日本人の子どもはなぜ、自己肯定感が低いのか?

Culture 2021.04.20

From Newsweek Japan

日本で「他人に迷惑をかけない子に育ってほしい」と思う母親の多さは異常なレベル。この考え方は、子どもの自己肯定感を高めるのに必要な「自主的な行動を通した成功体験」を積ませることとは相反する思想なのです。

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連帯責任という強迫観念が無意識のうちに人々を抑圧している?(写真はイメージ)photo:takasuu-iStock

文/船津徹

国立青少年教育振興機構が、日本、韓国、中国、米国の高校生を対象に行なった意識調査(2018)があります。この中で、「私は価値のある人間である」という質問に「YES」と答えた割合は、日本人は44.9%でした。(韓国83.7%、中国80.2%、米国83.7%)

日本人は謙遜しますから多少色をつける必要がありますが、「自分は価値がある」と答えた高校生が44.9%というのは低すぎる数字です。裏返せば、「自分に価値がない」と感じている高校生が半数以上いるということです。

自己肯定感の定義は様々ですが、この感情を支えているのは、「自分はできる」という「根拠のない自信」であると私は考えています。「自分はできる」と信じている人は、チャレンジを繰り返し、成功体験を積み重ね「根拠のない自信」を「根拠のある自信」に変えていくパワーを持っています。

これとは反対に「根拠のない自信」が小さいと「自分はできる」という自信よりも「失敗するのではないか」という不安感が目の前に大きく立ちはだかり、新しい挑戦がしにくい、人生に対して消極的な態度が形成されてしまうのです。

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なぜ、日本人の子どもは自己肯定感が低いのか?

私は、日本、米国、中国で塾を経営し、世界中の国の子育てを見てきましたが、日本人の自己肯定感が低い原因が「まわりに迷惑をかけない子育て」にあるように思えてなりません。

ベネッセコーポレーションが日本、韓国、中国、台湾の母親に行なった「子どもに期待する将来像」という調査で「人に迷惑をかけない人になってもらいたい」と答えた割合は、日本71%、韓国24.7%、中国4.9%、台湾25%でした。日本の71%というのは突出した数字です。

「人に迷惑をかけない人になってもらいたい」というのは「まわりと同じであってほしい」「目立つ存在にならないでほしい」という心理が母親に働いている現れと受け取ることもできます。

これは悪いことではなく、子どもが「出る杭」にならないように、いじめや仲間はずれの対象にならないように、子どもを守ることが目的であり、「日本社会」で生き残る子どもに育てるための母性本能とも言えます。

しかし、子どもが「出る杭」にならないように育てるというのは、言葉を変えると、「個性を抑え、集団に合うように行動をコントロールすること」です。つまり、自主的な行動を通して「自分はできる!」という成功体験を積ませることとは矛盾してしまうのです。

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連帯責任という強迫観念

江戸時代、日本の人口の約7%と言われた武士は「すべてはお家のため」と、主君に忠誠する態度、個をおさえこみ全体を活かす思想を持つことが理想とされていました。「まじめで従順であること」が最良の生き方という価値観があったわけです。

この価値観の裏に仕掛けられていたものが「連帯責任」という強迫観念です。一人の不始末が全体の責任となり、最悪の場合「お家とりつぶし」になるという恐怖を武士は抱えていたのです。

連帯責任は武士だけのものではありません。江戸時代の町村は「五人組」という制度によって管理されていました。これは近隣5戸を一組とし、互いに連帯責任で年貢納入や犯罪取り締まりなどを行なうものです。

昔は「個性」のことを「クセ」と呼んでいました。「クセがある人」というのは個性が強い人のことです。クセのある人は、トラブルを起こし、まわりに悪い影響を与える可能性があります。だからクセ(個性)を抑えこもうとする集団心理が働いていたのです。「村八分」と呼ばれ、秩序を守らない人との交際を村全体が絶つという習慣が、最近まで日本に残っていたのはその一例です。

もちろん今の日本には連帯責任はありませんが、一度根付いた価値観は人々の心から簡単に消えてなくなるものではありません。個人や家庭や地域社会や学校や会社組織において、今も、連帯責任という強迫観念が無意識のうちに継承され、人々を抑圧しているのではないでしょうか。

