新しい時代、占いとどのように付き合うべき?

Culture 2021.07.21

古来、政においても取り入れらてきた占いが、いま、かつてないほどにもてはやされている。2020年から始まった「風の時代」と呼応するように、新しい時代の指針を求めて誰もが正解のない答えを探しているようだ。この変化の時代に私たちは占いとどう付き合うべきか、精神科医の香山リカと、フィガロジャポン編集部で占いページを担当する青木良文に話を聞いた。

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西洋占星術では約200年に一度の変革期となった「風の時代」が幕を開けたとされる2020年、奇しくもパンデミックという形で私たちの生活様式は一変した。いまだ先行きの見えない中、人々が占いに惹かれるのはなぜだろう。

「コロナ禍で計画が立てられない状況が1年以上続き、これまでなじんだプロセスでは答えが出ない中、未来を読み解く占いに人々が救いやサポートを求めるのは、とても自然なことだと思います」と、精神科医の香山リカは言う。占いが近未来を言語化するのに対し、精神科の現場では、クライアントの“いま“を読み解くことによって、深層心理を引き出すという。

香山:「占いに向かう人はそもそも心の中に答えがあって、占いはそれを引き出してくれる手段であると考えます。その人の思いを引き出すという意味においては、精神科のカウンセリングと似ている側面もありますね」

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巷にはさまざまなタイプの占いがあるが、うまく活用するコツはあるのだろうか。

香山:「占いは、ある程度都合よく取捨選択することも必要です。いまの自分に役立つこと、以前からこうしてみたいと思っていたことをズバリ言い当てられたら、そこは都合よく背中を押してもらえばいいし、『何か違うのでは?』と感じた診断は、さらっと受け流せばいい。占いも精神科のカウンセリングも、診断後にお金を払った時、果たしてそれに見合った価値があったのか? と問うてみることも大切です」

大事なのは、占い手やカウンセラーとの対等なコミュニケーション。一方的に占いを信じたり、カウンセラーに服従する関係ではコミュニケーションは生まれない。自分の考えや感性を否定する必要はないということだ。

香山:「占いで語られた言葉がいまの自分の人生にとって腑に落ちたら、そこからが始まりだと思うんです。ひとつのキーワードをきっかけに、そこから先は自分で物語を紡いでいく。そんなふうに占いを活用できるといいと思います」

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フィガロジャポンで17年間にわたり占い企画を担当しているエディター、青木良文は、占いの潮流をこう分析する。

青木:「ひと昔前は、どちらかというと恐怖心を煽るようなものが多かった気がします。いまは人々に寄り添うような流れを感じます。フィガロジャポンで長年星占いのページを執筆していただいている石井ゆかりさんは、いつも物語性があって、私的な感想ですが、読後にいつも高揚感があるんです」

断片的な言葉ではなく、大きなストーリーの中で占いを展開することで読者は想像の翼を広げ、自分なりの物語の続きを作ることができるのだ。

香山:「ひとつの物語として占いを理解した時に、人は高揚するのでしょう。そして、『私のやってきたことは間違っていなかった』と自己肯定ができるのでは?」

昨年来、世界は風の時代へと確実に変革期を迎えていると青木は言う。

青木:「これまでは、“努力“と“根性“によって自己実現できる時代だったと思います。しかし時代は変わり、努力と根性だけでは乗り越えられなくなった。いままでの価値観では頑張れなくて、鬱っぽくなる人も多い。新しい時代は、楽しみの中から自分の好きなことや得意とすることを見つけられる人が、うまくやっていける気がします」

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財を成し、多くを所有することがステイタスだった時代から、人との繋がりや情報に価値を置く時代へとシフトしている現代において、自分らしさはどのように見つければよいのだろうか。

香山:「昔は自分の役割が明確でした。女性だったら嫁、母といった役割をまっとうすることが大事だったけれど、いまはひとりひとりがどう生きるかが問われている。役割にとらわれず自分らしく生きるということは、いいことである反面、厳しさも孕んでいる。なぜなら“私らしさ“に対する明確な答えはないのですから」

自分らしさにとらわれるあまり、ひとつの価値を信じすぎるのも危険だという。

香山:「自分らしさって、もっと小さな生活の中にちりばめられたものの集合体なんだと思う。喋り方や表情、好きな食べ物、好きな映画、家事のやり方など、ありのままの自分がその人らしさに繋がっているのです」

価値観が揺れ動く風の時代にあって、いかにブレない自分を持ち続けるか、その一助になるのが占いであると青木は言う。

青木:「占いでポイントになるのが自己肯定や自愛というキーワード。時代の変化に対応しながらも、自愛の精神で自分軸を持つことが大切。メンタルが弱っている時も占いや風水で気持ちや環境を整えることで視点が変わり、よい変化に繋がると思うのです」

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日常生活でラッキーカラーやラッキーアイテムを意識することも、身の回りの気付きへのきっかけになる。

香山:「精神医学で“認知の歪み“という言葉があるのですが、マイナス思考に陥ると悪いことしか目に入らなくなります。カウンセリングではこれを修正するためにさまざまなアドバイスをするのですが、占いでいえば、ラッキーカラーを意識することでポジティブな面に気付くということも。たとえば、いつも会社で周囲の否定的な言葉しか耳に入らなかったのに、『お疲れさま』のひと言を肯定的に受け止められるようになった、といったように。普段はスルーしていた他人の肯定的な言葉も、『今日はラッキーアイテムを身に着けているから、何かいいことが起こるはず』と思うと、受け止め方が変わるものなんです」

星の巡りや月の満ち欠け、数字や画数など、占いは昔から人間の文明にとって大切なコミュケーションツールであった。人と人とのコミュニケーションが思うように取れないいまこそ、占いがあらためて見直されている。月を仰ぎ見ることで世界中の人と繋がれるように、占いには、人類が未来へと思いを馳せる、共通体験としての癒やしの役割もあるのかもしれない。

青木良文/ファッション&占いエディター
1972年、東京都生まれ。商社勤務を経て文化服装学院でファッショ ンを学んだのち、編集者に。現在、フィガロジャポンや madame FIGARO.jp でファッションと占いを担当し、数々の女性誌で占いペー ジに携わる。ディレクションやトークショーなど幅広く活動。
香山リカ/精神科医
1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒。立教大学現代心理 学部教授。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題を中心 にさまざまなメディアで発言を続けている。著書に『医療現場からみた新型コロナウイルス』、『大丈夫。人間だからいろいろあって』(ともに新日本出版社)など多数。

※『フィガロジャポン』2021年8月号より抜粋

photography: Takako Noel text: Junko Kubodera

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