櫻井翔×堤幸彦、スクリーンで蘇るあの瞬間と僕らの絆。
Culture 2021.10.21
あの5人が、帰ってくる──。
日本史上最大の動員数を記録した『ARASHI Anniversary Tour 5×20』が、ライブフィルムとして11月3日より劇場で公開。監督を務めた堤幸彦と、櫻井翔が語り合う。
2020年12月31日、国民的人気グループ、嵐が長い歩みに小休止を取った。TV番組や街中の広告で、彼ら5人が仲良く集う姿を当たり前のように眺めていた日々が、いまではとても遠く感じる。
そんな私たちに思いがけないギフトが届いた。ライブ映画という形で、5人がスクリーンに蘇る。メガホンを取ったのは、嵐の原点とも言える初主演映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARD だけど HAPPY』(02年)の監督でもある、堤幸彦。5万2千人の観客で埋め尽くされた東京ドームでのライブを、100台以上のカメラを使って撮影するという、前代未聞の試みであった。
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ライブという空間を、真空パックに閉じ込める。
──まず堤監督に。今回の映画で最もフォーカスしたかったのは、嵐のどんな部分ですか?
堤 この映画では、ライブにおける1時間近い5人のトーク、最も感情が表れるアンコール、このふたつをすべてカットしています。なぜそうしたか。それは観客のみなさんに、“歌って踊る”というライブの芯の部分だけで、真っ向から彼らと向き合い、いかに5人という人間を見つけられるか……。ちょっと言葉は乱暴かもしれませんが、125台のカメラを使った壮大な実験とも言える作品の中で、嵐を愛するみなさんに“見えないお土産”を持って帰ってほしい。それは撮っている時も、編集をしている時も、共通して思っていたことでした。
櫻井 僕は、“真空パックに閉じ込める”と表現したんですが、やっぱり映画って何年経っても、その時その時に楽しめて、毎回新たに感じることがある、そういうものだと思っているんですね。19年の12月23日という日を、僕たちは堤監督に閉じ込めてもらって、それをひとたび開ければ、音も映像も、香ってこそこないけど、匂いまで感じとれるくらい、臨場感いっぱいに蘇ってくる。メンバーの松本が中心になって構成した僕らのコンサートは、19年当時の日本最新の技術、最高峰のスタッフが集まって作った特別なライブだったんです。それを、他でもない堤監督が日本最大級の映画として撮影してくれた。記録ってすぐに乗り越えられちゃうものだと思うんですけど、その当時の最先端をこういう形で記録できたというのは、僕らだけでなく、スタッフや業界にとっても、非常に意味があるものだったんじゃないかなと思います。
堤 それがまたコロナの直前だったというところにも、何かひとつあるよね。
櫻井 結果そうですよね。まさかこんな時代になるとは、夢にも思ってませんでしたから。
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演者にとっても夢の時間。早く明日にならないかなって。
──コロナ禍において、誰もがライブという空間を恋しく感じていると思います。振り返って、櫻井さんにとっては、ライブとはどんな時間でしたか?
櫻井 演者の立場としては、ライブって本当に夢の空間なんですよ。あのような場所は、ほかにない。いくらテレビで収録しても、カメラの後ろにファンのみなさんがたくさんいるわけではないですし。1年に数日しかない、あの瞬間だけ夢の時間。東京公演だったら、自宅に帰って風呂の掃除もしなきゃいけないし(笑)。バスタブを洗いながら、早く明日にならないかな、って。
堤 ははははは。
櫻井 いち音楽ファンとして考えると、コンサートってその2時間半が夢であると同時に、チケットが取れたその日から、夢の始まりじゃないですか。早くライブの日が来ないかな、のワクワク感。観終わった後に友人同士で楽しかったね、と語り合う楽しみ。それらを全部含めて、僕はエンターテインメントだと思っているんです。コロナ禍における配信では、それが削ぎ落とされてしまう。2時間半そのものはお見せできるけど、前後のプロセスや余韻がない。でも、この作品を劇場に出向いて映画としてご覧いただくことで、その感覚が少しでも取り戻せたらいいなと思います。
さあ戦いに行くぞ、大切な人に届けるぞ、という思いが、いまは強い。より孤軍奮闘していますよ。
櫻井翔
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僕ら5人の夢は、嵐のコンサートを観ること。
──ステージに立っているご自身をスクリーンで観ている時、率直にどんなお気持ちでしたか?
