人気イラストレーターが提案する、「完璧主義な自分を抜け出す方法」。
Culture 2020.06.24
「完璧じゃないからもっと改善しなくてはいけない」と考える心の存在に気付かなければ、自分で自分を攻撃してしまう。自身、無気力症や不安症を患っていた韓国人イラストレーターからの「今日もただ存在できますように」というメッセージに耳を傾けては?
『怠けてるのではなく、充電中です。』48ページより。
『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社)ほか、韓国で多くのベストセラーを作り出した人気のイラストレーター、ダンシングスネイル。
彼女は自身初のエッセイ『怠けてるのではなく、充電中です――昨日も今日も無気力なあなたのための心の充電法』(生田美保訳、CCCメディアハウス)の中で、なかなか消すことのできない無気力感や不安感と折り合いをつけながら、うまく生きていくための心のあり方を紹介している。
彼女自身、無気力症、うつ、不安症を患ってきたことから、その経験を振り返り、自分を苦しめている大きな原因となっていたのが、「自分が持っていないもの」ばかりに目がいってしまうことで生まれる「自分をもっとよくしなければ」というプレッシャーだったという。
自分は生まれ持ったものが少ないと感じて切なくなることがある。天才的な才能もなければ、生まれつきの美人でもない。そのうえ、愛くるしい人懐っこい性格に生まれたわけでもない。どこへ行っても自分にないものとそれを生まれ持った人たちにばかり目が行ってしまうので、何をしても満足できず、何ひとつうまくいかないような気分の繰り返しだった。私の人生はつねに二流、三流のまま終わってしまうような気がしてこわかった。私も何かひとつくらいは一番になりたいのに......。まさか忘れてはいないだろうねとばかりに、世の中は私がそういった特別なものを持たない人間であることを、ことあるごとに自覚させてくれた。そのたびに私は深みにはまり、回復するのに長い時間を要した。(『怠けてるのではなく、充電中です。』58ページより)
しかし、逆説的だが、「すべてが完璧でなければならない」という呪縛から解放されたときにこそ、「自信のない自分」から抜け出すことができるのだ。前回の記事に続き、肩の力が抜けたイラストと短編エッセイが40篇ほど収録された本書から、一部を抜粋する。
今日もただ存在できますように(51~53ページ)
いつだったか某心理研究所のセミナーを受けた後、内容を誤解していたのか、自分には習った通りにできそうもないと家に帰ってから落ちこんだことがある。布団の中でひとしきり泣いた後、講師の先生に助けを求めるメールを送った。これからほかにどんなセミナーを受けたら心が楽になれるかと聞いたら、こんな返事が返ってきた。
「自分は完璧じゃないからもっと改善しなくてはいけない、という心の存在に気づいてください。その心のままでは、どんな知識も自分を突き刺す武器になってしまうので」
その後しばらく、性格や心理的な問題を変化させるための努力をやめ、アドバイスやヒーリングのための文章も自分からは読まなかった。振り返ってみると、あの時間があったからこそ心の余裕を取り戻せたように思う。
『怠けてるのではなく、充電中です。』48ページより。
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完璧主義のきらいがある人には、つねに不完全さに目を向け、もっとよくならなくてはと考える傾向がある。自分に対しても、他人に対しても。誤解してはならないのは、そういう完璧主義自体が問題だったり悪いわけではないということ。不完全さを自覚してもっとよくなろうとすることのどこが問題なのか。ただ、私たちは「完璧であること」と「価値があること」を区別しなくてはいけない。完璧な人だけが認められて愛されると信じこんでしまうと、完璧でないうちは人間としての権利を口にする資格すらないと思ってしまう。
一番こわいのは、完璧でない自分の価値を自分で低く見積もり、不当な扱いを受けたときに、自分はそうされても仕方がないと感じるようになってしまうこと。だから間違っても、自分が完璧でないことと自分の価値とを結びつけて考えるのはよそう。完璧でないことと人間として享受する権利とはなんの関係もないのだから。
『怠けてるのではなく、充電中です。』49ページより。
これまでは、何か目標を持って前に進もうとするとき、内心、それを実現したときに人から認められたり関心を持たれることを期待している面があった。その気持ちはいけないものだったのだろうか。自尊感情が低い人間の行動だったのだろうか。ありのままの自分の価値を認めるには、もっとよくなろうという努力自体をしてはいけないのだろうか。そんなことはない。誰だって他人から認められたい、関心を持たれたいという気持ちを頑張るための動機にしていいし、それはまったく悪いことではない。けれど、自分の努力と成し遂げたものが自分の存在価値を決める絶対的な要素だと思いこむ罠にはまってはならない。そうなると、何かを達成しようと頑張るほど、かえって自信をなくす悪循環につながりかねない。
完璧主義的な性格を短期間で変えるのは難しい。すでに完璧主義の傾向があるのなら、「完璧じゃなくても、もっとよくならなくても、自分は充分に存在価値がある」という気持ちの上に立って完璧を目指すのがよいと思う。そして、楽な気持ちで今日もただ存在できますように。
『怠けてるのではなく、充電中です。』50ページより。
『怠けているのではなく、充電中です』(Amazonのページに遷移します/ダンシングスネイル著、生田美保訳、CCCメディアハウス刊)¥1,650
※この記事はニューズウィーク日本版より転載しています。