40代女性は女子か。マドモアゼルとマダムの境界線。
Culture 2019.09.17
martin-dm-iStock.
女性にとって40代とは微妙な年齢だ。30代までは「女子」であるとぎりぎり公言できても、40代で「女子」を自称することは、周囲から厳しい視線を感じて憚られるという声は多い。
とはいえ、若々しく素敵な50代の先輩たちがたくさんいる手前、「おばさん」を自称することは自虐にならないどころか、慇懃無礼ですらあるだろう。まさに40代とは、自分たちの立ち位置に困る、宙ぶらりんな年頃なのだ。これは海外でも日本でも変わらない。
2012年に『フランスの子どもは夜泣きをしない』(集英社)が世界的ベストセラーとなった、パリ在住アメリカ人ジャーナリストのパメラ・ドラッカーマン。彼女が新著で取り組んだテーマは、女性が40代を迎えることについてだ。
『フランスの女は39歳で「女子」をやめる――エレガントに年を重ねるために知っておきたい25のこと』(CCCメディアハウス刊)の原題はThere are no Grown-ups、さしずめ「この世には最初から大人は存在しない」という意味になろうか。
30代前半でパリに移住し、ずっと「マドモアゼル(お嬢さん)」と呼ばれ続けていた著者が40歳にさしかかる頃、カフェでも道端でもどこでも「マダム(年長女性への敬称)」と呼ばれてショックを受けたことから本書は始まる。マダム――それは自分よりずっと年配の人のことだと思っていたからだ。
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40代は矛盾だらけ、内面が外見に追い付かない
本書を書くきっかけが、40代は定義がなく、矛盾だらけだと思ったことだったとドラッカーマンは話す。外見や身体の衰えから、既に「マドモワゼル(女子)」ではないことは理解していても、内面がその外見に追い付かないのがこの時期だ。
そこで、まだ「マダム(大人)」になりきれていないという心身のギャップを埋めるべく、大人の女性になるということはどういうことなのかについて、科学的見地と自分の経験をもとにリサーチを重ねたのが本書だ。
「若い時には、40代とは大人の指標の1つではないでしょうか。その頃には部下や後輩を励ますような立場になっているだろうと誰もが思っていたはずです。実際、多くの経験を通して適切な判断ができるようになり、感情をうまくコントロールしたり、どんな状況にもうまく対処できるようにはなっています。しかし、かつて思っていた『大人』の年齢に実際になってみると、次の指標が見つからないと思ったのです」
この「定義がなく、矛盾だらけ」の年代について、ユングの理論からドラッカーマンは次のように述べている。
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思春期から35歳までは私たちはエゴに支配されています。社会的な地位を追求し、他人からの承認を求める私たちの不安定な部分です。この時期は社会規範に従いつつ、家族やキャリアを確立させます。
けれども35歳か40歳くらいになると変化が出てきます。ユングがそうであったように、この年齢になると今まで隠そうとしたり、恥じてきた自己に向き合わなくてはならなくなります。(『フランスの女は39歳で「女子」をやめる』124ページ)
その結果、「なりたいと望んでいる自分」と「現実の自分」のギャップについてもがいたり、落ち着かなくなってしまう。そして「自分にできることは何か?」「自分が本当に得意なことは何か?」「自分が本当にやりたいことは何か?」などを自問し、その過程で自分なりの解決策を見出したり、方向転換するようになるのが40代だという。
本書には、その具体的な悩みとして、自分のキャリア、家族、断る力(時間管理術)、「中年の危機」、結婚生活の維持、セックス、また心身の不調や病気、そして子育てと同時に起こる親の介護など、現代の40代女性が考えておくべき25の項目が含まれている。
学生時代に日本に留学した経験があるドラッカーマンにとって日本語版は特別の意味があるとのこと Photo: Dimitry Kostyukov
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フランス人女性は「実年齢マイナス5歳」を目指す
そこからドラッカーマンが学んだことは、フランス人女性の加齢に対する姿勢だ。アメリカ人女性が見かけ年齢を「実年齢マイナス20歳」を目指すに対して、フランス人女性は「実年齢マイナス5歳」くらいを目指すという。
フランス人女性は年齢はもちろんのこと、自分の姿や心、個性がこの世に存在すべき場所があると強く信じ、自分自身を正しく認識して受け入れていく。それは歳を取ることに対してまったく何もしないわけではないが、年齢不応で不自然なことはしないということでもある。
そして、なぜフランス人女性がこれほどまでに歳を重ねることに対していつも堂々と前向きであるかについては、「ファム・リーブル(femme libre)」、つまり「自由な女」の概念が社会で広く共有されていることを指摘する。
フランスにおける「自由な女」は、人目を気にせずに好き勝手するという意味ではなく、成熟した大人のステージに上るという憧れであり、自立したエレガントな女性への最高の賛辞なのだ。
一般的にはフランスでは20、30代というのは期待された通りのことをしている期間であると理解されています。けれども40代に入ると、本当に自分に合っていることをするようになってきて次第に「自由になる」と。
(略)
しかし、「自由な女性」とは大人の要素が多分に必要です。実直であり、目的意識を持っています。にもかかわらず、自分に関わることであまり気に病みません。自分の体を心地よく感じていて喜びを味わう方法を知っています。フランス人でなくとも、こういった女性を目指すのは悪くないと思います。(『フランスの女は39歳で「女子」をやめる』292~294ページ)
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体当たりで40代に迫ったドラッカーマンですら、まだフランス人女性のような「自由な女」の域には達せておらず、まだまだ研鑽中とのこと。しかし、「マドモワゼル」とは決別し、今では「マダム」であることを受け入れているという。
「アメリカも同じですが、日本でも特に女性にとって加齢は難しい問題ではないでしょうか。できるだけ若く居続けなくてはならないというプレッシャーと長期にわたって闘わなくてはならないのですから。ここフランスではbien dans votre âge、つまり自分の年齢の快適さについてよく話されています。また、歳を重ねるにつれて自分の物語ができ、その物語が女性の個性と魅力になると話してくれたフランス人女性もいました。この考え方は参考になると思います」
40代とは本当の自分になる年齢であるということが、本書の軸だとドラッカーマンは最後に話してくれた。いつまでも若く見られ、若く扱われたいという気持ちは多かれ少なかれ、誰にでもあるだろう。しかし、「女子の時代」と決別し、成熟した「大人の女性」になることの喜びと励ましを本書は教えてくれる。

『フランスの女は39歳で「女子」をやめる――
エレガントに年を重ねるために知っておきたい25のこと』
パメラ・ドラッカーマン 著
鳴海深雪 訳
CCCメディアハウス刊
ニューズウィーク日本版より転載