久しぶりの映画館、いま観ておきたい注目の映画をチェック!
Culture 2021.06.02
東京の映画館も営業再開のめどが立ってきた。哀愁漂う西部劇からアカデミー主演男優賞受賞作まで、いま劇場で観たい映画3本を厳選! 大きなスクリーンで、感動を味わおう。
不遇だったドイツの異才の、荒涼たる決闘ににじむ憂愁。
『デッドロック』
昔は映画や賭博で界隈が賑わった。いまは白茶けた砂漠の廃村。折れた腕をぶら下げた人の形の店看板が、ギイと砂煙に揺れる。残された住人は、鉱山の監督官と落魄の元娼婦、彼女の聾唖の娘ジェシーだけ。お尋ね者キッドと老ガンマンが流れ着く。愚かで欲深い男3人の化かし合いは、死闘となる。元凶はキッドが携えた鞄の大金だ。そこには1枚のドーナツ盤レコードも。そのレコード音楽がキッドとジェシーの一夜の恋や、「つわものどもが夢の跡」を増幅する。野蛮で神話的な熱砂の争奪戦に、砂が潤むように万感が湧き上がる夢心地!
監督/ローラント・クリック
1970年、ドイツ映画 85分
配給/オンリー・ハーツ、アダンソニア
5月15日より、新宿K’s cinemaほか全国にて公開
http://deadlock.movie.onlyhearts.co.jp
※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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歴史の泥の中で咲く音楽を、深く聴き分けられる人々へ。
『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』
グンダーマンは炭鉱で働くシンガーソングライター、人呼んで「東ドイツのボブ・ディラン」。気骨ある好男子だが、理想社会の実現と国外ライブの自由、という秘密警察の甘言に乗ってしまう。ディランが1960年代をリードした「反体制の旗手」となるのとは対照的に、グンダーマンは90年の東西ドイツ統一で内実が暴かれ、「体制のイヌ」に転落。彼も当局の監視対象だったのに。この非凡な音楽映画は、時代の激流に飲まれて逝ったピエロを、純心も悪心も音楽に溶かした表現者として救い出そうとする。
監督/アンドレアス・ドレーゼン
2018年、ドイツ映画 128分
配給/太秦
5月15日より、渋谷ユーロスペースほか全国にて公開
https://gundermann.jp
※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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虚実のあやふやな老境が、スリル満点の感銘を生む。
『ファーザー』
10年前のパリ初演の大成功を皮切りに世界に飛び火した舞台の戯曲をアンソニー・ホプキンスに「当て書き」し直した上、気鋭の劇作家が自ら監督した映画版。ロンドンで独居していた主人公は頑固ゆえか身辺のお世話係が居つかず、パリでの新生活を目論む娘の家へ。だが、室内劇が具現するのは、誇り高さと裏腹に記憶装置が故障しかけた老紳士のビジョンだ。ユーモラスな時空間の混乱が予想外の結末を招来し、胸をハッと衝かれる。「赤ちゃん返り」の演技が絶品。今春の米アカデミー賞作品賞、主演男優賞ほか6部門にノミネート。
監督・共同脚本/フロリアン・ゼレール
2020年、イギリス・フランス映画 97分
配給/ショウゲート
5月14日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
https://thefather.jp
※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
*「フィガロジャポン」2021年6月号より抜粋