愛し合っているけれど、一緒には暮らさない理由。

Culture 2019.06.18

ラブストーリーを共有するものの、同居はしない。離婚や別居、子育てを経験してきた40代を過ぎたカップルたちは、一緒に暮らすという選択をしない。

190614-les-couples-non-cohabitants.jpg愛し合っていても共通のメールボックスは持ちたくない。photo : iStock

定年を迎えた63歳のフィリップは、18年前から毎週金曜日、パートナーと週末に会うことを楽しみにしている。その頻度でしか合わないのは距離が離れているから? 仕事が忙しいから? いや、ふたりの住む場所はたった21キロしか離れていない。

先ごろ発表されたフランス国立人口統計学研究所(INED)と国立統計経済研究所(INSEE)の調査によると、180万人のフランス人が非同棲カップルである。アングロサクソン諸国に住むLAT(Living Apart Together)のカップルは、愛し合っていても共通のメールボックスを作りたくない、つまり同居したくないと考えている。

また関係が限界を迎えてしまった場合にも、LATは冷却期間を置くための新たな方法であると社会学者であるアルノー・ルニエール=ロワリエール氏は言う。哲学者のシモーヌ・ド・ボーヴォワールとジャン=ポール・サルトル、歌手のジャック・デュトロンとフランソワーズ・アルディ、女優のエブリーヌ・ブイックスと俳優のピエール・アルディティ、映画監督のティム・バートンと女優のヘレナ・ボナム=カーターなどがその先駆者だ。

2019年の現在、30歳以下のカップルや初めての付き合いから結婚に至るケースは多く、45歳以降になると異なる。つまり別れが訪れる。たとえば、30〜44歳の夫婦やカップルは8年後、その約15%が同居を解消している。一方で、45〜56歳の夫婦やカップルの場合は35%に及ぶ。

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アラカルトな愛の生活

介護士として働く52歳のサンドリーヌにはやめられない趣味がある。彼女は毎晩本を読み、時には深夜1時まで読みふける時もある。そして翌朝、ベッドから起き上がる前にこの喜びの余韻に浸り、15分ほどまた読書を楽しむ。「別れた夫には私の趣味が迷惑だったみたい」と彼女は回想する。2回の別れ(1回の離婚を含む)の後、サンドリーヌは新しいパートナーとの同居を拒否している。「日常を共有なんてもうできないわ」と彼女は言う。

パートナーであるフィリップはこう話す。「彼女いわく、私は夜に少しいびきをかいているようなのですが、この付き合い方のおかげで彼女は週末だけしかいびきを聞かずに済んでいます」。お互いの悪習慣によって迷惑をかけられることも少なく、一緒にいるときは100%時間を共有しようとする。

「会う時にはお互い楽しく余裕を持てるように、家事はそれぞれで済ますよう努めています」とフィリップは言う。靴下が片方ないとか、歯磨き粉が切れているとか、ゴミ箱が一杯だ、なんてケンカはしなくて済む。お互い気持ちよく過ごすためには室内の片付けは重要だ。「たとえば昨夜、仕事で疲れていたのでパートナーは約束をキャンセルしました。私は仕事での疲れやストレスを家に持ち込んでほしくないのです」とサンドリーヌは言う。

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破綻した関係になるのが怖い

“離婚後、これまで感情を閉じ込めてきたことに気付くのです”
 エロディ・シンガル氏(心理学者・離婚の専門家)

すべてのことを共有しようとすると、しばしば愛に終止符を打つことに繋がる。

「元妻との関係は何年もの間破綻していましたし、性生活も徐々に減っていきました。そして彼女はついに別の男性と恋に落ち、私のもとを去って行ったのです」とフィリップは言う。45歳以上のLATカップルはかなりの割合で関係が破綻する不安や感傷を抱えている、と社会学者のルニエール=ロワリエール氏は言う。

心理学者で離婚の専門家であるエロディ・シンガル氏はこう分析する。「再び恋愛をする時、これまで感情を閉じ込めてきたことに気付き、結婚することが難しいと感じるのです」。家の壁はまるで不運をもたらすシートベルト、または予備タイヤのような存在と化すのである。

10年間で2回同居をし、何度か別居を繰り返した、コミュニケーターとして働く49歳のサブリナは、パーティーで元夫と再会した。「関係を再構築する前に、それぞれのアパートメントに住むことを誓い合ったわ。2〜3年後には一緒に暮らせたらいいなと思っているの」と彼女は言う。

