2019年ラグビーワールドカップスペシャル 初めてでもOK、ラグビー観戦の楽しみ方。
Culture 2019.09.03
日本での開幕を目前に控えた、ラグビーワールドカップ。興味はあるけれどラグビーって難しそう、よくわからないという人のために、スポーツライターの生島淳さんを先生に迎え、8月3日に東大阪市花園ラグビー場で行われたリポビタンDチャレンジカップの日本対トンガ戦を舞台に、ラグビーの楽しみ方をレクチャーいただきます。
――試合を見る前に、観戦のポイントを教えてください。
最初はボールの行方を追うのがいいかもしれませんね。ボールの奪い合いがラグビーの見どころですし、ボールの運び方にはパスやキック、ランなどがあって、びっくりするようなプレイが見られるはずです。
巨体を生かして相手にぶつかっていく人もいれば、快足を飛ばして相手を振り切る人もいます。好みの選手を見つけてください!
――試合時間はどれくらいですか?
試合時間は前後半40分ずつ。ケガの治療やTMO(映像確認)している間は、時計は止まります。ハーフタイムは15分を超えない時間。
だいたい、2時間ほどで試合が終わります。
なので、アフターの展開を考えているならば、試合開始の2時間半後のお店の予約をオススメします。
――今回はトンガ戦をテーマに教えていただいています。試合開始前、トンガの選手が踊っていましたね。これは何をしているんでしょう?
トンガやフィジーなど、オセアニア地域の先住民族は戦いの前に戦意高揚や相手を威嚇するため、踊りを行っていたんです。試合前に選手たちが踊るのがラグビーの慣習になっています。いちばん有名なのは、オールブラックスの「ハカ」ですね。ラグビーワールドカップでも見られますよ。
ハカを受ける日本代表。トンガ戦ではブルーのセカンドジャージーで登場。
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――選手について教えてください。試合に出る選手は15名、スクラムを組んでいる選手と、後ろに控えている選手ではずいぶん体格が違うようです。どんなポジションがあるんでしょう?
おおまかにはフォワード(FW)とバックス(BK)に分かれます。
――FWって、どんな仕事をするんですか?
スクラムを組む、ラインアウト(後述)を競るのが目立ちますかね。
1番から3番の選手は、スクラムの最前線で戦うので、お相撲さんのような体形の選手が多いです。
4番、5番はロック。身長2メートルを超える大男が、ラインアウトを競るのが見どころです。
6、7、8の第3列はボールが展開された時に、奪い合ったり、突進したりする花形ポジションです。
スクラムを組む日本代表、手前はフランカー(FW)の徳永祥尭(東芝)。
――BKはどうでしょう?
9番のスクラムハーフがいちばん目立つポジションかもしれません。とにかくボールを捌くのが仕事ですから。
10番のスタンドオフは、ハーフから受けたボールをパスをするのか、走るのか、キックをするのかを判断します。チームの司令塔です。
12、13番のセンターは突進やサインプレイの要。11、14番のウィングは足が速い選手が多く、フィニッシャーの役割を担っています。
15番のフルバックは、4年前、五郎丸選手がいたポジション。キックの蹴り合いで責任重大です。
――これがFWによるスクラムですね! どんな時にスクラムを組むんでしょうか? あの中で、何が行われているんでしょう?
ノックオン(後述)やボールを前に投げてしまう反則のスローフォワードなど、軽い反則の時にスクラムが組まれます。8人で組み、スクラムハーフがボールを入れて、2番のフッカーが足でかき、ボールを確保します。
押し合いが行われていますが、スクラムを故意に崩してしまうと、「コラプシング」という反則になってしまいます。ラグビーワールドカップではスクラムが勝敗のポイントになりそうですよ。
スクラムは総重量が重い方が有利なこともあり、テレビ中継などではチームの総重量が画面に出るのでぜひチェックを!
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――ラグビーと言えば、タックルですね。タックルされるとどうなるんですか?
ボールを持ってタックルされた選手は、すぐにボールを離さなければいけません。そうしないと、「ノット・リリース・ザ・ボール」の重い反則になります。また、タックルした選手もすぐにその場から退かないと「ノット・ロールアウェイ」という反則を取られてしまいます。
華麗なステップで相手選手のタックルをかわす、ウィング(BK)のレメキロマノラヴァ(ホンダ)
相手選手のタックルに動じず、前に進む徳永祥尭(東芝)
――試合中に「ノックオン」とよく聞きますが、これは?
ラグビーではボールを前に落とすと、ノックオンという反則になり、その地点からのスクラムになります。
とにかく「前」に落としたり、スローフォワードといって、前にパスを投げるのもダメなんです。
――トンガ戦では、松島選手にイエローカード(シンビン)が出てしまいました! 何が理由だったんでしょう?
最近のラグビーでは、選手の安全を確保するために、危険なプレイに対しての処罰が厳しくなっています。10分間の一時的な退場の「イエローカード」や、一発退場の「レッドカード」に2種類があります。主に、首から上へのタックル、腕を使わず、肩からタックルも厳しく反則を取られます。
シンビンで退場中、選手の補充もNGのため10分間は14人で戦う。
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――ラグビーは危険そうなイメージがありましたが、安全に行うための試行錯誤が行われているんですね。次の質問です、試合の途中で外にボールを出すのはなぜですか?
ピッチの外にキックで蹴り出すことを、「タッチキック」と言います。キックで距離を稼ぎ、陣地を挽回することが主な目的です。
また、重い反則からのペナルティキックでは、反則を貰った方はタッチキックでボールを前に進め、出た地点からマイボール・ラインアウトが出来るので、とても有利に試合を運べます。
――「ラインアウト」、よく聞く言葉ですが、どういう意味でしょう?
ボールがタッチラインから出ると、その地点でラインアウトになります。
並ぶ人数はボールを投入する側が決めることが出来ます。
上から、ボールを投入するフッカーの堀江翔太(FW)(パナソニック)。手を伸ばしたのは、フランカー(FW)リーチマイケル(東芝)
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――「セットプレイ」とは何ですか?
今までお話してきたスクラム、ラインアウト、そして試合の開始、再開のキックオフがセットプレイになります。
――ラグビーは得点方法も少し複雑ですね、詳しく教えてください。
トライ(相手側のゴールラインを越えてボールを地面に着ける)は5点、その後のゴールキックが決まれば2点追加。
そのほかに、反則(ペナルティ)があった地点からペナルティキックを決めると3点。
また、地面にいったんボールを落とし、弾んだボールを蹴ってゴールポストの間を通すドロップキックでも3点が入ります。
上からトライを決めたフルバック(BK)の松島幸太朗(サントリー)、ゴールキックはスタンドオフ(BK)の田村優(キヤノン)
――トライの後のキックはポールの間に入れないといけないのですか? 不思議な角度からキックをしますね?
H型のポールの上方の間を通らなくてはいけないんです。
トライ後のゴールキックは、トライをした地点の延長線上から蹴ることになってるんです。
ゴールキック前、慎重にボールをセットする田村優(キヤノン)
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――審判と選手の会話の回数が多いですが、どんなことを話しているんでしょう?
レフェリーと主に話しているのはキャプテンです。だいたい、なぜ反則を取られたのか、どうしてそういう解釈になっているのか、質問している場合が多いですね。審判とコミュニケーションを取ることが大事なんです。
――日本代表にもトンガ出身の選手がいるのはなぜですか?
ラグビーの代表でプレイするのに、その国の国籍は必要ないんです。たとえば日本で3年以上プレイすると、代表資格が得られます。ただし、他の国での代表経験があると、ダメですけど。
――だから日本では日本以外の出身の選手も多いんですね。日本代表はいま世界ランキングはどのあたりなんでしょう?
8月26日現在、ラグビーワールドカップ出場20カ国のランキングはこうなっています。
2位ニュージーランド
3位イングランド
4位アイルランド
5位南アフリカ
6位オーストラリア
7位スコットランド
8位フランス
9位日本
10位フィジー
11位アルゼンチン
12位ジョージア
13位イタリア
14位アメリカ
15位トンガ
16位サモア
19位ウルグアイ
20位ロシア
21位カナダ
23位ナミビア
――トンガ戦では日本が圧勝しました、ランキングでも上ですが、勝てた要因はなんだったんでしょう?
日本は4年前に比べ、フィジカル面(当たりとか、強さ)でかなりレベルアップしています。地力が上がった印象です。
ボールの争奪戦で相手に奪われてしまうケースも多く、まだまだ課題は残っていますが、ラグビーワールドカップ本番が楽しみですね。
試合が終了したら、リスペクトを忘れないのもラグビーの良いところ。試合終了後の選手も見逃さずに!
――最後に、ラグビーワールドカップ本番での日本の注目点を教えてください。
スクラムで押し負けないことが重要です。スクラムが崩れると反則を取られ、劣勢になってしまいますから。
BKではSOの田村優選手が落ち着き払っていて、頼もしい。
そしてウィングの松島幸太朗選手がキレッキレです。彼のスピードに注目してほしいです!

JUN IKUSHIMA
スポーツライター。1967年生まれ、宮城県出身。NBAやMLBなど海外のものから、ラグビー、駅伝、野球など多彩なジャンルで執筆。ラグビー関連では著書に『奇跡のチーム』『コーチングとは「信じること」』『慶応ラグビー「百年の歓喜」』(すべて文藝春秋刊)など。最近は歌舞伎にも夢中。
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texte : JUN IKUSHIMA, photo : YUURI TANIMOTO