高学歴女子が、マッチングアプリで騙された裏側。

Culture 2021.05.08

馬越ありさ

コロナ禍で人との出会いが減り、「マッチングアプリ」が気になっている方も多いのではないでしょうか? ひと昔前は「出会い系」などと呼ばれ、ともすればマイナスのイメージを漂わせていましたが、コロナ禍ですっかり市民権を得た様子。現代の恋愛模様は、マッチングアプリの普及でどう変わったのでしょう。マッチングアプリを通じて見えた悲喜劇を、ライターの馬越ありさが綴ります。

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写真はイメージ。 photo:Liderina_iStock

真子さん(34歳)通信企業勤務の場合

「まさか自分が騙されるなんて…彼が詐欺師だったなんて信じられないんです」

いまにも泣き出しそうな口調の真子さん。ここ数年、主流となっている艶肌メイクや抜け感のあるヘアスタイルとは無縁の保守的な様子は、雛人形を彷彿とさせる奥ゆかしさだ。両親から贈られたというパールのイヤリングに、ダイヤモンドがさり気なくあしらわれたハートのネックレスが、ちぐはぐな印象を与える。自己主張のなさが、自信のなさのように映ってしまうタイプだ。

「両親はお見合い結婚なんです。官僚の父は厳しいけれど頼りがいがあって、そんな父を支える母のことも尊敬していました。だから、高校生の時に海外への語学留学を“海外に女の子が行くのは危ない”と父に反対されても、素直に聞き入れることができました」

国内で勉強に勤しみ、母親の出身校であるミッション系の女子高から学年でただひとり、東大へ合格したというから努力家なのだろう。

「父は、自分と同じ大学へ進んだことを、とても喜んでくれていました。大学では、幼少期から続けていたバイオリンをやりたくてクラシックのサークルへ。サークル内にカップルもいたけれど、私は『学生の本分がありながら……』と思っていました」

「就活では、頑張ってきた英語を活かせる外資系企業も考えたのですが、父の反対もあり日系の通信企業へ就職しました。家賃補助が手厚い会社だったのでひとり暮らしをしようかと思ったのですが、“嫁入り前の娘がひとり暮らしとは何ごとだ”と父に諭され、田園調布の実家から通うことに。いくら家賃補助が手厚いといっても、バイオリンが弾ける防音室のあるお家までは借りられないので、父に従う事に違和感はありませんでした」

そうして真子さんは34年間、田園調布の実家から出ることなく過ごしたという。

「就職しても門限は21時のままで、社内の懇親会の時は少し気を揉みました。けれど、私のことを心配しているからこそというのが分かっていたので、そんな両親を心配させるようなことはしたくありませんでした」

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真面目で良い子なだけでは、婚活では勝てない。

「30歳を過ぎたあたりでしょうか……。お正月の集まりで、やんわりと結婚の話が出るようになって。母から“社内に良い人はいないの?”と聞かれて、困ってしまいました。社内結婚した人はいるけれど、どこでどうやってそんな運びになったのか、懇親会を20時過ぎに切り上げていた私には知る由もなくて」

真子さんが33歳の時、5歳下の従姉妹がお見合いで財閥系企業勤務の男性と結婚したのが、両親を刺激することとなる。

「叔母と母の会話から漏れ伝わってきた内容から察するに、父は、娘にお見合い相手も紹介できないことに、プライドを傷付けられたようでした。ほどなくして、老舗の結婚相談所へ入会する事に。入会金の30万円は、両親が払ってくれました。初めは、結婚相談所なんて……と抵抗がありました。でも、毎月10人、お会いしたい方を選べるというので検索してみると、同窓生で素敵な方がたくさん登録していて、うれしくなってしまって」

しかし、真子さんはなぜか表情を曇らせる。

「……楽しいと思ったのもつかの間、3カ月連続、誰ともお会いする事ができなかったんです」

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深窓の令嬢が、マッチングアプリにすがったら

両親から腫れものに触るような態度で接せられ、何とか自力で結婚して安心させてあげたいと思った真子さん。結婚相談所のデータベースにハイスペックな男性がたくさんいたことから、マッチングアプリにもハイスペックな男性がいるかもしれない、と登録してみたそうだ。

「けれど、マッチングアプリでも、こちらから100以上いいねをしても、ひとりもお会いできなかったんです」

そんな時に、オーランド・ブルーム似の男性とマッチング。すぐに英語でのメッセージが来た。

「“私はあなたのような知的な女性を探していました。優秀な大学を卒業して、キャリアを築いていて素敵です”という内容のメッセージをいただき、やっと私の良さを分かってくれる人と出会えた! 私の良さは日本人男性には分からないだけだったんだ!と思いました」

英語で返信をすると、“英語も堪能で、まさに僕の理想の女性だ。若くて綺麗なだけで語学力も無い女の子よりも魅力的だ”という甘いメッセージが返ってきたという。

「そこからは1か月くらい、毎日のようにメッセージをやり取りしました。“来月、日本に行って真子に会うのが楽しみだ”って」

しかし、日本に来る直前に、国の情勢の問題で銀行口座が凍結してしまったと連絡が入る。

「“どうしても真子に会いたいから、300万円貸してくれないか”って言われて。ずっと実家暮らしで貯金もありましたし、彼の役に立ちたいと思いました。海外送金の手続きが分からなかったので、銀行に勤める友人に相談したら、『それって詐欺じゃない?』と言われて……。その日の夜、友人が彼に問い詰めるメッセージを送ったら、彼のアカウントごと消滅してしまいました」

友人から、同じような手口で詐欺にあった人の記事を見せられ、ようやく現実を理解したという。

「ずっと、両親の言うことを守って真面目に生きてきたのに、こんな酷い目にあうなんて……私は何を間違えたんでしょうか?」

異性への免疫や戦略なくしてマッチングアプリに臨むのは、危険なのかもしれない。

 

次回は5月15日公開予定

馬越ありさ

東京都出身。慶應義塾大学を卒業後、メーカーで販売促進に従事しつつ、ライターとしても活動。

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