Manga meets CHANEL 2 白井カイウと出水ぽすかが語る、『MIROIRS』展。
Culture 2021.04.16
銀座のシャネル・ネクサス・ホールで4月28日からスタートする『MIROIRS - Manga meets CHANEL / Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか』展。『約束のネバーランド』の原作者・白井カイウと作画家・出水ぽすかに、どのように展覧会へ向かって行ったのか、話を聞いた。
――今回、シャネルのことはどのように取材しましたか?
出水ぽすか:コロナの影響で予定していたフランスでの取材に行けなかったのですが、シャネルにご協力いただきながら、日本で出来る範囲の取材をさせていただきました。日本の店舗へお伺いして商品やブランドの歴史、ガブリエル本人の逸話について詳しくレクチャーを受けたり、フランス現地スタッフさんにビデオ電話を繋いでお話を聞かせていただいたり。
白井カイウ:あとは、ひたすらおすすめしていただいた関連書籍を読んだり、シャネルを題材にした映画『ココ・アヴァン・シャネル』を見たり、特別にバーチャルで彼女のアパルトマンを探索したり……。集英社のファッション誌編集部の方々にもご協力いただき取材しました。お店にあるN°5をすべて購入し、実際に使ってみて違いを比べたりもしましたね。
出水ぽすか:私は作画中によくシャネルや起用されているモデルのInstagramを見ていました。いまの女の子たちに響くものをずっと追い求め続けていることが伝わってくるんです。ガブリエル シャネルその人の時代を模したモノクロ写真もあるんですが、現代の子たちにも響く、いまの綺麗さを引き出す写真の研究をすごくされている印象を受けました。
photo by George Hoyningen-Huene © RJ Horst
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制作について
――今回の漫画を制作するにあたり、こうした取材をどういうアプローチで物語に落とし込んでいったんでしょうか?
白井カイウ:まず始めに “漫画の形をした出水先生の画集”コンセプトでネームを組むことにしました。
ストーリーに関しては、ガブリエル シャネルからインスピレーションを受けた側面を、各章のキャラクターに落とし込むという試みをしました。また、フランスに行けなかったこともあり、物語の舞台を日本にして現代日本でシャネルの精神や製品がどう息づいているのかを描くことにしました。
初期の構想デッサン。©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
――タイトルを「ミロワール」にした理由を教えてください。
白井カイウ:「miroirs」は、フランス語で「鏡」の複数形です。ガブリエル シャネルの言葉であると伝わっているもののなかに、鏡についての言葉があって。鏡は自分の正体を正直に映してくれるものだ、自分がどんな人間なのか思い出させてくれる、というような趣旨の言葉です。そんな「鏡」というキーワードが念頭にあった上で、バーチャルや写真でガブリエルのアパルトマンを拝見した時に、螺旋階段や応接間など各部屋に綺麗な鏡がたくさんあったんです。それで、今回は各章にガブリエルから得たイメージの断片をキャラクターのモチーフとしてちりばめていくことにして。それはたくさんの鏡でガブリエル シャネルのさまざまな面を映している……という体裁にも見えるなと。「鏡がいっぱい」という意味で「ミロワール」にしました。
――メインビジュアルも印象的ですね。執筆にあたってコンセプトはありましたか?
出水ぽすか:このイラストは、シャネルについて色々なお話を聞いていく中で感じた、世界を塗り替えたシャネルのイメージですね。N°5の瓶の形って、シンプルでスタンダードな瓶の形なんですよね。そこから油彩などに使う画材・テレビン油の瓶のシンプルさとリンクされて…絵の具という発想になりました。イラスト内に東京を描けるのは、日本でこのコラボをやることの意味なのかなと考えています。
今回の漫画のコンセプトは、「ガブリエル シャネルの概念を持っている」ところを表現することなので、そういう意味では、あえて顔を見せないことで、ガブリエル本人かもしれないし、そうではないかもしれない、もしくはガブリエルをリスペクトしているいまの自分たちなのかもしれない、という色々な可能性を込められたと思います。普段できないことをやらせてもらえたので、新しい挑戦でしたね。
「世界を塗り替えるココ」をテーマにしたイラスト。
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
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――作品中、重要なキーアイテムとしてシャネルNo5が登場するそうですね。どのようなシンボルとして描かれるのでしょうか? また、白井先生が考えるシャネル N°5の意味や価値について教えてください。
白井カイウ:香水=”目に見えない”アクセサリーという考え方や機能に、とても魅力を感じます。口紅をつけるように、ネックレスやイヤリングを着けるように、タイや時計を着けるように、自らを輝かせる香りを纏う。更に、視覚を遮断したとて、その人を思い起こせる情報がある。たとえその人が目の前にいなくても、いなくなっても、その人を感じることができるものがあるという。
香水は、その人がその人自身にかけた魔法が、知らず知らず自分にもかけられていた、そんなファンタジックな感傷も感じられて、とても甘美です。
――作画を進める中で、N°5のボトルデザインについて感じた点や気づいた点があれば教えてください。
出水ぽすか:ふたの部分を上から見た図が好きです! 作中では吹き出しなどの一部にその要素を取り入れています。その際、年代によってかなりボトルのフォルムが違うこと、特にふたの形状は振れ幅が広く感じました。香水が液体のまま使用するものとミストになるもので、クリスタル型のキャップの内側に透けて見えるノズルが違いますが、ミストのものはノズルを抜いた時に、中に泡が入ったような湾曲したガラスの光の屈折がすごく綺麗でお気に入りです。(特に真横から見た時)あの光り方を表現できればいいのですが……!
初期の構想デッサン。©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
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――作品に登場する3人のキャラクター設定を教えてください。また、それぞれシャネルのどんな側面にインスピレーションを受けて生まれたキャラクターでしょうか?
白井カイウ:1章の主人公は、読書と空想が大好きな少女。彼女は母親とふたり暮らしですが、大好きな母と自分が望む分だけ一緒にいることはできません。そして自分が翼を持たずに生まれてきたと思っているような子です(※翼とは、何か誇れるもの。才能・美貌・栄誉その他何かしらの強みのような)。ガブリエル シャネルも読書が好きで生涯たくさんの本を読んだと聞きました。空想も好きであったと。また、ガブリエルは貧しい境遇に生まれ、12歳の時、病で母を亡くし、父はガブリエルとその姉妹を修道院に預け姿を消してしまったといいます。1章のキャラクターは、修道院で己の置かれた環境を睨み据えながら、本を読んで、世界を広げ、まだ何者でもなかったころのガブリエルに着想を得て生まれました。
2章の主人公は、オシャレと自由を愛し楽しむ女性です。メイクが達者で日々の気分で顔や着る服を変えまくります。ガブリエル自身、色んな恰好を楽しんだと聞きます。そんなガブリエルのオシャレを楽しむ部分、型にはまらない女性であったところ、あとはガブリエルが本当のことをすべて言わないこともあり、実体が一見してでは掴みきれないところ、N°5さながら謎めいているところ、などから着想を得ました。そうしてかつてガブリエルがいまの時代の女性たちに与えた自由を存分に享受し楽しんでいるのがこのキャラクターです。
初期の構想デッサン。©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
白井カイウ:3章は、自分の顔・身体に強くコンプレックスを抱いている少年が主人公です。世界に息苦しさを感じています。ガブリエルも彼女が生きた当時の流行、当時のフランスの一般的価値観からは幾分離れた体型や美的感覚で生まれ育ったと思います。ガブリエルは自分の着たいもの、したいこと、こう在りたいという姿を貫いて、人々を魅了し、世界の価値観の方を変えていきました。3人目の彼が着想を受けたのは、そういったガブリエルの反骨と、もうひとつ、ガブリエルの愛憎が表裏一体ないまぜになっているようなところです。
初期の構想デッサン。©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
『約束のネバーランド』原作担当。2015年「少年ジャンプ+」(集英社)掲載の読み切り『アシュリー=ゲー トの行方』で原作者としてデビュー。2016年「少年ジャンプ+」読み切り『ポピィの願い』にて作画・出水氏と初のコンビ作品を発表。2作とも大きな反響を得て、同年8月から『約束のネバーランド』を「週刊少年ジャ ンプ」にて連載。
作画/出水ぽすか
『約束のネバーランド』作画担当。イラストコミュニケーションSNS「pixiv」の人気イラストレーターであり、装丁など多方面で活躍。コロコロコミック『魔王だゼッ!!オレカバトル』連載など、漫画家としても活動。2016年「少年ジャンプ+」に読み切り『ポピィの願い』が掲載されジャンプデビュー、同年8月から『約束のネバーランド』 を「週刊少年ジャンプ」にて連載。
期間:4/28(水)~6/6(日)
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
tel : 03-3779-4001(シャネル・ネクサス・ホール事務局)
開)11時~19時30分
入場無料
無休
※要予約。詳細は下記ウェブサイトにて。
https://chanelnexushall.jp/program/2021/manga