【立田敦子のカンヌ映画祭2025 #5】人気俳優たちが監督作でカンヌに降臨!
Culture 2025.05.22
ユニーク、あるいは革新的な作品を対象とした「ある視点」部門に、今年はスカーレット・ヨハンソン、クリステン・スチュワート、ハリス・ディキンソンという3人のトップクラスの俳優が監督として長編映画を出品し、注目を集めている。

最も評価が高かったのはスカーレット・ヨハンソンが長編初監督した『Eleanor the Great』だ。親友を亡くした94歳のフロリダ在住の女性エレノアが、ニューヨークに移住し、新たな人間関係を築いていく過程を描くドラマである。エレノアは、ホロコースト生存者の支援グループに誤って参加したことがきっかけで若い大学生ニーナとの友情を育んでいくが、エレノアが語った亡き親友のストーリーを巡り思わぬ方向に事態は転がっていく。主演は、日本で『テルマが行く!93歳のやさしいリベンジ』が6月6日に公開となる95歳のジューン・スキップ。エレノアの強さと脆さを見事に表現したその演技は絶賛されている。

ヨハンソンは俳優としてインディーズ映画からハリウッド大作まで数々の作品で高い評価を受けてきたが、本作では監督としての新たな才能を披露した。彼女は脚本に共鳴し、監督業に挑戦したと語っている。アート作品というよりウェルメイドな感動作である本作は、カンヌの主流とはいえないまでも上映後に5分間のスタンディングオベーションを受けるなど観客からも好意的に受け入れられ、デビュー作としては大成功を収めたといえるだろう。今後の彼女の監督業にも期待が高まっている。
クリステン・スチュワートが監督した『The Chronology of Water』は、リディア・ユカヴィッチの同名回想録を原作とした作品である。本作は女性のアイデンティティや身体性、トラウマといったテーマを詩的かつ大胆に描いており、スチュワートの独自の視点が光る作品となっている。主演のイモージェン・プーツは繊細かつ力強い表現者と高評価。

ハリス・ディキンソンの初監督作品『Urchin』は、都市の片隅で生きる若者たちの姿をリアルに描いた作品。物語は社会の周縁で生きる若者たちの友情や葛藤を中心に展開するが、感情の機微を捉える力が評価されている。

クリント・イーストウッド、ベン・アフレック、ショーン・ペンなど俳優から監督業に進出し、成功した例は多いが、"アート映画の殿堂"で初監督作品を披露した彼らの未来は明るいといえるだろう。
映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki