新しい恋愛のカタチを模索する、フランスの若者たち。

Culture 2020.07.02

社会的距離を守りながら気になる相手に近づくにはどうしたらいい? マスクをしたままキスする? 感染症対策を講じながら恋をするには? フラストレーションを溜める人もいれば、規則違反を犯す人も。愛と混沌が入り組む、現代の恋愛を緊急調査。

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コロナ禍下のいま、誘惑や恋愛の駆け引きはどう行われているのだろう? photo : iStock

「王子様はお姫様の手の甲にキスをしました。いまこれをやったら相当パンク!」――元レ・ニュル(コメディアングループ)のメンバーでプロデューサーのドミニク・ファリュジャが、ロックアウト直前にツイッターに書き込んで話題になったジョークだ。

“恋愛不足”に2カ月間苦しんだというマチューは、26歳の独身パリジャン。商法を学ぶ大学生だ。彼が外出禁止の解除を迎えてさっそく取った行動も、相当パンクだったといえるだろう。無茶で、常軌を逸した、罰を受けるに価するその行為は「ビズ」。彼が頬にキスをしたアリスは、ほとんど知らない人だったと言っていい。出会い系アプリ「ティンダー」でデートの約束をして、会ったのはこの時が初めてだ。「まさか握手っていうわけにはいかないでしょ」と、マチューは行動を正当化するように言う。「お互い人と会って気持ちを切り替えたかったんだ」

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恋愛も監禁状態。

外出制限が解除されたばかりの頃に、ビストロでモヒートという選択肢はなかった。そんな状況でのデートはまるで不倫カップルの密会のようだったと振り返る。「まるで非合法なことをしている気分だった。5月半ばの頃はまだ、大声で話すのが憚られるような雰囲気だったから」とマチューは話す。それでもめげずに、マチューはデート相手を自宅に招くことにした。ひとりで過ごした自宅待機期間は、「まるで地獄のようだった」というマチューだが、外出制限にもポジティブな面をふたつ見つけた。

1. 24時間一緒に過ごして破綻したカップルを何組も見た。つまり、独身者が増えたということ。

2. 料理をするようになった。外出制限解除以後、自宅に招いた女の子(これまでに3人)にも、シシリア風ピーマンの炒め煮などの手作り料理をご馳走した。「女の子を招く時のディナーの準備は、なかなか楽しい」とマチューは明かす。以前は寿司のデリバリーを頼んで済ませていた。ある女の子をデートに誘ったとき、喘息の持病があるからリスクは絶対避けたいと言われ、思い付いたアイデアだ。マチューは褐色の髪をしたなかなかのイケメンだが、第2波が起こるかもしれないと考えるとぞっとするという。彼の新たな悩みは、「一緒にロックダウン生活を送りたい相手は誰?」だ。

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誘惑で感染?

キスはマスクをしてする? それとも当分お預け? 対人距離を取ることが求められるコロナ後の世界で、誘惑やスキンシップの仕方はどう変わるのだろうか? セックスフレンドと同じストローをシェアしてジントニックを一緒に味わうなんてできる? ジェームズ・ボンドはさっそくこの問題に答えを出した。去る3月7日、アメリカの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演したダニエル・クレイグが番組内で演じたスケッチは爆笑ものだった。相手の女優にアクリル板越しに濃厚なキス、いつものように見事にソファの中に……押し倒す前にセロファンで女優をラッピング、というパロディだ。感染予防(手洗い、マスク着用、接近を避ける)を続けていると、いつしか相手の心を掴むことを忘れて、清潔さばかりが気になってしまうのだろうか?

Cevipof(パリ政治学院付属政治研究センター)名誉主任教授で、フランス人の恋愛や性生活を専門に研究する社会学者のジャニーヌ・モシューズ=ラヴォは、これまでコロナ禍の打撃を比較的免れてきた25~30歳の若者層に転機が訪れていると分析する。キスだけで相手を殺してしまうかも、という不安が情熱に水を差しているという。「この世代はこれまで快適な生活を享受してきました。ピルの認可からHIVが流行するまでの時代と同じです。HIVが流行した頃、パートナーを信頼していいかどうか、若者たちは不安でした。HIV時代との違いは、自分が人に移してしまうかが自分でもわからないことです。誰もが無症状感染者である可能性を否定できない。30代の間に、恋愛行動を控えたり怖がったりする風潮が出てくるかもしれません。恐怖心はどんどん募っていくものですから」

HIVとのもうひとつの大きな違いは、新型コロナウイルスによって恋の駆け引きそのものが打撃を受けたことだ。「HIVはセックスで感染するリスクがあるのに対し、コロナウイルスは誘っただけで感染するリスクがあるわけです。アプローチの仕方ががらりと変わるでしょう」と指摘するのは、臨床心理士で性科学者のジョエル・ミニョだ。「若者たちはフラストレーションを抱えるでしょう。あちこちに手を出してみるような恋多き暮しに終止符を打つ人もいれば、その夜知り合ったばかりの相手にキスするような危険を求める人もいるはず。いずれにしろ、そのうち大人しくベッドインすることになるわけですが」

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地元で恋愛。

大学でコミュニケーション学を学ぶリラは、ブルネットのウェービーロングヘアが魅惑的な23歳。彼女がこれまで付き合ってきたのは主に、イギリス人やラテン系といった「国際的な男の子たち」だった。そんな彼女は、新型コロナウイルスが流行して以来、地元でナンパ、に宗旨替え。両親の家で隔離生活を送っている間、孤独感からティンダーを利用するようになった。「誘惑ゲームが恋しくて」。そう思ったのは彼女だけではない。3月29日の夜、出会い系市場を牽引する大手ティンダーでは、一晩で30億スワイプ(写真が気に入ったら右側に、気に入らなかったら左側に指を滑らせる)を記録した。これは史上最多の数字だ。

広々したところで堂々と気に入った相手と付き合えるようになったいまも、リラは慎重だ。男の子を誘ってパリを散歩することはあっても、相手の家に行こうと提案するのは控えている。ただし、マスクはしない。「交通機関の中ではマスクを着けます。でも、男の子と会うときはマスクなし。ビズもする。通行人の冷たい視線を感じるけどね」。高齢者施設に勤務する叔母は軽症だったが、新型コロナウイルスに感染したという。ボーイフレンドには抗体検査をしもらう? そんなことしたら雰囲気が台無し。そんなリラだが、リスクは認識している。「私のような年齢でも、気付かぬうちに人にウイルスを移してしまうかもしれない。それはわかっている。リスクがある限り、祖父母には会いに行かない」

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誘惑の方法を再発明。

「こんな風にのん気さと警戒心とが同居するのは驚くにあたらない」と話すのは、国家倫理諮問委員会メンバーで哲学者のフレデリック・ヴォルムス。彼の主な研究テーマは道徳と生命の関係だ。彼は「恋愛関係が破綻する」というショッキングな説は支持せず、むしろ透明性に基づいた誘惑のあり方を予想する。「現代のような人間関係の密度の濃い時代に、新型コロナウイルスは大きな衝撃です。自分が媒介したウイルスで自分の祖父母が死んでしまうかも、と若者たちは不安を感じている。この世代はマイナス要因をしっかりと見定め(相手が感染していないか、相手の家族に感染者がいないか尋ねるなど)、事実から目を背けないことを学ばなくてはなりません。私は彼らが新しいコードを発明すると信じていますし、それができたら素晴らしい」

解放されたが、自由ではない。

ヴラディミールは、今年の秋に弁護士としてのキャリアをスタートする22歳。女の子たちの受けもいい中国式の挨拶“フットシェイク”が気に入っている。「これなら挨拶する時にぎこちなくならない」。弁論大会に情熱を傾けるこの好青年は、ロックダウン直前に6年付き合った彼女と別れたばかり。

いっぽう、出会い系アプリを利用するようになって間もないというドリアンは、外出制限の解除を何か「素晴らしい」ことで祝ったり、「1968年の5月革命のような性の解放」状態になるだろうと思っていた。「まったく見当外れ! コロナのおかげでみんな大人しくなってしまった。60年代末の若者たちは道徳秩序や親に対抗して闘ったけど、ウイルスに対して僕たちは無力です。気軽に恋に落ちることができなくなってしまった」

ヴラディミールは最近、よく歩いている。デートで散歩することが増えたからだ。「これまでこんなに歩いたことはない。口説きながら街を再発見しています」。ウイルス の流行で、恋愛地図も再編されつつある。相手をコロコロ変えることは減って、躊躇することが増えた。「特定の人とだけ付き合う、と考えるようになった。前より相手を選んでいると思う。これからは本当に気に入る女の子を探して、真剣に交際できる相手と付き合うつもり」

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独身礼賛。

『アルゴリズム社会の愛』の著者であるジャーナリストのジュディット・デュポルタイユは、恋愛熱の低下とも呼べる事態が発生し、「スロー交際」が一般化すると予想する。「デートをし、肉体関係を結び、熱が冷めて別れるということを無駄に繰り返す必要はないという風潮が出始めている」とデュポルタイユは言う。「自宅待機をひとりで満喫した人は、独身は何かが足りない状態ではない、それ自体で充足した生き方だと、肯定的に捉えるようになるかもしれません」。実際、パートナーのいる若者にとっては、24時間一緒に暮らすことを強いられた外出制限はまさに“試験”のようだった。

29歳、ビデオ編集者のエチエンヌにとって、1年前に出会った恋人とこれほど長い期間、日常生活をともにしたのは初めてのことだった。ふたりにはそれぞれ自分のアパートがある。外出制限を機に、彼は田舎にある彼女の両親の家で2カ月近く一緒に過ごした。「同じ船に乗っているような気分で、彼女とより近くなった。一緒にいて本当に幸せになれる相手だと気づいた」。エチエンヌは独身時代に未練はないという。「テレビシリーズの『フレンズ』を見てほしい。あんな風に友達同士でじゃれ合ったり、ビズをしたりすることは、もうほとんどない。友達たちは感染を心配しているし、ティンダーのような出会いアプリのデートも難しい。コロナは恋人を探したい人には障壁になっている」

マスクで顔の半分が隠れていると、感情を伝えるのも簡単ではない。相手が微笑んでいるのか困惑しているのか、判別しにくい時もある。「街角で女の子に声をかけたいと思うけど、いまは難しい」とヴラディミール。「お互いなんとなく不信感を持って相手を見ている」。マスクというハンデを乗り越えるために、新しいボディランゲージが生まれるかもしれないと、出会い系アプリに詳しいデュポルタイユは言う。「確かにまなざしだけで微笑するのは簡単ではありませんから」。ちなみに、またジェームズ・ボンドの話になるが、007シリーズには『ユア・アイズ・オンリー』というエピソードもあった……。

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texte : Marie Huret (madame.lefigaro.fr)

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