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ダメ、ダメ言い過ぎる日本人の母親

デパートで「さわっちゃダメ!」、「そっち行っちゃダメ!」と子どもの後を追いかけましている母親をよく見かけます。子どもからすれば、デパートには見たこともない魅力的なモノが溢れています。そんなモノを見ればさわってみたくなるのが人の常です。でも母親は「お店に迷惑をかけないように」、「まわりの人の迷惑にならないように」と、子どもの行動を抑制します。

何事にも日本人の親はまわりの目を気にしすぎるところがあります。子どもが泣けば近所迷惑になると必死であやし、子どもが走れば先回りして子どもをブロックする。子ども同士のおもちゃの取り合いになれば、親がおもちゃを取り上げて相手の子に渡してしまう。子どもは「まわりに迷惑をかけない」という大義名分の下、自発的な行動をコントロールされ続けるのです。

自己肯定感を育てるには「自分の意欲でやったことができた!」という成功体験が重要なのですが、世間がうるさい日本では「ちゃんとしつけなければいけない」というプレッシャーが大きく、その結果、子どもの行動をコントロールする場面の方が多くなってしまうのです。

子どもの自発的な行動を、親や周囲の大人や社会全体が、もう少しおおらかな目で見守ることが子どもたちの自己肯定感の向上につながるのではないでしょうか。人はだれでも「まわりに迷惑をかけて成長する」のです。ましてや世の中のルールも常識も知らない子どもですから、失敗したり、間違ったり、迷惑をかけるのがあたりまえなのです。

放任するのでなく、自主性を伸ばせる環境を与える。

私は子どもを放任せよと言っているのではありません。子どもが自主性を伸ばせる環境や機会をもっと作ってほしいということです。たとえば「走り回りたい!」というのは、多くの男の子にとって自然な欲求です。でもデパートでは走り回ることはできません。ですからデパートのかわりに公園や運動場に連れて行き、思い切り走らせてあげればよいのです。

東京都立川市にある「ふじようちえん」の園舎はドーナッツ型になっていて、子どもたちは屋上で歓声をあげながら自由にぐるぐる走り回ることができるそうです。そのような環境であれば、親が「ダメダメ」言うことなく、子どもは自分のやりたい行動を十分にやり切ることができます。子どもたちは1日平均5〜7キロ移動すると言いますから、子どもの持つエネルギーには驚きます。

子どもの自己肯定感を育てるには「干渉を減らすこと」が手っ取り早い方法です。家の外は人目が気になるという場合は、自宅や、祖父母の家や、信頼できるママ友の家など、安全かつ、子どもが自由に行動できる環境で遊ぶ機会を増やしてあげましょう。

そして、自分でブロックが作れた、自分で絵が描けた、自分でおもちゃを片付けられた、という小さな達成を親は見逃さずに、「ブロックが作れたね!」と声をかけてあげてください。それで子どもは成功を実感することができます。

手伝いを頼み、感謝を伝える。

子どもの自主性と自己肯定感を育てる最高の方法が「お手伝い」です。子どもに簡単なお手伝いを頼み、手伝ってくれたら、「ありがとう。助かったわ」と感謝して抱きしめるのです。これで子どもは、「自分はできる」、「自分には価値がある」という自信を大きくすることができます。

お手伝いを頼むときは、命令で子どもを動かそうとしてはいけません。小さな用事でも「頼むこと」を忘れないでください。「◯◯ちゃん、このお皿をテーブルに持っていってくれるとママ助かるわ」と頼めば、子どもは必ず応えてくれます。そして手伝ってくれたら「ありがとう。◯◯ちゃんのおかげで助かったわ。頼りになるわ」と抱きしめて感謝します。

子育て上手なお母さんは、子どもに頻繁にお手伝いを頼み、成功体験のインプットを積み上げています。人から感謝される喜びと快感をたくさん経験して育った子どもは、前向きで積極的な人柄に育ちます。最初は1日でかまいません。

「ダメ、ダメ」を封印しましょう。そしてお手伝いを頼み、「感謝」を伝えてください。それだけで子どもの目の輝きが変わります。

[執筆者]

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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