マスクの着用は、子どもの社会性発達を阻害する?

Culture 2021.03.05

From Newsweek Japan

マスクを着けるようになって「子どもたちの笑顔が減った」「子どもと信頼関係を築きにくい」など、日本の教育現場からは子どもの社会性の発達を危惧する声が上がっています。従来のコミュニケーションを補う対策として勧めたい「非言語コミュニケーションスキル」をご紹介しましょう。

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写真はイメージ photo:Drazen Zigic-iStock

新型コロナウィルスの感染拡大によって世界中でマスク着用がニューノーマルとして定着しつつあります。新たな生活様式への適応が求められる中で、アメリカ人の間では「相手の感情が読み取りづらい」「自分の意思が伝えにくい」など、コミュニケーションに関わる問題が表面化してきています。

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英語話者は、「口元で」コミュニケーションを取る。

アメリカ人がマスクに抵抗感を持つ原因の一つにコミュニケーションがとりづらいことがあります。アメリカ人は会話を切り出す時にニコッと口元を引き上げて笑顔を見せる習慣があります。ところがマスクを着けていると相手の口元が見えず、自分から話をしていいのか、相手の発言を待つべきなのか、互いに会話のきっかけが掴めず、やりとりがぎこちなくなってしまうのです。

「口元が見えなくてもコミュニケーションできるはずだ」と日本人は感じるかもしれません。しかし英語話者に関して言えば「口元」がコミュニケーションを円滑にする上で重要な役割を果たしていることが分かっています。

イギリスの心理学者、ハリー・マクガークとジョン・マクドナルドは、英語話者の音声認識(言葉の聞き取り)は聴覚情報だけで決まるのでなく、相手の口元を中心とする視覚情報によっても影響を受ける(マガーク効果と呼ぶ)ことを発見しました。

彼らが行った有名な実験が「ガガガ」と言っている顔の映像に「バババ」という音声を重ねたものです。これを視聴した人のほとんどは「ガ」でも「バ」でもなく「ダダダ」と聞こえる回答したのです。

マガークとマクドナルドの研究は「口元」という視覚情報が実際の音声の聞こえ方を変えてしまうほど影響力が強いことを証明したものですが、興味深いことに日本人は、英語話者に比べて、マガーク効果(視覚情報による錯覚)の影響を受けにくいことが分かっています。

2016年に熊本大学の研究チームは、日本人はコミュニケーションをとる時、最初から相手の声に集中しており、まず相手の口元を見てから声への聞き取りへと進む英米人とは情報処理のプロセスが異なることを発見しました。

また「目は口ほどに物を言う」ということわざの通り、日本人は口元よりも相手の目を見て感情を読み取ろうとする傾向があることも分かっています。このような日米のコミュニケーションスタイルの違いが、マスク着用時におけるコミュニケーションのとりやすさの「差」となっているようです。

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マスクが子どもの発達に与える影響とは?

マスクで表情が分かりにくくなることは、言葉が発達途上の幼い子どもにとってより深刻な問題です。洋の東西を問わず、生まれてきた赤ちゃんは養育者の口元の動きを真似ることで言語習得の助けにしていることが分かっています。

京都大学大学院教育学研究科のチームは、養育者の口をよく見る赤ちゃんほど音声を模倣する傾向が強いことを発見しました。研究チームは「ヒトは生後直後から養育者の声だけでなく、顔に含まれる情報を巧みに利用して、言語を効果的に学習していく」とコメントしています。

米イェール大学のChild Study Center研究員、デビッド・ルコビッチ博士は、赤ちゃんが生後6ヶ月〜8ヶ月になり難語が出てくるようになると、赤ちゃんの視線が養育者の目からの口に移動することを発見しました。

ルコビッチ博士はマスクの弊害について「赤ちゃんは言葉をマスターするために相手の口を見ることに多くの時間を費やすようになる。養育者がマスクをしていると、言葉を習得するために必要な視覚情報のいくつかを見逃してしまう可能性がある」と述べています。

マスクが子どもに与える影響は言語発達だけではありません。トロント大学の応用心理学教授、カン・リー博士は、マスクを着用することで子どもの感情認識の発達が阻害される可能性を指摘しています。

「嬉しい、楽しい、悲しいなど、人間の感情的な情報の多くは顔の筋肉の動きを通して表示します。その情報がマスクによって見えないため、子どもたちは感情認識がうまくできず、周囲の人たちと信頼関係を構築する社会性の発達に問題が生じる可能性がある」とカン・リー博士は述べています。

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親や教師は、感情表現を強調することが重要。

デューク大学の心理学助教授であるサラ・ゲイザー博士は「ほとんどの学校でマスクが義務付けられている今、教師や子どもは自分たちの感情を言葉で表現することを強調する必要がある」と言います。

「教師は自分の感情を言葉で表現すること、そして子どもたちが感じていることをもっと頻繁に質問することが大切だ。感情を言葉にすることによって子どもは相手の目から感情を読んだり、声のトーンから感情的な内容を理解する力を発達させることができる」と解説しています。

前述のルコビッチ博士は「家庭では(マスクを外した状態で)親と子どもが顔と顔を向き合わせた交流を意識することが大切だ。学校でマスクをしていても、家庭で(マスクなしの)対面の交流を増やすことで、学校での不足分を十分補うことができる」とアドバイスしています。

同じく前述のリー博士は「教師はボディーランゲージや声のトーンにもっと配慮する必要がある。声に感情を込め、目元の動きに感情を込め、ジェスチャーを大袈裟にすることが大切だ。また言葉を発するスピードを普段よりも遅くすることで子どもの音声認識を高めることができる」と述べています。

いずれの専門家も「親はマスクの影響を過剰に心配する必要はない」と声を揃えます。子どもは大人よりもはるかに適応力が高く、口元や表情以外の情報を駆使して、言葉を発達させ、感情を読み取る力を身につけていくだろう、という楽観的な意見が多いようです。

しかし日本の教育現場からは「子どもたちの笑顔が減った」「感情を読み取る能力が低くなった」「子どもと信頼関係を築きにくい」「ほめても意図が伝わらない」など、子どもたちのコミュニケーション力や社会性の発達を危惧する声が次々と上がってきています。

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マスク時代は感情を強調する、コミュニケーションが大切。

伝統的に日本人は、欧米人に比べて、感情を顔に出さず、控えめな感情表現を好みます。しかしマスク着用がニューノーマルとなった現在は、目の表情、声のトーン、ジェスチャーなどを強調したコミュニケーションスタイルが重要になります。

子どもと日常的に関わる親や教育者はもちろん、大人同士、子ども同士のコミュニケーションでも、言葉以外の「非言語コミュニケーションスキル」を駆使することで、お互いに気持ちや意図が伝わりやすくなり、意思疎通や人間関係を円滑にしてくれます。

たとえば目元の表情。人は幸せなときには目の周りにシワが寄り、悲しいときには涙が流れます。目を細めたら疑いのサイン、目を見開いたときは関心を寄せているサインです。顔全体が見えないことで失われる情報は確かにありますが、人の気持ちを知るために必要な情報の多くは、目元を強調することで正確に伝えることができるのです。

非言語コミュニケーションスキルは少し訓練すれば誰でも身につけることができます。子どもがいる家庭では以下を実践してみてください。それだけで子どものコミュニケーション力が格段に向上するはずです。

1)子どもと向かい合って会話したり、遊ぶ機会を増やす
2)感情表現(声、表情、ボディランゲージ)を2倍大袈裟にする
3)話し言葉をはっきり、ゆっくり、明瞭にする

[執筆者]

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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