生き方を見つめ直したい時に読みたい本、観たい映画。#01 雨宮塔子に聞く、人生後悔しないためにやるべきこと。

Culture 2020.12.28

私の人生、こんなはずじゃなかった……と悶々としている人、軌道修正する一歩を踏み出したい、または新しいことに挑戦したいと思っている人も多いはず。何度かの大きな決断をしながらキャリアを重ねているフリーキャスターの雨宮塔子さんに、そんな人たちにおすすめしたい本や映画とともに、選択をするときに大切にしている指針を聞きました。

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自分で決めて、責任をとる。雨宮塔子の嘘をつかない生き方。

アナウンサーとして働いていたTBSを29歳で退社し、パリへと生活の拠点を移した雨宮塔子さん。結婚、子育てをしながらエッセイストとしても活躍し、2016年から3年間は「NEWS23」のキャスターを務めるために単身で東京に戻るという決断をしている。本人は、「後悔しないために選択しているわけではないんです」という。

201222_toko_amemiya.jpgphoto:AYUMI SHINO

「後悔するかどうかはあくまでも付随する結果であって、先にくるのは自分がどう生きたいかということ。私の場合はいつも“自分に嘘はつかない”ことを指標にしてきました。そうは言っても、年齢を重ねると自分以上に大切な人が増えていきますよね。その人のために……と思って選択した時に押し付けがましさが出てしまったり、誰かのせいにしてしまいそうな気がするなら、考え直したほうがいいのかもしれません。自分に嘘をつかず、自分で決めて、自分で責任をとる。何年経っても正解なんてわからないけれど、どんなことでもとことん自分と向き合って出した答えなら、納得できるんじゃないかなと思いますね」。会社や番組の代弁者であるアナウンサーの発言は、ともすると個人の言葉に捉えられてしまう。TBSを退社して日本を離れたのは、そのことへの違和感からか体調にも変化が出てしまっていた時期だという。

「パリを選んだのは、本や映画、実際に旅をしたときに感じた雰囲気が、嘘をつかず自立して生きたいという自分に合っているような気がしたからです。その当時付き合っていた人もいたので、彼にとっては辛いことだったと思うんです。でも私の悩みや思ったことはやりたい性格を知っていたから、心で泣いて背中を押してくれたのかな、と。相談をした時にどんなアドバイスをくれるかによって、その人の本質が見えてくることもありますよね。厳しい選択をする時に得た、人を見る目や温かい思いは宝物になりますし、気付きも多いと思います」

単身で日本に戻って再びキャスターに就くときには、「(当時12歳の)娘からこの仕事は諦めちゃだめだよ、と言われたんです」と振り返る。「離婚後だったので経済的な面で働く必要もありました。普通なら日本で子育てをしながら働く選択もあるのに、と思われますよね。娘はフランスに残りたいという意志があり、私をひとりの母親というよりも、ひとりの女としてどうやって生きていくのかを考えてくれたのだと思うんですね。フランス社会では常に、妻、母である前に、人としての立ち位置を考えさせられる。フランスで小さい頃からお友達の家庭も見て、そういう考え方に触れてきた娘だから、私の背中を押してくれたのだと思います」

19年には「NEWS23」を卒業し、現在は再びパリで暮らしている。「パリは多民族な街なので、“日本人の塔子”ではなく“ただの塔子”として見てもらえることに、居心地の良さを感じています。民族が違うから価値観が違うのは当たり前という前提があるので本音を言い合っても後を引かず、深い関係を築くことができる。ひとりの時間を大事にする粋な距離感があるところも、私にはちょうどいいなと感じています」

そんな雨宮さんが、その一文に心を動かされ何度も手にとる本と、人生における選択時こそ向き合うべき愛について考えさせられた映画をご紹介。

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悩みや迷いは自分なりに飼い慣らしていくしかない
 

『蝶のゆくえ』

10代で出産、離婚、再婚をして子どもを虐待してしまう女性や、定年退職後の夫を殺されてしまった女性など、さまざま
な世代の女性たちの生き方を描いた橋本治の短編集。「そのなかの一編『金魚』に出てくる「自分だけが孤独だなんて、思わない方がいいわね」というセリフが心に響きました。どんな人にも悩みや迷いはあって、それを飼い慣らしていくしかない。そう思わせてくれる短編集です」


橋本治著 集英社刊¥628

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その選択、大事な人の心や本当の愛を見逃していない?
『ラブレス』

離婚協議を進めながら、息子の養育を押し付け合っているボリスとジェーニャ。激しい口論をした翌日、それを聞いていた息子の行方がわからなくなってしまう。ロシアの鬼才、アンドレイ・ズビャギンツェフが自己愛を肥大させていく大人たちの姿を描く。「本当の愛は失ってみないとわからない。重いタッチの作品ですが、責任の重さや愚かさ、本当の愛とは何かを教えてくれる映画だと思います」

 
●監督/アンドレイ・ズビャギンツェフ ●出演/マルヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン ●2017年、ロシア・フランス・ドイツ・ベルギー映画 ●本編127分 ●DVD¥4,180 ●発売:ニューセレクト ●販売:アルバトロス©2017 NON-STOP PRODUCTIONS-WHY NOT PRODUCTIONS

雨宮塔子 TOKO AMEMIYA

1970年、東京生まれ。フリーキャスター、エッセイスト。1993年にTBSに入社し、アナウンサーとして活躍。99年に退社してパリへ渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。16年から19年まで「NEWS23」のキャスターを務める。20年12月30日(水)には関口宏氏と司会を務める『報道の日2020 激動の21世紀~米中、そして日本』(TBS系、午前11時~17時30分)が放送される。『パリに住むこと、生きること』(文藝春秋)『パリのmatureな女たち』(幻冬舎)ほかエッセイストとしても活躍。Instagram:@amemiya.toko
 

生き方を見つめ直したい時に読みたい本、観たい映画。

interview et texte:MIKA HOSOYA

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