無気力症だった韓国のイラストレーターが教える、生き方のヒント。
Culture 2020.06.23
テレワークの普及で、ストレスや無気力感、不安感を抱える人が増えている。でも、そんなあなたは怠けているのではなく、充電中なだけ。人気イラストレーター、ダンシングスネイルによる「がんばらない」生き方のヒントを紹介しよう。
『怠けているのではなく、充電中です――昨日も今日も無気力なあなたのための心の充電法』(ダンシングスネイル著、生田美保訳、CCCメディアハウス刊)¥1,650
「テレワークうつ」なんて言葉まで生まれた昨今。テレワークの普及によって、時間や場所にとらわれない自由な働き方が注目されているが、逆にストレスを抱える人も増えている。
「仕事とプライベートのメリハリがなくなる」「外出の機会が減る」「他者とのコミュニケーションが不足する」「生活リズムが崩れて昼夜が逆転する」といった理由から、仕事のペースや精神のバランスを崩す人が多いのだ。
なかでも、仕事を真面目に頑張る人ほどストレスに感じやすいのが、目に見える結果として成果を出さなければならないというプレッシャーだ。
「あいつは怠けている」などと後ろ指をさされないよう気を張り続けることによるストレスから、無気力状態や、うつ傾向を発症するケースも珍しくないという。
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しかし、書籍『怠けてるのではなく、充電中です。』(Amazonのページに遷移します)の著者、ダンシングスネイルはこう言う。
無気力はストレス状況に見舞われたときに現れる反応であって、病気ではない。だから、絶対に大丈夫になると信じることをいつも忘れないで。(『怠けてるのではなく、充電中です。』3ページより)
韓国人であるダンシングスネイルは、日本でも翻訳刊行されている『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社刊)ほか、韓国で数々のベストセラー書籍の表紙や挿絵を手掛ける人気イラストレーターだ。
彼女自身、長いあいだ無気力症、うつ、不安症を患い、「私だけがおかしいのか」と自問する日々の中、自分自身をなぐさめ、心の中の思いを吐きだそうという極めて個人的な理由から、絵を描き、文章を書き始めたそうだ。
そしてこのたび、「あなただけじゃないから大丈夫」という励ましのメッセージを送るため、初のエッセイ『怠けてるのではなく、充電中です。』を上梓した。「こんな風に生きていて大丈夫だろうか」と不安に襲われたとき、気分を少し軽くしてくれる、彼女なりの心の持ち方が描かれた一冊だ。
すでに自分に出せる力の最大値まで使ってしまったなら、当然電池切れになることもある。だから、もし自分がぶらぶらしているだけの役立たずのように感じる日があったとしても、自分を責め過ぎないようにしよう。休むときは罪悪感を持たずにしっかり休んでこそ、充電したエネルギーで明日も生きていくことができるのだから。(『怠けてるのではなく、充電中です。』273ページより)
何もできないときこそ、私たちには「充電」が必要だと彼女は言う。
肩の力が抜けたイラストと短編エッセイが40篇ほど収録された本書から、一部を抜粋する。
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何もしたくない(172~173ページより)
体は何もせずにいながら、やるべきことを先延ばししている罪悪感と消えることのない不安に悩まされることがある。何かの原因で生まれた不安感が時間が経つほどにどっしりと根をおろし、原因が消えた後もずっと不安な状態に自分を追いこむようになる。これぞ不安中毒だ。不安中毒やそれに伴う無気力は、たいてい完璧主義のきらいがある人に現れやすい。完璧にやろうとするとそれだけエネルギーを消費するため、休むときはしっかり休むべきにもかかわらず、不安に思いながら休んでいるので当然ながら不安感は続く。うまくやりたいと思うからこそ出てきた不安なのに、逆に何もできなくなるという矛盾。
そんなときにやりがちな行動のひとつで、絶対によくないのは、「頑張ってキラキラ生きている人たちの様子をSNSでわざわざ見ること」。そうしていると、不安にネガティブな考えが加わり、連鎖的に引っ張り出された思考が部屋のドアを突き破って山を越え谷を越え、太平洋のどこかを漂流することになる。
「人生1回目で私はこんなに危なっかしいのに、みんなどうやってあんなに上手に生きているんだろう」
「みんなは頑張って生きているのに......。私も頑張って生きたいけど、やる気が出ない」
そんなとき、不安中毒から抜け出すためには、うまくいくかどうかは別として、とにかくやるべきことを始めるのが唯一の解決策だが、もしそれもとうていムリというなら、少し散歩に出て頭を空にするのもよい。不安なときに出てくる考えはたいていネガティブなものである確率が高いので、ここは思い切り、思考を中断して一息つける別のことでもしよう。
※この記事はニューズウィーク日本版より転載しています。