フランス女優に宿る、美しく在ることの意義 アメリカ女性とフランス女性、それぞれのスタイル。

Culture 2021.07.01

ファッション撮影のスタジオで、映画祭のレッドカーペットで、数々の大物女優にインタビュー。美しき女性たちと交流を重ねてきたフランス版マダムフィガロ誌のベテランジャーナリスト、リシャール・ジャノリオがフランス女性の美を語る。


アメリカの女、フランスの女。デコルテと、黒いタートルネック。

一般論になりますが、アメリカ女性はシックではないがグラムール。フランス女性はシックでもグラムールに欠けることが多い。グラムールはハリウッドの発明で、シックはパリ生まれです。珍しく、両方を備えているのは英国女優のケイト・ブランシェット。衝立の向こうでささっと着替えて、レッドカーペットに現れると、まるで美の化身、女王のようです。

アメリカ女優はフェミニニティを過剰演出します。アメリカのレッドカーペットはやりすぎだけれど夢がある。対して、フランス女優はアンチスターを演じる。これはパリ左岸のインテリの影響です。アメリカ女優の腕を飾るのがダイヤモンドのブレスレットなら、フランス女優の手には本がある(笑)。セザール賞の授賞式はブラックドレスばかりです。黒はフランス女性にとって大事な色で完璧なシックですが、リスク回避ともいえます。でもアメリカ女性はクリエイティブで品の良さから外れることを恐れない。これは文化と歴史の違いですね。

フランス女性は世界にインスピレーションを与えてきました。ハリウッドがガブリエル・シャネルを呼び寄せたのも、フランスのアリュールを求めたから。フランス女性は最初にコルセットを捨て、抑圧を乗り越えた自由な存在だったからです。アメリカ女性のお手本がハリウッドのファムファタルやピンナップガールだとしたら、アプレゲール(戦後)のフランスには、マリリン・モンローの代わりに実存主義者とジュリエット・グレコがいました。デコルテの代わりに黒いタートルネックです。アメリカの女性たちは、結婚、子ども、きれいな家と外面の豊かさを求めた。フランスの女性たちは、自由と洗練を求め、快楽主義で、男女平等を主張した。シモーヌ・ドゥ・ボーヴォワールやフランソワーズ・サガンの国です。ふたりは、反乱する女(ひと)、自由を主張する女(ひと)、男に頼らない女(ひと)、自分の人生を自分で決める女(ひと)を体現しました。

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左:ケイト・ブランシェット 右:ジュリエット・グレコ photo:Bridgeman/amanaimages

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左岸の実存主義者の系譜を引く、パリジェンヌのスタイル。

インスピレーションを与える女性像に、パリジェンヌのイメージがあります。

女優なら、マリナ・フォイスや、最近人気のカミーユ・コタン。完璧な美しさとは違う、別の魅力がある。ちょっとした何かがセクシーで、どこか不完全だったり、傲慢だったり。弱虫じゃない、と感じさせる男っぽい面もある。ドヌーヴも「私は男っぽい」とよく言います。「カトリーヌ・ドヌーヴのような男になりたい」と言ったのはジェラール・ドパルデューです。サンドリーヌ・キベルランも、典型的な左岸のパリジェンヌ。痩せて背が高いブロンドで、6区に住んで週末はイル・ド・レに行く。ボボでクールなパリジェンヌそのものです。

完璧な中にちょっとハズしがあるのがパリジェンヌのスタイル。たったひとつの小さなファンテジー、奇抜さ、あるいは下品さを加えることでエレガントになる。いわゆる“パリジェンヌのツイスト”です。そして、エフォートレスとミックスを知っている。アクセサリーの加え方、無造作にする技。カロリーヌ・ドゥ・メグレシャルロット・ゲンズブールの、ちょっと尊大な感じ、無関心さ、自由さ。キアラ・マストロヤンニも、イタリア風味のスパイスを加えたパリジェンヌといえるでしょう。

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イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュも、クチュールに機能的なアイテムを合わせたり、洗練されたパンツにフラットシューズを合わせるなど、ミックスの仕方をよく知っている。でも彼女がモード界に現れた時は、決して正統派ではなかった。当時はブロンドの、凹凸のあるボディのモデルばかり。その中に、彼女は新しい風を吹き込んだ。「喋るモデル」とも言われた彼女は、文化的なバックグラウンドがあり、服を着るだけの存在ではなかったのです。

いまのフランスを演じる女優のほとんどは、複数のオリジンと文化背景を持っています。レイラ・ベクティリナ・クードリもアルジェリア系。ちょっと悪ぶったイメージのアデル・エグザルコプロス。彼女はジャージーにスニーカー姿でやって来て、パリのアクセントで喋る。でもドレスを着せてメイクすれば女神になってしまう。

ショートヘアでちょっとギャルソンヌなレア・セドゥもモダンな個性派。シャネルのエジェリのマリーヌ・ヴァクトも、クラシックな美しさの中に、自然で自発的で、モダニティがあり、人とは違う何かを感じさせる女優です。こうした、マルチカルチャーで多様な美が、新しい世代のパリジェンヌの顔です。

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Richard Gianorio
1968 年、パリ生まれ。フランス・ソワール紙でキャリアを開始。30年にわたりカンヌ国際映画祭を取材。15年前に仏マダムフィガロ誌へ。3年前より現職。写真は昨年1月、Sidactionのディナーで、モニカ・ベルッチ、イザベル・ユペールと。
@richardgianorio

*「フィガロジャポン」2021年7月号より抜粋
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interview & text: Masae Takata (Paris Office), photography: Richard Gianorio (Madame Figaro)

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