櫻井 よく5人で冗談半分で話していたんですけど、「僕らの夢のひとつは、嵐のコンサートを観ることだよね」って。そんなの幽体離脱でもしなければ叶わないんですけど(笑)。客席から僕らのステージを見上げるカットが映画館のスクリーンに映し出された時に、それが叶ったように思えて。嵐ってこんな感じなんだ〜、わぁ〜って思っちゃった。非常に不思議な感覚でしたね。
堤 パフォーマンスしながら演出する人っているじゃない? 松本くんがまさにそうだけど、あれってどういう感覚なんだろうって、いつも思う。
櫻井 おそらくですけど、松本はステージに立った瞬間からもう演者なんですよね。だからブラッシュアップのためにダメ出しをする場合にも、後から何度も映像を確認しないといけないんだと思います。
堤 それは非常に特殊な才能だなって思いますね。嵐は、やはり日本で最大のエンターテイナーなんですよ。ひとりひとり、自分の見せ方も知っているし、5人でいることのメリットもよくわかっている。何より、お客さんのことをいろんな視点から考えている。そこから生まれた「動くステージ」やセットリストまで、すべてが考え抜かれている。やはり日本のトップを走っている存在だな、と。一方で、14、15歳から知っているメンバーもいますから、親戚のおじさん的な感情もある。甥っ子が歌ってはるわ〜という。そういう意味で、この映画は非常にオフィシャルな大作であり、僕的には究極のプライベートフィルムとも言えますね。
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お互い年を重ねても、常に“親戚のおっちゃん” 的な立場で会話できるといいなと(笑)。
堤幸彦
櫻井 堤監督に『ピカ☆ンチ』を撮っていただいたあの頃は、まだ嵐というグループが周知されていなくて。監督が、それぞれのキャラクターや意外性を引き上げて、掘り出してくださった。僕らにとっては恩人のひとりなんですね。そんな監督に、嵐のいちばん核となる“歌って踊る”というパフォーマンスを20年の節目に撮ってもらうというのは、恩師の前で行う最大の発表会のようでもあって、特別な緊張感がありました。
堤 櫻井くんは、暴走族「鮫洲一家」のヘッドだったもんね(『ピカ☆ンチ』での役柄)。
櫻井 僕は当時大学3年生くらいで。リーゼントにセットされた髪をほどくのが大変だったから、そのままの髪型で講義に出たこともありました(笑)。
堤 そう考えると本当に長い付き合いだね。
櫻井 そうですね。ただ長いと言っても、堤監督のように嵐の節目節目で、ご一緒させていただいている方は少ないかもしれないですね。
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堤 僕にとってはTVやCMで嵐を見ない日はないので。甥っ子たちが活躍しているな〜、と常に思っていましたよ。5人それぞれのフィールドにおける活躍は、本当に素晴らしくて。特に櫻井くんに関しては、キャスターという立場において、日本の報道の中にはほかにいない、稀有な存在ですよね。独特な個性で、しかもそれが押し付けがましくない。さっきもブレーンがいるの? って聞いてしまったけど(笑)。
櫻井 そんな人はいません(笑)。そんな時間もないです(笑)。
僕にとっては、節目節目で必ず5人の成長を見てもらう、恩師のような、そんな緊張感ありますよ。
櫻井翔
堤 いや〜、本当に感心していて。嵐は全員が、めちゃくちゃ遠くて近い存在なんですよ。言葉を変えれば、イメージを固定化させない。日本のエンターテイナーとして、いちばんいい現象だと思います。「甥っ子がスター」という感覚。それは私だけでなく、日本中の誰もがそういう気持ちで彼らを見ている。だから、余計な部分は要らないんです。パフォーマンスの合間に見せる表情や、腕を掴む、肩を組む。そういうことがあれば、嵐として伝わっている。一方で、撮っても撮っても撮りきれない深さもあるんですけどね。
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涙を滲ませ、綴った、メンバーへ贈った歌詞。
── 櫻井さんとしては、映画のどの部分をいちばん観てほしいですか?
櫻井 ……。
堤 (櫻井が考えていたら)やっぱりあの足元でしょう。ペダルを3つ使うというピアノの技。私へのリクエストが、足元を映してほしいだったから。
櫻井 見る人が見たらわかってくれる箇所ですね(笑)。それはもちろん観てほしいですが、そうですね〜、最後に流れる「5×20」ですかね。当時曲をリリースする段階では未発表でしたけど、僕らの中では活動休止が決まっていて。そんな中で描いたラップリリックだったので、誰がどのパートを歌うかを考えながら、こんな話するのもなんですが、泣きながら書いた歌詞だったんです。それを歌っている時の、僕のというより、5人の表情を観ていただけたらと思います。
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── あらためて映画をご覧になって、あの頃と現在で、気持ちや価値観の変化はありましたか?
櫻井 僕自身は、まず身近な人が喜んでくれる、身近な人にありがとうって言ってもらえる、そんなことをひとつひとつ積み重ねていきたいと、より強く思うようになりました。ファンの人も含めて届けたい人にしっかりと届ける、その外側で起こるハレーションは厭わない。より孤軍奮闘している、さあ戦いに行くぞ、大切な人に届けるぞ、って気持ちがいまは強い。わかんない、来年は違うこと言っているかもしれませんけど(笑)。
堤 櫻井くんはニュースキャスターからラップスターまで幅広い顔を持っているけど、いまの発言はラッパーとしての側面だよね(笑)。
櫻井 確かに、そうかもしれませんね(笑)。
1982 年1月25日生まれ、東京都出身。99年に嵐としてデビュー。以後、歌手、俳優、キャスターとマルチで活躍を続ける。2018、19年にはNHK「紅白歌合戦」の司会を担当。現在も、「news zero」(日本テレビ系)、「櫻井・有吉 THE 夜会」(TBS系)などレギュラー番組も多数。
1955年生まれ、愛知県出身。「ケイゾク」(99年)、「池袋ウエストゲートパーク」(00年)、「TRICK」(00〜14年)シリーズなどヒットドラマを続々と生み出し、映画化された作品も多数。近年では『望み』(20年)、『ファーストラヴ』(21年)など、話題作を多数手がけている。
『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories” 』
2019年12月23日、東京ドームで行われた嵐20周年ツアー『ARASHI Anniversary Tour 5×20』を堤幸彦監督が撮影。名曲の数々を映画館で体感できる。
●監督/堤幸彦
●出演/相葉雅紀、松本潤、二宮和也、大野智、櫻井翔
●2021 年、日本映画 148 分
●配給/松竹
●11月3日よりドルビーシネマ限定先行公開、11月26日全国公開
https://recordofmemories.jp
*「フィガロジャポン」2021年12月号より抜粋。
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editing: Sachico Maeno