マネージャーとして働く49歳のステファニーは「離婚後、元夫はすぐに別の女性と同棲してすぐにまた失敗したわ。それから反省したみたい」と語る。

「別れの理由が何であれ、アイデンティティの破綻が起こります。私たちはポジティブな側面よりもネガティブな側面に注目し、同じようなことを繰り返さないようにとできるだけのことをします」と心理学者のシンガル氏は述べる。

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子どもを第一に守る

社会学者のルニエール=ロワリエール氏によると、配偶者よりも同居する子どもの存在が大きいと言う。INEDの研究によると、男女両方が子育て経験ありの場合、2年以上の同居の可能性は47%、一方で子どもを持たない男女の場合は19%である。離婚後、親権を得た母親は特に同居を好まない。

「第三者が自分の子どもたちを教育するのは難しいと思います。子どもたちが独立するまで、私は誰とも同居しないと誓います」とサンドリーヌは言う。「新たな夫婦関係ができることによる潜在的なトラブルを避けるためでしょう」とルニエール=ロワリエール氏は述べる。

心理学者のシンガル氏のオフィスには、家族の問題を抱える父親たちが訪れている。「彼らは自分の恋愛事情を家に持ち込んで混乱を招きたくないと考えています」。LATの最大の利点として、それぞれが自分の子どもたちと特別な時間を過ごせることが挙げられる。「夫と息子たちは別に暮らしており、私は同居する娘たちとはより親密さを取り戻しました。いまはお互いを見守り合い、うまく機能しています」とサブリナは笑う。

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有益な自由

一度子どもたちが巣立っていくと、親の元に自由が訪れる。「子育てのプロジェクトが終わりを迎えると、同居は経験してどんなものか分かっているものの、もはや必須ではなくなります」とルニエール=ロワリエール氏は述べる。子どもたちが巣立った夫婦やカップルは安心して社会的プレッシャーから自分自身を解放することができる。

26年間の結婚生活の後、53歳のヴェロニクは夫と仕事と子どもたちのもとを去り、新たな生活を手に入れるため、別の街へと引っ越した。「かつては何も考える暇もなく、恋人となり、母となり、犬の世話に追われる生活を送っていました。現在は、幼なじみと距離を置きながら関係を持ち、毎晩ひとりでぐっすり眠っています。端的にいえば、もう罪の意識を感じなくてよいのです。自分勝手になりました!」

心理学者のシンガル氏はこう述べる。「これまで関係修復のために多くの時間を費やした経験があると、また同居した際に再びそういうことが起きる危険性を感じるものです」

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パートナーの気持ちを常に楽しむことができる

“LATはさまざまな決断を共有するものなのか、個人の考えを尊重するものなのかは、カップル間で話し合うべきでしょう”
エロディ・シンガル氏

しかしながら、同棲しない生き方にも落とし穴は付きものである。「たとえプライベートな時間が好きでも、突然夜に抱きしめて欲しい時もあるわ。必ずしもセックスではなく、ただのハグでいいの」とヴェロニクは告白する。一方、サブリナは不安があることを認める。「家に相手がいない時は妄想しがちになってしまうわ。特に浮気の恐れがある時はね」

家の鍵は共有しないという人は、当然諸々の支払いも共有しない。賃貸料金、家のローン、電車の切符、ガス代……生活していくのにはお金が必要であり、必ずしも予算の範囲内には収まらないものだ。「自分の幸せのために節約も当然必要だと思うわ」とサンドリーヌは言う。

INEDの調査結果によると、低所得・低学歴・低資産の人はより簡単に移動が可能である。しかし、社会経済的なことだけではなく、文化的要因にも相違がある。「教育レベルの低い人のほうがより伝統的なカップル像を描いており、より経験や知識が豊富な人は新しいカップルの形、PACS(フランスのパートナーシップ制度)やLATなどに肯定的な考えを持つ傾向があります」とルニエール=ロワリエール氏は述べる。

「いずれにしても、LATはさまざまな決断を共有するものなのか、個人の考えを尊重するものなのかは、カップル間で話し合うべきでしょう」と心理学者のシンガル氏は言う。

サンドリーヌはこの関係を相手に認めさせたため、定期的に相手に意見を聞くようにしている。「ばかみたいに聞こえるかもしれませんが、2〜3カ月に一度、彼に確認しています。もし同居したら私たちの関係ってこんなに素晴らしいものかしら? 私はそうは思わないわってね」と彼女は笑う。

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texte : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi

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