

世界一有名になったパートナーのヤドカリは、その後ニューヨークの摩天楼やタイの王宮風住宅、日本式「結婚式教会」など、次々と個性的な「家」を住み替えながら順調に成長し、スタジオの水槽の中で相変わらずフォトジェニックな姿を見せていた。

並行してINOMATAが現在取り組んでいるのが、福島の海岸で採集したアサリの観察だ。アサリの殻の断面を顕微鏡で拡大した写真作品は、1日に1本殻に刻まれる成長線によって日ごとの成長の度合いを示す。2011年に東日本大震災が起きた日を境にアサリの生態系が変化したことが、まるで木の年輪や地層のようにありありとわかるのだ。

「震災直後は海底の土が掘り返されてミネラル分が海中に溶け込み、アサリにとっては栄養豊富な環境になったことがわかります。2015年に津波対策の防波堤の工事が行われ、その影響でアサリの成長は悪くなりました。メディアは人間主体の視点から報道しますが、陸と海の間に棲息しているアサリに聞けば、ログに残された記録から環境全体の推移を解析することができます。人為的な影響によって地球の環境が限界に来ているいま、生き物の知恵を借りた共同制作をとおして、可能性を差し出すことができないだろうかと考えています」

この秋にはタイで行われる『Thailand Biennale Krabi 2018』に参加し、初顔合わせとなる水陸両棲の動物とともに、壮大かつ愉快なプロジェクトに挑戦するというINOMATA。書き割りのようにフィクション化した現代都市に身を置きながら、小さな生き物たちが囁く声に耳を澄ませ、人間の世界にビビッドなリアリティを取り戻そうとする知性とセンスに未来を託したくなった。

〈気になる彼女たちへ、5つの質問。
1. 最近、幸せを感じた瞬間は?
リアルな世界で展覧会を実現できること。

2. 子どもの頃の夢は?
中学時代からアーティストになりたいと思っていました。

3. いまいちばん行きたい場所は?
展覧会で行ったフランスのナント。そして南極。温暖化の影響を実際に見てみたい。

4. いまいちばん会いたい人は?
寺田寅彦。

5. 将来、やってみたいことは?
将来はまったく予想がつかない。行き着けるところまで行ってみたい。

もっと知りたい、AKI INOMATAの作品。

『2018 年のフランケンシュタイン-バイオアートにみる芸術と科学と社会のいま-』
期間:開催中〜2018年10月14日(日)
会場:EYE OF GYRE
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
営)11:00〜20:00
会期中無休
https://gyre-omotesando.com/artandgallery/

『Aki Inomata, Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs?』
期間:開催中〜2019年1月6日(日)
会場:ナント美術館(Mesee D'arts de Nantes)
https://www.stereolux.org/agenda/aki-inomata-thierry-kuntzel

『Thailand Biennale Krabi 2018』
期間:2018年11月2日(金)〜2019年2月28日(木)
http://thailandbiennale.org

#01 アーティスト川内理香子が描く、身体と意識の関係。
女性アーティストたちの、美しき挑戦。INDEX

photo : AKEMI KUROSAKA (STUH / PORTRAIT), réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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