本読みが薦める、2018年のベスト3冊。 山崎まどかが選ぶ、女性作家が描く女性のための物語。

Culture 2018.12.21

いよいよ本格的な年の瀬に差しかかり、この一年を振り返る時期。今回は、2018年に刊行された本の中から、文筆家で翻訳家の山崎まどかさんが選ぶベスト3冊を紹介。山崎さんの心に響いた、女性にこそ読んで欲しい3冊とは?

女性作家の書く、女性のためのストーリー。

「女性が何かをしたいと思った時に制限があってはならない。そうしたものはどんどん取り除かれるべきだし、”女性ならでは”という言葉はジェンダー・バイアスを表すものとして嫌われる傾向にあるが、私はやはり女性作家が、女性にしか分からない事情や環境をバックにして書くものが好きだ。
『もっと意識的に女性作家の作品を読む』は今年の私のテーマだった。でも、昨年もそうだったし、来年も、再来年もきっとこのテーマで本を読み続けていくと思う」

『わたしたちが火の中で失くしたもの』

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マリアーナ・エンリケス著 河出書房新社刊 ¥2,862

アルゼンチンの”ホラー・プリンセス”と呼ばれている新世代女性作家の短編集。政府によって人が殺されたり、行方不明になったり、女性たちが暴力を振るわれている南米のホラーな現実をマジック・リアリズム的なファンタジーに昇華していて、フェミニズムの物語という意味では今年いちばんの本だと思う。

表題作は、女性たちを焼き殺そうとする男たちへのプロテストとして、自らの肉体を燃やすカルト集団の話。「汚い子」は、路上で消えていくホームレスの子どもたちの行く末を描いている。どの話も猛烈に怖くて痛々しいけれど、同時にパワフルでページをめくる手を止められない。読んだ後はなぜだが自分がすごく勇敢になったような気がする。

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『最初の悪い男』

181212-yamazaki-man.jpgミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳 新潮社刊 ¥2,376

映画監督としても名高いミランダ・ジュライの初の長編小説の主人公は、非営利団体で働く、妄想力豊かな中年女性シェリル。鍋も洗わないような省エネ生活を心がけている彼女は、赤ん坊や小さな子どもに固執していて、自分の運命の子どもの魂を宿した存在がいると信じている。
そんな彼女の平穏な生活は、職場の上司の娘で、衛生観念のない20歳の傍若無人な美女クリーが自宅に転がり込んできたことで崩壊。ふたりは毎日のようにバトルを繰り広げるが、その肉体的なぶつかり合いがやがて斜め上の展開によって偉大なる愛の物語になっていく……。

あらすじを書いているだけでも訳がわからなくてクラクラしてくるが、これが感動的なのだから、ミランダ・ジュライは本当にすごい。

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『ヒロインズ』

181212-yamazaki-heroins.jpgケイト・ザンブレノ著 西山敦子訳 C.I.P. BOOKS刊 ¥2,484

著者のケイト・ザンブレノは、夫の仕事について引っ越しを繰り返していくうちに書き手としての自分を見失いそうになり、モダニズム文学作家のミューズと呼ばれ、アーティストとして認められなかった妻たちや文学史から弾かれた女性作家たちに想いを馳せるようになる。元はブログだったザンブレノのエッセイに登場するのはスコット・フィッツジェラルドの妻だったゼルダ、自殺してしまった詩人のシルヴィア・プラス、夫T・S・エリオットの「荒地」のヒロインのモデルとなったヴィヴィアン・エリオット、クレオール作家のジーン・リースといった顔ぶれ。彼女たちに思い入れ、自分の声を見つけようとするザンブレノの文章の熱量に圧倒される。

Madoka Yamasaki / 山崎まどか
1970年、東京都生まれ。文筆家、翻訳家。映画、本、音楽など、カルチャー全般に精通する、女子文化の第一人者。著書に『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社刊)、翻訳書にレナ・ダナム著『ありがちな女じゃない』(河出書房新社刊)など。

texte : MADOKA YAMAZAKI

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