占星術の「水星逆行」とは、いったいどういう仕組み?
Culture 2021.10.21
9月末頃から、いくつかのウェブサイトやSNSで、水星の運行に合わせて日常を送るアドバイスや、あるいは、最悪の場合を想定し準備をするよう勧めるような、控えめにいってもミステリアスな言い回しを目にしたのではないだろうか。このことについて説明していこう。
“水星逆行”とは? photo:Getty Images
「水星逆行」、または「水星逆行中」。まるで警告のようなこの言葉は、デジタル世代の占星術師や、占星術愛好家、インフルエンサーたちによって伝えられた。また愛好家の中には、騒動の期間を通り抜けるあいだ、それに合わせて日常生活を制限している人もいる。逆行中には重要な事柄について決断をしない人、スマートフォンをトイレに落としたことを水星のせいにする人も。これは信じるに値するのだろうか? 正確な事実をたどってみよう。
惑星の運行
「水星の逆行」という表現は占星術における考え方のひとつだが、太陽系の惑星の運行というリアルな現象と関わっている。念のため説明すると、太陽系の惑星はすべて太陽の周りを同じ方向に回っているのだが、その速度はそれぞれ異なっている。
この速度の違いが、地球から観測した時に一種の目の錯覚を引き起こす。「遠近法の効果によって、回れ右して引き返したように見えます」とリエージュ大学の天体物理学者であるヤエル・ナゼは説明する。「より詳しく言えば、水星は太陽から遠く離れ、また戻ってくるように見えるので、まるで方向を間違えているかのようなのです。これを“逆行”と言います」。ところが実際には、惑星は通常通りのリズムで太陽の周りを回り続けている。
例を挙げると、私たちが動いている電車に乗っていて、別の遅い電車を追い抜く時の錯覚と同じだ。遅い方の電車が後退しているかのように見えるが、そんなことはない。
---fadeinpager---
占星術の解釈
水星の場合、このいわゆる“逆行”の時期は年に3回、21日~24日間続く。「地球からだと、水星は年に3回、太陽からの距離が最大になる夕方に観測することができます」と天体物理学者は言う。直近では9月27日から10月17日まで、3回目の逆行が起こっていたところだ。
占星術は惑星の運行から解釈を引き出す。直行している惑星は行動を、逆行している惑星はどちらかといえば内省を促している。占星術では、水星はコミュニケーションを象徴する惑星。「逆行は誤解を招くこともあります」とパリの占星術師であるロランス・エリチエは言う。「だから逆行の期間はむしろ、熟考し、考えを練り上げ、瞑想の段階に入る方が良いでしょう」
この期間中は、契約を結ぶことを避ける占星術愛好家もいるし、小包の配達が遅れていることや国道の車両事故を水星のせいにする人もいる。元占星術師で『当たりすぎる占星術! 堕ちた占星術師の道のり』(1)の共著者セルジュ・ブレ・モレルは、同書の中で占星術の実用について風刺している。「占いの“解釈”と“結論”が混同されていて、条件付きなものが断定的なものへと変わってしまっています。私たちはまず惑星に原因を見つけ、それを人々の日常にどうやって落とし込むか自問し、それから“気を付けて。ああいったことやこういったことが起こるかもしれないから”となるわけです」
水星の運行は地球人の日常にまったく影響しない、と天体物理学者のヤエル・ナゼはきっぱり。「これは科学や天文学ではなく、信仰のようなものです。まさに、満月の夜には出産する人が増えるというのと同じです。世界中に数百もの出生の統計がありますが、いっさい証明されていないことです。しかしながら何百人もの医療関係者が固く信じ続けているのです」
(1)『L’astrologie, ça marche !... Trop. Itinéraire d’un astrologue déchu』Serge Bret-Morel、Elisabeth Feytit共著(La route de la soie出版)
text: Ophélie Ostermann (madame.lefigaro.fr)